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天魔狂想曲
変革4
(…寒いなぁ〜もうそろそろコートを着用してもいい頃かしら?)

制服は冬用になっていて、生地はしっかりとしているが、やはりズボンと違いスカートは寒い。風が吹くと、余計にそう感じる。そんな事を思いながら、学校への道を歩いていた百合だったが、かすかに聞こえた鳴き声は、聞き逃さなかった。

(猫…?どこにいるのかしら?)

あたりを見回すと、電信柱の影に隠れて、小さな黒い子猫が鳴いていた。百合は近付いてみたが、逃げる気配はない。
子猫にそっと、触れながら、

「どうしたの?母猫はいないのかしら…首輪もつけてないみたいだし、困ったわ…教会に連れていく時間もないし…ってお前ケガしてるの?」

子猫の左後ろ足からは、少し血が滲んでいた。他の猫にやられでもしたのだろうか、子猫はしきりに鳴いている。百合は少し考えていたが、回りに人がいない事を確認すると、子猫の傷にそっと手を触れた。

10秒ぐらいたったろうか、百合が手を離すと傷はキレイに消えていた。子猫は痛みが失くなったおかげか、鳴くのを止め大人しくなっていた。

「もう大丈夫。これは私達だけの秘密よ。子猫ちゃん」

百合が子猫の頭を撫でようとすると、子猫はスルリと百合の手をかわし、あっという間に向こう側の繁みに行ってしまった。
(…もう用が済んだって事かしら……?)

実に猫らしい行動である。数秒その場でポカンとしていると、肩を叩かれ振り向くと、クラスの友人の一人である、田中美紀の姿だった。

「こんな所で何やってるの?百合さん」

百合は立ち上がり、スカートのホコリを掃うと、

「おはよう、美紀さん!ちょっと猫がいたんだけど、にげられちゃったの……」

「あら?そうだったの、てっきり体の具合でも悪いのかしらと思ったんだけど…」

二人並んで、歩き出す。高校2年でクラス替えが行われ、余りクラスに馴染めなかった百合だったが、田中美紀は気さくに話しかけてくれる貴重な友人だ。
「心配してくれて、ありがとう。そろそろ学校行かないと、時間大丈夫かしら?」

「そうね。今日は高橋シスターだから少し、早めに教室に行かないと……」

「…私ったら、すっかり忘れていたわ美紀さんありがとう」

二人とも少し小走りで学校に向かう。

「百合さんたら、変な事でお礼言うのね?変わってるわ貴女」
「そうかしら?」

内心、百合はドキドキしながら美紀と会話をしていた。

(…見られてない…わよね…ちゃんと確認していたし…)


小さい時から、何故か百合は傷を消す事が出来たのだ。大きな傷は無理だが、軽い傷なら少し手をかざせば消えていく。けれど、百合はこの事は誰一人言ってはいなかった。

自分で試したが、この力は出来る時と出来ない時があったし、何よりこんな力を、持っている自分が嫌だった。この力が知れれば、教会にはいられなくなると百合は思っていた。普通なら有り得ない事だ……

(この力を知っていたから、両親は私を捨てたのではないかしら)

胸の奥がチクリと痛む。あまり考えない様にしていたのに…


「百合さん、どうやら大丈夫みたいよ。小走りのおかげで予定より早くついたみたい」

彼女に言われるまで、自分がもう学校に到着しているとはきづいていない百合だった。とりあえず、今は学校に集中しようと思いなおし、百合は正門をくぐった。

**************
子猫が消えていった繁みからは、ある二人の話し声が聞こえていた。

「やっぱり、本当でしたよ。ほら!俺がワザとつけた切り傷、見事に直ってるでしょう?」

先程の子猫は話をしながら、段々と姿が変化していった。大きさが155pぐらいになり、毛も抜けて体つきも、人の様な姿になった。ただ、人と違う所が大分多かった。本来なら、耳がある場所には、黒い羽があり、身に纏っている服装も鳥の羽毛を思わせる物が、手足を除いての部分をおおっている様な、不思議な格好だ。
髪は黒だが、長さはザンバラで揃っていない。
瞳も黒く光っている。目の回りには赤い入れ墨がされている。
一見、少年の姿になった者は、自分の左足をもう一人の男に見せていた。

「…やはり、噂は本当だったか…確かにこの力は、奴らの気配を感じる」

「どうするんですか?俺が連れて来ましょうか?」

「いや、それはいい…とうせ監視がついているだろうからな…ここでは確認はしない。ソルデス、元の姿に戻っていろ。

男がそう言うと、少年の姿は消え、一羽の鳥が男の手に止まった。

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あきゅろす。
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