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魅入り(1500hitリク、円鬼)
まるで向こうから腕を引かれたように

そのものに魅入られてしまった。


《魅入り》


『ーー鬼道!』

その声で名前を呼ばれる事が
いつからか、どうしようもないくらいの心地の良いものになっていた。



ーーある日、俺は夢を見た。

真っ暗な闇の中、一人その闇に囲まれるように佇んでいて。
ただの闇ではない、直ぐ目の前でさえ何も見えないような監獄の闇。
どこまで続いているのかもわからないその漆黒は、何故だか不思議な威圧感と息苦しさを覚えて体を硬直させる程だった。

別に体が拘束されているわけでもない。
まして檻に入れられているわけでもないのに、全くその場から動けない。
自由なのに逃げられない、そんな感じた。

そもそも、このどこまで続いているのかさえわからない闇の何処へ逃げるのか。
肌で感じる威圧感を受けて、はっ…と小さく呼吸を繰り返す。

俺は…俺は、これに似た威圧感を知っている。
これはまるで、影山に管理されていたころのあの感じだ。

思い出す悪寒に、思わずよろめきそうになる。
ーーが、


『鬼道!』


パシッと手首を掴まれた。
引かれるようにされたそれに反応するように振り向くと、そこにはー…

「円ど…」



ー…と、自分の声で目が覚めた。
一体何だったんだろう。
闇に捕われていて、それを助けてくれたのが円堂で。
…夢とはいえ、何で円堂なんだ?
そう思ったのを覚えている。


ーそうだ、この時は自分でもまだ気が付いていなかったのだ。



「…ん?鬼道、俺の顔に何かついてる?」
部活が終わった後、部室で日誌を書いていた円堂が、ふと顔を上げて尋ねてきた。

今日は他校と練習試合があったせいか、皆疲れていて帰宅していくのがいつもよりも早かった。
散り散りに部員達が帰って行く中、円堂はまたあの練習場所へ向かう予定だと聞いて、俺も付き合うと申し出た。
純粋に練習に付き合うという理由もあったが、何よりまたコイツが無茶しないか多少は心配だったから。
少しずつ、空から差し込む日の光のコントラストが変化していく中、誰もいない部室でこうして日誌が終わるのを待っていた。

「…いや、見ていたつもりはなかったんだが…。すまん、ぼーっと考え事をしていたんでな」
言われて初めて気が付いてその事を謝罪すると、円堂はキョトンとした顔を、ニッと綻ばせた。
「ん、別にいいよ。嫌じゃないし。つーかさ、めずらしいな、鬼道がぼーっとしてんの」
そうか?と傾げると、そうだよと笑って再び日誌に目を向ける。

…しかし、コイツは本当に元気な奴だ。
部活の後だろうが、試合の後だろうが変わらずあの笑顔を見せ続ける。
今日の試合中だって、相変わらず仲間の皆を励まし、出される言葉一つ一つで皆の士気を高め、皆を一つに纏めていく。
本人は無自覚だろうが、その言葉のどれもが俺達を励ましてくれているのだ。
だから俺はそんなコイツをいつも見てー……

……いつも?

思わず、口を塞ぎたくなった。
別に声に出したわけでもないのに、何を焦っているのか。
自分でも気付かなかった。
俺はそんなにいつも円堂を見ていたのか?
自分で言っておいて、その事実を目の当たりにした途端、不思議と体が熱くなるのを感じた。
別に、ライバルで仲間で認めた相手である円堂を見ている事なんておかしい事じゃない。
なら、何故自分はその事にこれほど焦っていて、これほどまでに恥ずかしいと思っているのか。

「ーよしっ!終わった!」
ガタンと椅子を引く音に、体がビクリと強張る。
そんな俺に気付かず、腕を上げて伸びをしている円堂に内心ホッとする。

…まったく、今日の俺はどうかしている。
別にやましい事があるわけでもないのに、先程から何を困惑しているのか。

考えを振り払うように小さく首を振って立ち上がり、円堂の側へ向かう。
「終わったのか」
「おう!待たせたな」
「いや、いい」
じゃあ行くかと立ち上がる円堂を見てから自分も踵を返す。


ーーと、その時だった。


「鬼道っ!」

あの声で自分を呼ぶのが聞こえて。

あの夢のように、パシッと手首を掴まれて、そのままグイッと後ろへ引っ張られる。

瞬間、何が起こったのかわからなかったが、鈍いドサドサっという音の後に、自分の目の前の床にはロッカーの上にあったのか、いくつかの段ボールやら何やらが落ちていた。

そして、初めて自分の状況に気が付く。

しっかりと掴まれた手首。
自分を助けようとして引いてくれたのか、もう片方の手は自分の腹部から腰にかけて抱き抱えるようにしっかり回されていた。

理解した途端、ぶあっと体が熱くなる。

な、何だこれは?
掴まれた腕も、回された腕も自分と変わらない体格の割にはしっかり大きな手をしていて。
触れられた部分から、火傷しそうなくらい熱が上がるのがわかる。
「ふう、危ねえ〜。ギリギリセーフ。鬼道、大丈夫?」
安堵したような声が、左肩から首筋をスッと掠める。

やめてほしい。
こんな状態で、こんな近くでその声で名前を呼ばないでほしい。

ギリギリのところで保っている感情が、いとも簡単に打ち崩されてしまう気がするから。

ああ、もう何なんだ。
本当に、今日の俺はおかしいのかもしれない。
高鳴る胸をごまかすようにギュッと目を閉じる。

ごまかすなんて、本当はできない事くらい知っている。
どうしようもないその感情に、自分でも気が付いてしまったから。

「…あ、悪い」
円堂も、いつまでも俺を後ろから抱き抱えるこの態勢に気付いたのか、ぱっと手を離す。
離された手に、安堵と…何故か寂しさを覚える。

照れたように笑う円堂のほほも心なしか赤かったが、俺はもっとどうしようもないくらいに真っ赤なのだろう。

床に落ちたものを拾い上げて元に戻す円堂にわからないように、ギュッと胸を掴む。

どうか、この高鳴る鼓動が伝わらないでほしい…と。

「よし、じゃあ行くか」
無邪気な笑顔を再び向けた円堂に苦笑して、小さく頷く。

気付いてしまった感情には戸惑いはあるけれど、どこか嬉しく思うから。


無機質な音を響かせて開かれた部室の扉から、不思議と大きく見えるその背中に向けて笑顔を零した。



…それに惹かれた事が

何よりも嬉しく思う。





**************

凄くもやもやした鬼道さん書きたかったんですが…中途半端な感じになってしまいました。

円←鬼な感じにとの事でしたので、こんな感じになりましたが。
お互いがお互いもだもだしてるの萌えますよね。あれ?私だけですか?

1500hitキリリクで、円鬼で「抗えない円堂の引力に対して、戸惑い込みで惹き付けられているのを自覚する鬼道さん」でした。
ちょっとリクエストとズレたかもしれません。あああ、すみません。
里哉様、これでよろしければもらってやって下さい。


2009.8.4

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あきゅろす。
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