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花と野獣
☆☆

『バァ、ック…バァ。』

担当医が静かに脈を図る。

八重はすがるように泣き出しそうになるのを堪えるように祖母の名を呼び続けた。

『…15時47分、御臨終です。』

医者の言葉に堪えきれず涙がボタボタと溢れ出す。

医者が八重に何かを話しかけるが、八重には届かない。医者は看護師を呼び、一言告げて部屋を後にする。

『…フッ…ック、バァ…。』

泣き叫ぶ事なく八重はそっと祖母の冷たい手を握りベッドの縁に顔を埋めて、声を上げる事なく泣き続けた。








20分程がたち扉を誰かが開ける音がした。
だが、八重の涙は止まっていなかった。

ポンッ

『八重。小春さんを安心させてあげるんだ。』

優しく強い声が響く。
八重は涙が溜まったまま振り返ると、よく知る男が立っていた。

『た、瀧兄…』

漆黒のサラサラの髪に何もかもを飲み込みそうな鋭い黒い瞳、誰もが見惚れるような美丈夫も何時もの強い瞳を悲しみに揺らしていた。

八重が瀧兄と呼んだこの男こそが、祖母の小春が八重の後の事を頼んだ男だった。

八重は瀧に抱きつき声をあげて泣き始めた。

瀧は優しく抱き締めて、八重の背を優しくあやすように叩いてあげた。

『今は思い切り泣け。泣き止んだら笑ってやれ、小春さんは誰よりもお前の笑顔が好きで、幸せを願っているんだから。』

瀧の言葉に泣きながら強く頷く八重を瀧は愛しそうに見て、小春に顔を向けた。

そして、小春の穏やかな表情を見て、小さく頭を下げた。
頭を上げた瀧の瞳には揺るがぬ決意が浮かんでいたのだった。




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