天魔狂想曲
プロローグ
私は何も見てはいない…
お前は見てしまった
私は何も聞いてはいない…
お前は聞いてしまった
私はこの事を誰にも、誰にも言いはしない
お前は我慢出来ず語ってしまうだろう
なぜ私はあの場にいてしまったのだろうか、あの話さえ聞かなかったら………
疼く様に、えぐられる様にジクジクと背中に痛みが走る。
あの輝きの中にいた自分は遠いどこかに消えてしまった。あまり考えがまとまらない頭でその事だけを、男は繰り返し思っていた。
体中が重く、鉛を飲まされた様だ。
姿も、誰が見ても名前を言ってくれないほど、変貌してしまった。
周りには、自分と同じような姿の男女が、ある者は嘆き、ある者は虚空を見つめ、そして地面に這いつくばってかつては敬愛し、信頼していた者へ呪いのを紡いでいる。
私も彼らと同じなのだろうか…………?
(違うっ!違うっ!違うっ!違うっ!私は何もしていないっ!彼らと違い見ずから闇に染まったわけではないっ!
決して口外しないと、誓いもたてたのだ!!
…それなのに…それなのに…それなのに…)
拘束され、証を切り取られ焼かれた………………………そして永久にあの場所から追放された。
また背中に痛みが襲った………
こんな行為が許されていいのか?
私にだけこのような理不尽な出来事が、起こっていいのか?
ますます考えがまとまらない…………考えろ……
私にこんな行いをした者が苦しむ方法を…考えろ…男は力なく 笑った
自分は最大の切り札を持っているではないかっ!
語ってしまおう。何を今更恐れるものがある?
もはや、この身は朽ちるのみ。ならば私が偶然にも知ってしまった真実を喋ればいい………
男は自分が闇に呑まれてしまっている事すら気付けずにいた。
男の口から出た話は土に染み込む水の様に、知れ渡り、ついにはこの深淵の闇の支配者たる者の、耳にも入る事になる。
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