The last wars
プロローグ
20世紀
人類は二度の世界大戦を経験し第二次世界大戦では四千万もの命が失われ、人類の記憶には戦争の悲惨さが刻み込まれた。
第二次世界大戦後にはソビエト連邦を中心とする東側陣営とアメリカ合衆国を中心とする西側陣営に分かれた冷戦を生んだ。
世界各地で代理戦争を生み、当事者同士も全人類どころか地球という生命のゆりかごその物を破壊できるだけの数の核兵器を突き付けあう時代が続いた。
代理戦争が小国を痛めつける一方軍事・経済の大国は束の間の平和を享受していた。
だがその冷戦もソビエト連邦の崩壊によって終わりを告げることとなる。
そして21世紀は人類が戦争という呪縛から解き放たれ真の平和を築く世紀だとだれもが願いそして信じた。
だが21世紀最初の年にその期待は脆くも裏切られた。
2001年9月11日
太平洋戦争以後世界一の軍事力によって守られてきたアメリカ本土が初めて攻撃を受けた。
同時多発テロである。
この一撃により翌年アメリカはアフガニスタンとの戦争に踏み切り、さらに2年後にはイラクとの戦争を始める。どの国も、国連さえもアメリカを止めることができずアメリカは中東地域に軍を派遣し続け自らの正義を貫こうとした。
多くの犠牲を出しながらもアメリカは戦い続けた。否、戦いつづけるしかなかったのだ。
だが今にして思えば、アメリカが戦争に踏み切った時に世界の歯車は狂い始めたのかもしれない。
終わらない戦いと嵩む戦費、
それに加えてサブプライム問題に端を発する世界的金融危機、
後に第二の世界恐慌と呼ばれるこの危機は世界各国に大きな傷を負わせた。
それでも世界中の国が最悪の事態を回避するために必死に努力した結果、世界的金融崩壊だけは避けることができた。
だが金融危機が終息に向かい始めた時点で、すでにアメリカには世界の警察官たる地位に居続けることが困難なほどのダメージが蓄積していた。
パクスアメリカーナの崩壊、それはつまりアメリカによって守られてきた戦後秩序の崩壊を意味する。
これに恐怖を覚えたのはアメリカと同盟を締結している諸国、特に日本に与えた衝撃は大きかった。
だがこの状況に際しても日本政府は国防を日米同盟に依存している体制を変えようとはしなかった。
曰く
「この情勢下で防衛政策を転換することはアメリカとの長きにわたる信頼関係を損なうものである。また戦後60年にわたる同盟・信頼関係はこの程度で揺らぐほど脆くはない」
とのことだった。
確かに耳障りはいいが毎年二桁以上の伸び率を示す中国や、いまは衰えているとはいえ核兵器や空母をはじめとする強力な海軍を有するロシアなどを隣国に持つ日本にとっては現実を無視しているとしか言いようがなかった。
しかし日本の政治家はこの意味を考えようともせず、国民もまたそれを問題にもしなかった。
そして2011年
この年には世界に二つの衝撃が走った。
最初の衝撃は2009年に第44代アメリカ大統領に就任した民主党のエイブラハム=クロフォードだったが混迷を続ける中東情勢を回復させることができず2009年の年末に行った一大掃討作戦も戦費の無駄遣いに終わり財政にさらなる負担をかけただけだった。
そして悪化する財政対策として現在アメリカが結んでいる同盟条約を1年から3年を目途にすべて破棄し、世界の警察官たる地位から退くことを宣言したのだ。
人類のために戦った
――少なくともアメリカはそう思っていた――
にも関わらず世界中から非難を受け続けることに嫌気がさしたのかもしれないがとにかく、これでパクスアメリカーナの崩壊は確実になった。
日本などの同盟国は同盟の継続を求めて採算にわたる会談を重ねたがアメリカは首を縦に振ることはなかった。
そしてもう一つの衝撃は北京オリンピック景気にのって反映を続けると思われた中国経済の突然の失速だった。
その様はバブル景気に沸いた日本が一瞬のうちに破たんしたのと同じだったがその規模は比べ物にならずその影響は世界中の経済に大なり小なり影響を与えた。
幸い90年代のバブル崩壊の経験があった日本は政官民が連携して対応したため金融危機の被害は最小限にとどまり、先読みのできる欧州企業はかなり早い段階で金融危機から脱したが、中国では無理な景気刺激策が裏目に出て今まで蓄えて富が外国に向かって流れた。
さらに経験の浅いアジアやアフリカの新興国は血眼で投資した巨費が一夜の内に紙屑同然になるという手痛い損失を受けた。
一方中国にかなりの額を投資していたロシアも無視できない損失をうけたものの、早い段階での対処が功を奏し、またそれよりも大きな幸福があった。
カスピ海の西にあるカフカス山脈の北側の地層にかなり大規模な油田が発見されたのだ。
その埋蔵量は推定でも400億バレルとみられこれだけでもロシアは対中国貿易での損失を埋め合わせるのに十分だったのだ。
経済の回復へと向かうロシアとは対照的に経済の立て直しに失敗した中国ではいよいよ経済政策に行き詰まり国家が使ってはならない最大の禁忌に手を伸ばすことになる。
かつて欧米列強の影におびえた新参者であった日本が手を出してしまった暴挙、すなわち政治の失敗のツケを戦争によって取り返すという最悪の選択であった。
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