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思い出語りD  〜格納庫にて〜
私が彼女に逢ったのは、地上ではなく宇宙(ソラ)でした。

彼女の上官が率いる第八艦隊。

私と私の兄弟機は、そこから彼女のいる艦へ

支援物資と共に搬入されたのです。

搬入時、私達は驚きました。

ブリッジにいるのが当たり前の艦のトップ。

そのトップ自らが格納庫で私達を待っていたからです。

彼女は ――艦長は若い女性でした―― 榛色の瞳を嬉しそうに輝かせ、

チラチラと私達に視線を送りながら受領書にサインしていました。

"どうやらこの人間は自分達に興味が有るらしい"

私と私の兄弟機は目配せしあいました。

今まで、こんな目で私達を見るのは整備士に限られました。

機械相手に本心から興味を持ち、親しみを込めて見つめる人間。

まさか歴とした新造艦の艦長に

そうした人物がいるなど、思いもしませんでした。

ホンの少しの時間、嬉しそうに私達を見つめていた艦長でしたが、

責任ある彼女が搬入現場にのんびりいられる筈もありません。

そもそも艦長がこんな場所にいるべきではないのです。

正に後ろ髪を引かれる表情を浮かべながら、

彼女はブリッジに上がっていきました。

後に残ったのは

彼女と共に私達を出迎えた蒼い瞳のパイロットと

無精ひげを生やした整備主任の2人。

男達は未練げに振り返る彼女を見やり、苦笑いしているようでした。


この時の男の様子が印象に残りました。


男はとても暖かな視線を彼女の背中に送っていたので。



男が常にそうした視線で彼女を見つめている事に、

私は後から気付く事になるのです。





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あきゅろす。
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