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38.ferewell






「…なんだこの音は?」



血に染まる幼馴染を抱きかかえながら友の帰りを待つ最中、耳を劈くような音が辺りを立ち込めた。
刃物で鉄も壁をギリギリと擦り付ける様な、いや、それよりも強烈な音。
クラウドはティファを抱きかかえカプセル横の壁にもたれ掛けさせると、立ち上がり、その現況を確かめるために吸込まれるかのごとく扉の中へ足を進めた。
彼女の状態はけっして良くないが、胸の奥がざわざわと騒ぐ感覚に居てもたっても居られなかった。

しかしその判断が誤りであった...




「…何、これ?」




暗闇の中から見えてきたのはぐしゃぐしゃに破壊された実験用カプセルの通路で刀で串刺しにされた銀髪の英雄。
そしてその袂に大切そうに抱かれている得体の知れない女性の生首から突き出た触手に突き刺された銀に青を纏う少年…




「嘘、だろ…?」

「スバルぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」




ザックスの悲痛な声が構内に響き渡る。







ジェノバは、生きていた―――









串刺し程度では、死なないとでもいうのか?
セフィロスの体を貫通しジェノバ諸共仕留めたと思っていたのが迂闊だった。
宇宙外生命体、セトラが禁忌と恐れてきたこの生命体はなおも生きようとしているのか?

体を貫通したジェノバの触手が蠢く。
刺さった箇所は腹部。最悪だ。
胸の奥に潜む“アイツ”が呼び覚まされてしまう…!

これはもう賭けだ。



『この世に、子供を苦しめていい親が…あってなるものか!!』



腹部に刺さり蠢きアイツを探し出されてしまう前にとスバルは触手を掴むとそのまま身を近づけセフィロスを抱きしめた。
周囲にズブズブいう肉の裂ける音が聞こえた。
スバルは眉を寄せ痛みに耐えながら震える手で袖元から何かを探し出した。




「まさか…っ!!」




ザックスは己の直感に従い自分の腕に嵌めていたバングルを確かめる。
ない、それ以外のマテリアはあるというのに。 
バスターソードをその場に置き去りにしてでもそれだけは避けたかった。
瞬時、地面を力強く蹴り上げ彼の元へと走ろうとした。 
だがあの攻防戦の中で切り刻まれた瓦礫が行く手を阻む。




『大丈夫、独りなんかじゃない…大丈夫だよ』

「嫌だッやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



スバルの手中で緑色のマテリアが閃光弾の如く強く光り、彼らを取り巻くように血の様に紅い炎が包み込む。
そう、そのマテリアはザックスが一番得意としていた魔法マテリアの“ファイア”。
自分が育て上げたマテリアでまさかこんな事態を招いてしまうなんて…
みるみるうちに炎は天高く燃え上がる。







―…泣くなザックス



―――大丈夫、またいつか会える…







「スバル…?」
 




紅に包まれる中僅かに見えた顔。
それは絶望に歪んでなどいなかった。
きっと恐らく彼は何かを確信していたんだ。
穏やかに微笑まれた表情にザックスはただ固まることしか出来なかった。

足元に広がるライフストリーム。
スバルは最後の力を振り縛ってジェノバ諸共身を投げ出しその中へと吸込まれていった。

小波のように音を立てる生命の泉、ライフストリーム。
どうか二人を誘って欲しいとただただ願うしかなかった。






























「なんてことをしてくれたんだ…?」

「!?」




セフィロスが死んで、ジェノバが覚醒して、スバルがメルトダウンして。
あまりの急な展開に頭がついていかなっかた。
放心状態になるのも無理はない。
だがこの男はそれさえも許してはくれなかった。

振り返って見えたのは強靭な力によって吹き飛ばされたクラウドの体。
その先に佇んでいる人物は見間違いたくても見間違えられない人物。

神羅科学部門統括の宝条。



「なんでアンタがここに居る?」

「フンッ、そんなことはどうでも良い。よくも私の実験サンプル達を灰にしてくれたな?」

「実験サンプル?アンタは仲間だった奴等をそう呼ぶのかよ!? ここにいるのはみんな殉職や行方不明になった神羅の社員じゃねぇか!!」

「仲間?クックック……そんなモノだと一度も思ったことも考えたこともなかったな」

「何だと!!?」



宝条は吹き飛ばし意識が朦朧としているクラウドに近づき顎を持ち上げ瞳を覗き込んだ。




「一般兵か…、ふむ、使えなくもないな」

「アンタ、クラウドから離れろ!!」




ザックスは危険を感じクラウドの元へ駆け寄る。
だが、宝条は白衣のポケットに潜ませていた薬物の入った試験管をこちらへと投げつけてきた。
とっさに身を翻しそれを避ける。地面に叩きつけられた試験管は異臭を漂わせて割れていた。




「これをどうしようが1stのお前には関係ないだろう?」

「関係あるわけない!!俺たちは友達だ!!」


「友達……ふむ、不快だ」




宝条はクラウドをいかにも興味がなさそうに乱雑に床に投げ出すと立ち上がりザックスに向き直る。
その瞳はいかにも人間など興味のなさそうな、科学者特有の狂気な色に染まっていた。




「折角生かしてやったのに、残念だ…」

「生かしてやっただと?」

「そう、生かしてやったんだ。セフィロスも…スバルもな」

「…ッ!!」




ザックスはバスターソードを構え臨戦態勢に入る。
しかしアイツの足元にはクラウドが横たわっている。
明らかにこちらには不利だ。




「出来損ないには困ったものだよ…使い道も何も残っちゃいやしない。だからこそ私の手によって作り上げてやるのさ、完璧なる生命体にな!!」

「そんなの間違ってる!!人間は完璧じゃないからこそ頑張って生きてるんだ!!完璧な生き物なんてこの世になんか存在しない!!」

「だから作り直してやっているのだろう?完璧な作品に!!」

「!!?」




足元に投げ捨てられた試験管から得体の知れない触手無数伸び上がりザックスの両足を捕らえた。
いくら動かしてもびくともしない。




「開発中のモンスターでね...ジェノバの細胞を埋め込んだらどれだけ強靭な生命体になるのか興味がわいてな。動けば動くほど体に食い込み、傷口から進入して毒をもたらす。どうだね今の気分は?」

「アンタ、…最低だな」

「ふむ、褒め言葉ととっておこう」




めりめりと食い込み毒に犯され意識が遠のく。
こんなにも近くにいるのに友達も一人も救い出せないなんて...。
構えていた手元からバスターソードが抜け落ち鈍い音とともにザックスは意識を手放した。









end



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