[通常モード] [URL送信]

夢現
人生初ライブは大成功

あれから取りあえず人が多そうなところに向かって、店とかがあって賑やかっぽい通りに出た。
 
なるほど、大道芸人っぽい人もちらほらいるんやね。営業妨害になっちゃ悪いからもうちょっと離れるか。
 
あ、いいスペース発見。ちょっとした空き地になっとって往来の邪魔にもならなそう。
 
しかし相変わらずあたしの服はジロジロ見られるな。でも外国人って設定なら問題ないやろ? それ以前にこれ夢やし。

つーかこの人たち何人設定なん。中国人? 顔立ち日本人っぽい気がするけどさ。あ、アレか、中華ファンタジーか。うん、納得納得。
 
空き地に腰を下ろして、お金入れてもらうざるの代わりにバッグの口を大きく開いて前に置いた。中に入っとった物はちょっと出しとこう。──よし、準備OK。
 
選曲はいかが致すか。やっぱジブリ? だってあんまりアップテンポなやつはちょっとねえ。この世界にはジブリがないって設定なら丁度いいんやない?
 
じゃあ、最初はラピュタの主題歌でいきますかね。


* * *


彩雲国の都、貴陽には今日もたくさんの人が出入りをしていた。

人が集まれば物が集まり、物が集まれば金が動く。それを目当てに集まるは、善人悪人放浪人。都で一旗揚げようと、行商や旅芸人もやって来る。
 
今日、その中でもひときわ人目を集めたのはひとりの少女だった。

見たこともないような衣を纏い、聞いたこともないような歌を歌う、おそらくは異国からやって来た十七、十八ぐらいの女の子。
 
耳慣れない言葉に不思議な響き。風に乗って通りの向こうまで流れる歌声に街の人々はふと足を止め、彼女のいる空き地は徐々に人で埋まっていった。


* * *
 
 
この国にはカタカナ語がないって設定らしいことがよーくわかりやしたぜ。ていうか何で? めっちゃ不便やないの。ナイフとかランプとかカーテンとかいちいち説明せないかんくなるこっちの身にもなってよ。あたしの夢なのにホント融通きかんのね……。

そしてまさかの「地球がまわる」のフレーズが通じんって展開。なんですかこの世界は。未だに天動説だとでも言うんですか。設定細かいな!
 
まあそのあたりの面倒臭さを除けばジブリの歌は好評やったみたい。なんか人いっぱい集まってきたし。さっき会った兄妹もちらっとおったみたい。
 
しかし儲かった儲かった。この世界の金の単位はよう分からんがかなり儲かったってことは分かる。さすが夢。こういうことは思い通りになるわけね。
 
ああ、そろそろ夕方だ。あたしも歌い疲れてきたし今日はこれでおしまい。

「お粗末様でした」
 
ぺこりと頭を下げるとやんややんやの大喝采。わ、ちょい恥ずかしい! だってあたしそんなに上手くないはずなのに! それともあれか、夢の中やけあたしの歌も現実より上手くなっとるんかも。多分そうなんやろうな。
 
夕飯の準備とかがあるのか、皆さんちょっと駆け足で帰っていく。

あたしもお腹すいてきたなー。夢の中なのにお腹すくとかちょっとびっくりやけど。
 
でもお店の場所とか全然分からんから、道を尋ねるために近くにおったあたしと同じ年ぐらいの娘さんをつかまえた。

「このへんに食事処とかあります?」

すると娘さんはにっこり笑って、

「うちがそうですよ。ぜひ寄っていって下さいな」
 
それは助かります。ってことで娘さんのご両親が経営している料理屋にお邪魔した。
 
あんまり高そうなところには見えんけど、お金が足りんかったらいけんから「この国には来たばっかりなんですよー」って言って、料理を頼む前にお金の単位と基準を教わった。娘さんとおかみさんが丁寧に教えてくれました。なんて親切な人たち……! 

そして改めて自分が今日一日で半端なく儲かったことを知った。路上ライブで手に入る金額じゃないってこれ。
 
その後おいしい料理をお腹いっぱい頂いて、お礼を言いつつ店を後にした。
 
もうじき暗くなりそうやな。さっき近くの宿屋の場所も教えてもらったから、そこに向かうか。

たぶん今から眠って、それで目が覚めたら自分の部屋のベッドの上におるんやろうなー。

いやしかし、今日のは本当にリアルな夢やったわ。



[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!