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繋がり(6000hitリク、鬼+春)
一緒にいられる事を

どれほどまでに夢に見ただろう


《繋がり》


「ーー春奈」

その声で、私の名前を呼んでほしいとどれほど願った事か。
側にいて、優しく微笑んでいてほしいとどれほど思っただろうか。



晴れ晴れとしたこの日、青い空に響くようなボールを蹴る音が今日もグラウンドに鳴り響く。
こうして過ごしているのには心地良い程の気候も、きっとボールを夢中で追い掛けている彼らには少し暑すぎるくらいに感じるのだろう。
そんな暑さもものともせず、泥んこまみれになりながらも必死にボールを追い掛けるそれぞれの姿を見ていると、何だかうらやましくなる。

「…あ」
ヒラリ、と軽々フィールドに舞う青いマント。
パシッとパスボールを受け取ったその姿に思わず小さな声が漏れる。
ドリブルしながら周りに的確に指示を出すその姿に自然とくぎづけになる自分がいる。

鬼道有人。

元帝国のキャプテンで、天才ゲームメーカーと言われた中学サッカー会で一目を置く存在の一人。
そして…何より私の実のお兄ちゃん。

お兄ちゃんが雷門中に転校してきてからすでに数日経った。
意外とすんなりと雷門の皆さんと溶け込んだ様子には、妹ながらに少し安心したのを覚えている。
生き生きとサッカーをする姿は、再会したころの威圧感みたいのは感じられなくて、ようやく自分のサッカーを取り戻し始めた…そんな気がする。


「はい、休憩ーっ!」
隣で時計を見てから立ち上がった木野先輩の声がそのグラウンドに響き渡る。
汗を拭きながらベンチに近付いてくる皆さんを視界にいれてから、ベンチに置いてあったクーラーボックスに手をかけた。
「皆さーん、アイス買ってありますよー」
「一人一つずつ、順番に取りに来てーっ」
途端、嬉しそうな顔をしてから物凄い勢いでベンチの周りにたむろう皆さん。
我先にと手を伸ばす皆さんに「ほら、押さないの」と言う木野先輩や「まったく…まだまだ元気そうね」と呆れ顔で呟く雷門先輩にこっそり笑ってから人だかりの後ろへと目を向ける。
育ちのせいなのか、それとも元々の性格からなのか、他の皆さんに圧倒されたようにポカンと見遣る兄の姿。
まったく、と言いたげな苦笑を見せてからそのまま木陰へと足を向ける様子に、あ、とその場を離れた。

「ーーはい、お兄ちゃん」
「っ?!は、春奈?」
私が来たのが予想外だったのか、ゴーグルの向こうで目を見開いている。
はい、と差し出したアイスと私の顔を交互に見てから「すまない」と受け取る。

木の幹に背を預けてアイスをくわえる兄と同じように木に寄り掛かって並ぶ。
さわさわと木の葉がかすれる様が、地面に写る影で見ているようにわかる。
「…懐かしいね」
「ん?」
「ほら、昔こうして並んでアイス食べたじゃない」
昔、孤児院にいた頃、施設の外の木陰に仲良く座って食べた事を思い出す。
嬉しそうに食べる私を、優しい眼差しで見つめていてくれたあの頃のお兄ちゃん。
こうしてあの頃のように並んで木陰にいると、あの時の事がつい最近の事のように思えるから不思議だ。
「…懐かしい…な」
クスッと口元を緩めてそういった言葉には、あの頃と同じ優しさがある。

そうだ、私の大好きだった兄は今もこうして私の隣にいるのだ。

一時期は別々に住むようになってから、兄の人が変わってしまった…もうあの頃の兄はどこにもいないんだ…って思ったりもしたけれど。
誤解が解けた今、私が探し求めていた大好きな兄が目の前にいてくれるのだ。

「…あ、お兄ちゃん。ほら、頬に泥が」
言いながらハンカチで拭いてあげると、びっくりしたような顔をしてから、
「そうか、悪いな」
ありがとう、と笑いかけてくれる。

そういえば昔もこうだった。
よく、いじめられていた私を一人で庇って。
ボロボロに泥だらけになりながらも必死に守ってくれた。
心配そうに濡れたタオルを宛てると驚いた顔を直ぐに笑顔に変えて。
「大丈夫だ、心配するな」と言っているようなその笑顔にいつも守られていた。
あの時…包み込むように私の手を握ってくれた温かさ、今も忘れず覚えている。

数年間開いてしまった私達の時間は、ぎこちない溝を作ってしまったけれど、今はまた少しずつその時間を取り戻すようにお互い、歩み寄っていけるから。
あの頃のように何一つ隔たりなく兄妹として笑い合えるように。

だって、あの温もりを持った人は今こうして隣にいるんだもの。
ずっと遠くに感じていた手が今はこんな近くにある。
近くにいられることがこんなにも幸せなんて…。

「…お兄ちゃん」
そっと柔らかな風に揺れるマントの端を握って軽く引く。
驚いたようにこちらを向いた顔には、今だかつてのような幼さが残っていて。
「お兄ちゃん、大好き!」
嬉しくて、嬉しくてそう唐突に言った私をほうけたように見て。
でも直ぐに優しく綻ばせた笑顔でくしゃりと頭を撫でてくれたのだった。



取り戻せたものの価値は

求めていた以上の尊さがある



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鬼春です鬼春。鬼春と言うより、鬼+春的な文章になってます。
仲良し兄妹文を目指して、二人が近付いていく様をどうやって書こうか悶々してた結果がこれなんです。
うーん、仲良し…になってますか?

鬼春の二人には、公式でもっともっと絡んで欲しいですよね!周りがカプと間違えるくらい堂々といちゃついて欲しいです!

6000hitキリリクで、「雷門に来てすぐの鬼道さんと春奈ちゃんのお話」でした!
冬氷様、仲良しな話になってますかね?これでよろしければどうぞです!


2009.9.11

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