言葉(相互御礼、円鬼) 言葉で言い表せない程の事だから 私はそれを自分の全てで言い表しましょう 《言葉》 『好き』と『嫌い』 それは言葉にするにはあまりに簡単な事だけれど、それを誰かに伝えるには凄く難しい事なのかもしれない。 「なあ、鬼道」 広い、広い鬼道の部屋でくつろぐようにソファーに寝そべりながら、俺の頭と並ぶように座って雑誌に目を向ける鬼道に声をかけた。 こうして鬼道の家に遊びに来るのは何度目の事だろうか。 最初は物珍しさから少し落ち着かなかったこの広い空間も、今では馴染んだように落ち着ける。 …しかし落ち着けど、こういった広い部屋にいると何だか普段考えなくてもいい余計な事まで考えてしまう。 「…何だ?」 不思議そうにゴーグルごしに視線だけをこちらへと向けて尋ねる鬼道。 その視線が、いとも簡単に雑誌から俺に向いた事を嬉しく思ってしまう。 「なあなあ、『好き』と『大好き』の違いって何なのかな?」 「は?」 鬼道にしては珍しく、抜けたような声が聞こえてきた。 「何…意味のわからない事を言っているんだ?」 「あれ?俺、結構真面目に考えて聞いたつもりだったんだけど?」 呆れたように雑誌を閉じて、上から寝そべる俺と視線を合わせる。 「…好きなものの中で、さらに特別なものが所謂『大好き』にあたるんじゃないのか?」 どうやら俺がマジで聞いているということが理解できたのか、鬼道なりに真面目に考えてくれる。 そういう律儀なとこ、鬼道らしいと思う。 「どのくらい特別だと『大好き』になるのかな?」 「知るか。そんなの人それぞれだろう?」 人それぞれ……。 確かにそうかもしれない。 一人一人に備わっている感情の量りなんて、きっと人の数だけ違いがあるのだろう。 多分それは、俺と鬼道でも言える事で。 「…大体、何なんだ?いきなりそんな訳のわからない話…どこから出てきたんだ?」 くしゃりとなぜるように鬼道の手が俺の前髪を柔らかく掻き分ける。 その手にそうされると、スゲェ幸せな気分になれるんだ。 「いや…あのさ、俺鬼道の事好きだなーって考えててさ」 もう片方の手で雑誌を持っていた鬼道の手から、バサッと音を立てて雑誌が床に落ちた。 ギシギシと音がしそうなくらいぎこちない動きでこちらを凝視したまま固まる鬼道の目は、ゴーグルの向こうでこれでもかっていうくらい見開かれていて。 「でさ、そう考えてたら俺どのくらい鬼道の事好きなのかなーって考えてさ。で、それを言葉で表わすとしたら何て言ったらいいのかなって思ったんだけど………って、あれ?鬼道?」 途端、さっと頬を赤く染めて何か言おうとしているのか口をぱくぱくと閉じ開きしている。 「あれ、ひょっとして俺…何か変な事言った?」 「お、おまっ…!あ、明らかにおかしいだろう!」 抱えるように頭に手をあててうなだれ出した鬼道の様子が気になって、体を起こしてちゃんと横に座り直す。 「だって、そういう感情ってちゃんと伝えた方がいいだろ?」 相手を思う想いが強ければこそ、尚更に。 俺には鬼道が大事で。 誰よりも、誰よりも大切で。 だからこそ、これだけ大きく自分の中で芽生えた想いを相手に伝えてあげたくて。 でも俺は不器用だから、まして鬼道みたいに頭良くないから、上手く伝える方法も言葉も思い付かなくて。 「鬼道の言った考え方でいくと、俺にとっての『大好き』はきっとサッカーなんだろうなって思う」 俺の量りで示される『大好き』の基準。 「あとは、家族とかサッカー部の皆とかもきっとそれに当て嵌まるんだろうなぁ」 大事なもの、特別なもの。 そう考えると、俺には『大好き』なものが結構沢山あるんだなぁって実感できる。 それって案外幸せな事かもしれない。 「でもさ…鬼道に対しての気持ちを表そうとすると何か違うんだよなー…って思って」 もやもやとかすれたように見えない言葉表現。 「好きとか大好きは…違う気がするんだよな…」 「…え?」 ぽつりと呟いた言葉に、表情を歪ませる鬼道。 何かショックを受けたようなー…… 「あ、違う違う!そういう意味じゃなく!もちろん鬼道の事は大好きだぜ?いや、あのだからそうじゃなく…」 ああ、もうどうしてこうも自分の頭は上手く回ってくれないのか。 もっと手際良く動いてくれれば、答えを導き出せるのに。 「うー…何て言うか、そういう言葉で言い表せないっていうか…。好き、大好きなんかじゃ足りないくらい想ってるのにそれをどう言ったらいいのかわからないっていうか…えーっと…」 「………いい」 「え…?」 「……もう…いい…」 もどかしさと奮闘する俺に割り込むように聞こえてきた消え入るようなか細い声に視線を向けると、ソファーの上で膝を抱えながら顔を埋めて丸くなる鬼道がいて。 その膝や腕で隠れた顔からわずかに覗いた耳が驚く程に真っ赤になっていたのだった。 言い表せない程、愛おし過ぎて仕方ない それが『愛する』と言う言葉の原理 ************** 何か受信しそうなくらい電波な文章になってしまいましたね。 ちょっと意味不明なやり取りの円鬼の二人。 円堂はいつもこんな感じで無意識に直球ダイレクトに愛情表現ぶつけてきて、毎度毎度鬼道さんはそれにたじたじにされてやられっぱなしになっていればいいと思います。 相互御礼にと言う事で円鬼文と言う事でしたが。 すみません、なんか不思議な文章になってしまいましたが、神亜様、これでよろしければ受け取ってやって下さい。 ありがとうございました。 2009.9.6 [*前へ][次へ#] |