06.Angel
その日は
雨じゃなくて
人が降って来ました――…
―――魔晄都市ミッドガル
その近代都市にはアンダーグラウンドが存在する。
そこを人々は"スラム"といい下層階級や貧しい人達がひっそりと住んでいた。
空を見上げてもここは真っ暗。
プレートによって太陽さえ遮られていて人工の光だけが地面を照らしていた。
そう……一度も空を、太陽を見たことのない人さえいるんだ。
バタンッ
「エアリス!空から来た天使、起きたか?」
静かな家に嵐が巻きおこる。
まだまだ幼い小さな少年が豪快に家の扉を開き、2階の客部屋の中へと有無を問わずに駆け入った。
ベッドに横たわる人物に興味津々。
数日前にスラムに舞い降りた人物、普段変わりない日常にいきなりの来客。
無理もないだろう。
エアリスと呼ばれた少女は椅子に座りベッドの上に横たわる人物を看護していた。白の花柄のワンピースを身纏う彼女はまだあどけなさを残している。
少年に視線を合わせると小さくため息を吐き、立ち上がると腰に手を宛てて注意した。
「こーら!病人、いるでしょ?」
「だって、上から堕ちてきたんだよ?白い人ってことは天使に違いないって母ちゃんが言ってた!」
「もーっ…とにかく部屋から出てく!」
ぐじぐじと駄々をこねる少年を部屋の外へ出した。
扉を閉じると少女エアリスは扉に寄り掛かり背をもたれベッドの上の彼を見つめた。
―――彼が降ってきたのは3日前。
スラムの外れにある教会。
エアリスはその中に咲く花を毎日通って世話をしていた。
その日もお花の世話をするために教会へ行った。するとその花の上に血だらけで倒れている人を見付けたのだ。
その傷は痛々しく、辺りに散らばる瓦礫の様子からどこかから逃げてきたことくらい直ぐにわかった。
きっと、花がクッション代わりになってくれなかったらもっと悲惨なことになっていただろう。
「キミは何処から来たの?」
小さな疑問が寂しく響き渡る。
苦しそうに汗をかきまだ目を冷まさない彼に少女エアリスは再びベッドサイドへ歩より汗を拭う。
彼の身纏う服は見たことのない民族のもの、見たことのない髪の色、そして何よりも気になるのは……
「キミも星の声、聞こえてるんだね―…」
顔にかかっている髪を退かしてあげながらエアリスはまだ目を醒まさない同じ運命を担う彼に複雑な気持ちを覚えていた。
「どうして神様は意地悪なのかなぁ…」
エアリスはごめんと小さく謝ると立ち上がり彼にかけていたシーツをめくった。
傷へ視線を移す。
そこには徐々に自己治癒で治りつつあるお腹の深手の刀傷があった。普通なら数ヶ月はベッドに横になっていないと危険な状態の傷。
しかしその常識を裏切るかのように驚く程早く癒えていく。
エアリスはこの子の運命に眉を潜めた。
「早く目覚めてね、天使さん?」
彼女は気休めだけどと、手を伸ばしケアルをかけた。
end
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