[携帯モード] [URL送信]
37.Twins
静かにひっそりと営まれていた小さな村。
平和な村だった。
そう、“だった”―――



『なんなんだこの惨状は…?』



深紅に燃え上がる瓦礫と化した家々。
枯渇した木々、子供の遊んでいたであろう遊具に、人であった残骸。
血の生臭い香りと共に人の燃える異臭が周りを立ち込めていた。

生きている者はほとんど皆無だろう。

ウータイの戦で沢山の死を間の当たりにし、
生死の駆け引きをした者ならばこの光景にも大体の免疫はあるだろうが…これは酷過ぎる。

スバルは亡くなった方々へ軽く鎮魂の祈りを捧げ異界送りを行った。
せめて、せめて安らかに眠って欲しかった。
どんなに酷い死に方をしたとしてもその人の人生は幸せであったのなら尚更。



村を外れて幾分か経っただろうか、
何か大きな刃物が木を薙ぎ倒した跡が見つかった。
しかも一つどころではない。
辺り一面、まるで何か怒りに我を忘れたかのような太刀筋。

瞬時にある人物の顔が浮かんだ。
これは間違いない。




『セフィロスッ!!!』




残骸の後はどうやらニブル山の奥まで続いているいるようだ。
スバルは気を集中させ大地を蹴り上げソルジャーに引けをとらないであろう速さで山頂を目指し走り出した。
異界送りをした魂の中に神羅兵の姿が何名も見受けられた。
同じ神羅としてまさか戦火の下にいたわけでもないのに犠牲者が発生するとは到底思えない。
それにあの英雄と共に任務に就いているのだとしたら尚更ありえない状況。
どうか最悪な事態になっていないことを祈りながら。




『どうか、どうか無事でいてくれ…!!!』





















「よくもっ、よくもパパを!!!アンタなんか許さない!!!」



長い黒い髪を揺らし幼い瞳に似つかわしくない涙を流し女の子は自分より大きな刀を構える。
刀を向けるその先に醜き敵を捕らえながら。



「やめろティファ!!!」

「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!」



怒りに我を忘れた少女。
切りかかった敵は優雅に振り向きクスリと口元だけを吊り上げ笑った。
少女が振り抜いた刀はいとも簡単にその敵に受け止められビクともしない。
それはまるで子供が遊んでいる玩具を取り上げられるその瞬間のように、意図も容易く。
手元にあった刀は気付く前には敵の手元に納まりまるで風が吹き抜けるかのように振り抜かれた。
少女の肢体はまるで玩具のように中を舞い会談に幾度か叩きつけられ崩れ落ちた。



「セフィロス!!!一体どうしちまったんだ!!?」

「……」

「いつものアンタは一体何処へ行っちまったんだよ!!?」



刀に付いたティファの血をまるで汚いモノに触れたかのように軽く振り抜き血を払う。
ザックスは一度セフィロスから入れられた攻撃に顔を歪めながらもティファの元へ駆け寄り抱き止めた。



「母さん…、ここに居るんだね?」



銀の長髪を揺らめかし誰かと会話する。
一体誰と?
今、母さんって言わなかったか?
こんな魔晄炉の中に生身の人間が居るとは到底思えない。
ましてや先ほどカプセルの中からモンスターが生まれる瞬間を目の当たりにしたのだから尚更だろう。
目の前に開かれた扉を潜りセフィロスは導かれるかのようにその中へと消えていった。



「ザックス…?」

「クラウド!!ティファを頼む!!」

「えっ?ティ、ファ…!!?」



抱きとめていたティファを出口の警備に回していたクラウドに任せてザックスはセフィロスから受けた深手を堪えつつバスターソードを背負った。
そう、これが進まなければならない穢れた道ならば選択肢など一つしかない。
そう、だよな?




「穢れた道だって、それが運命なら突き進んでやるよ」




魔晄炉内部。
モンスター製造カプセルの先に設けられた特別な部屋。
入り口に書かれている実験サンプルの名前…J-E-N-O-V-A。
どこか引っかかるが、それよりもセフィロスの正気を取り戻すのが何よりも先決であった。

真っ暗な通路をひたすら進む。
周りはいかにも科学部のやつらが好みそうな匂いや機器が所狭しと立ち込めていた。
どれくらい進んだだろうか?
光が見え、そこには大きな女性の鉄で出来たモンタージュじみた像と無数に張り巡られたチューブやわけのわからない配線がその像に突き刺さっていた。
見るからに不気味、且つグロテスクだ。

セフィロスは見るや否やその女性の像に手を伸ばし、あろうことか力ずくで上半身部分をceぎ取り地へ投げ捨てた。その目からは恐らくオイル系の液体か何かがまるで泣いているかのように流れていた。




「ああ、母さん…ここに居たんだね……」



眩い光が周りを立ち込める。
目前に突如女性であろう生命体の入ったカプセルが現れた。
周りには遠くに居ても聞こえるほどの心音が鳴り響く。
まるで、“私はここに居る”と言っているかのように―――




「セフィロス!!!!」

「あぁ、母さん…また奴らが来たよ…」




セフィロスは刀を片手に握り締めながら振り向きやっとザックスを眼中見納めた。
しかしその瞳は以前のものとは全く違う、何かに取り付かれたような、そんな虚ろな瞳。




「どうしちまったんだよ!!?こんなのアンタらしくない!!!!」

「フッ…私らしくないだと?私は私だ」

「違う!今のアンタはアンタじゃない!!!思い出してくれよ、俺達をッ!!アンジールやジェネシスのことをッ!!」

「母さん待っていてね…、すぐにそっちに行くから…」




悲痛の叫びも空しく、セフィロスはザックスに切りかかった。
もうアンタには俺達の声は聞こえないのか?
俺達との思い出は消し去られてしまったのか?
たくさんの思いが渦巻く。
瞳に滲む涙も虚しく、ザックスはバスターソードを構えセフィロスの攻撃に応戦した。






ガキィィィィッ、けたたましい刃物の交わり合う音。
目に見えぬほどの速さで繰り広げられる死闘。
ザックスだってセフィロスと刀を交えたのは幾重にもあったことだが、本気で、しかも実践で交えたのは数回あるかないかだ。
一撃一撃の重みが違う。
1stの威力、ましてや英雄と歌われる者の力とはこんなにも凄いのかと実感させ直させられる。

懐へ一撃かまし怯んだ隙へリミットブレイクで一気に攻め立てようとザックスは力を溜める。
しかしそれが仇となった。




「ぐあぁっ!!!」



身を翻しセフィロスはまるで踊るかのように空気の流れを読み刀を振り抜いたのだ。
とっさの判断段でバスターソードを盾にし、攻撃を凌ぐもその怯んだ隙を彼は許すはずがない。
息を吐く時間も与えぬまま正宗がザックスを捕らえた。




























『敵を間違っているのではないか?』





キィィィィィィィィィンッ――――




響きの良い刀の刃が共鳴する音が耳を支配する。
透き通った声、銀の髪、艶やかな着物を纏うその姿。
間違いない、俺はこの人物を知っている。




『悪い、遅くなった』

「なんでお前が…」

『ただの散歩、だよ』



村正を握り締め振り払いセフィロスとの間合いをとる。
起きては欲しくなかった事が起きてしまった。
彼の後ろに輝くカプセルの中のモノに気付きスバルは眉を寄せた。
あの厄災を見つけてしまったことの後悔とこれからの運命を案じて。




『セフィ、目を覚ませ!!!』

「フンッ、また現れたか…裏切り者め」

『思い出せ、本来の自分を!!』



宙を舞い幾重にも交じり合う切っ先。
正宗と村正の双子の戦い。
刃のこぼれる事のないその名刀は脅威にして耽美。
飛び散る火花がまるで舞い散る花びらの様に揺らめく。
不躾ながらもその光景が綺麗と思える。

二人はこの狭い空間の中で限られたスペースでの死闘を繰り広げる。
しかしそんな中でカプセルを避けて出来るなんて至難の業であった。

互いの一撃でカプセルに亀裂が入り、中の水溶液が流れ落ちる。




「母さん!!!!」

『目覚めろセフィロス!!!!』



スバルは迷うことなくジェノバの母体を切り裂いた。




「うぅぅううああああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」



セフィロスは戦線離脱し真っ先に崩れ行くジェノバのカプセル内から生首を救い出し抱き止めた。
それはまるで小さな子供が母親に置いていかれて泣いているかのように。
スバルは小さく“ごめんね”と呟きセフィロスをジェノバ諸共村正で貫いた。








end



[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!