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317.通りすがりの…

やばい、行っちゃう。
そう思った瞬間、私の目の前で音をたてて入口が塞がった。

おわかりでしょうか。この行為の恥ずかしさ。乗れるならと恥を捨てて駆け込もうとするのにもかかわらず、乗れなかったという恥のダブルパンチ。次の電車は確か快速だから、家の最寄り駅には停まらないはずだ。溜息をつき、人の気配がして、右を向くと、階段を下りてくる細身の長身の男と目が合った。

タイプかも、と私の心を少し躍らせた彼は、「ナイスダッシュ。」そう言って、おかしそうに笑う。



「寒いね。」

隣から聞こえた声に驚いて、顔を向ける。どうやら、その言葉は私に向けられたものらしい。
「そうですね。」
どう対応したらいいのか分からず、とりあえず少しだけ笑って見せた。
「手袋とか。してないの?」
「あぁ、学校に忘れちゃって。」

ふーん。そう言って、ポケットに突っこんでいた手を片方出して、私の前に持ってきた。黒い手袋をした手の上には、白くて四角いもの。

「カイロ。あげる。」
「え、でも、」「俺、手袋してるし。」
右手首を掴まれて、手にカイロをのせられた。
「ありがとうございます。」
「いつもこの時間なの?」
「え、っと、もう1本早いです。」
「てゆうか、電車来てますよ?」
「あー。快速止まらないんだよね。」

若干、仲間意識芽生えたものの、なんでこんなに話しかけてくるのかと不思議に思うと、あー、電源切れるとか暇だなー、と呟くのが聞こえた。なんだ、そういうことか。
それからしばらく世間話をして、別れを告げ、彼と私は反対方向の電車に乗った。

25分間、待ち待った電車の中は、やっぱり暖かくて、だけど、手の中のカイロを見て、たまには悪くないかと思った。



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