novel
1
何かが動く気配を感じ、カイトは目を開けた。
カイトがいるのはマスターである千聡の借りているアパートのリビング。そこの布団の上。
初日に運良く千聡のベッドへと潜り込んだカイトであったが、それ以降は布団とともにリビングに放り出されていた。
寝たままの体勢で人ではない故に高性能なその聴力を活かし、周囲の気配を読む。
微かだけど、確かに物音はする。さて、場所はどこだ。
音の出処はどうやらリビングの隣、千聡の寝室らしい。
寝返りでも打ったのだろうか。そう思うも気になりだしたら止まらない。
体を起こし、カイトは寝室へと続く扉に手をかけた。
「……マスター?」
寝室はベッドに机、クローゼットというシンプルな部屋。そのベッドの上には掛け布団を体に巻いた状態で膝を抱えて座っている千聡がいた。
「あ、カイト……。ゴメン、起しちゃった?」
「いいえ、大丈夫です。マスター、眠れないんですか?」
ちょっとね、と彼女は苦笑する。
こんな笑い方をカイトは時々見ていた。
森住さん―彼女の父曰く、甘え下手だから消化しきれないこともあるとの事。
そんな彼女を何とかしたいと対処法を尋ねたが、返ってきた答えは
「それは自分で考えてみなさい」
今まで方式通り、形式通りに動いていたカイトにとっては難題である。
そして答えの出ないまま今に至る。
どうしようどうしよう、と考えてると
「もう寝るから大丈夫だよ。カイトもおやすみ」
もぞもぞと体勢を変える千聡の顔はまだ無理をしてるように見えた。そして、考えるより先に体が動いた。
「マスター、隣行っていいですか」
返事を待たず、カイトはベッドに乗り、千聡を抱きよせた。
いつもなら抵抗するだろう千聡も、いきなりの事に固まり、結果、胡坐をかいたカイトの足の間にすっぽり収まってしまった。
「何してんの、カイト」
文句を言うものの、退こうとしないし、拳も来ない。気を良くしたカイトは抱きしめる力を強めた。
「今日はこのままでも良いですよね」
小さく頷いた千聡はカイトにもたれかかった。
その重さと温かさを感じていると、気付けばスースーと規則正しい寝息が聞こえてきた。
完全に寝入った彼女の髪を撫でながら、カイトはつぶやく。
「もっと甘えてください、千聡。俺がずっと、そばにいますから」
俺の中で答えが出た瞬間
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