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35.guilty


















「くさい…」



















「生臭い…血の臭い」





























ウータイ奥地。
自然と豊かな大地に似合わないただならぬ臭い。

戦争は終わり紛争は幾度と繰り返された荒野に一筋の硝煙が立ち上っていた。
モンスターなら達がまだマシだ。





だが視線の先に佇むソレはそんな予想を意図も簡単に覆した。




「…アンタ、何者?」































「クックックッ…おやおや、死人臭いな」

「…なんやのオッサン、何者んや?」




白衣に見を包んだ怪しい男。
大きな眼鏡の奥に潜む眼光は幾重の戦場を切り抜けてきた彼等ならその心理を汲み取れた。

コイツ……尋常じゃない




「私?さぁ…ただの天才科学者さ」

「ほぅ…ならなんでその天才がこんなところでモンスター撃ち殺して楽しんでんねん」

「モンスター?
 …クックックッ、コイツはそう呼ばれるのか…可哀相に」

「…何を言ってるの?」




足元に転がる二足歩行のモンスター。

…最悪の事態が頭を過ぎった。




「どいつもこいつも素材がよくなくてね…すぐに錯乱して、コイツみたいになてしまうんだよ。だらし無いだろう?唾液が垂れ流しだ」






ドンッドンッドンッドンッ――…





「この出来損ないが!!!」



手に持っていた銃で足元に転がるモンスターを撃ちまくる。
びちゃびちゃと周りに血が跳ね上がり純白だった白衣は紅に染まり初め、その表情はどこか楽しそうに笑みを浮かべていた。




「マオ…こいつヤバイで」

「…主の元には今トラがいる、コイツは俺達で…排除する」




マオからいつものカマ口調が消える…。
鉄扇と鎌が月光に反射し煌めく。




今宵は満月。

百鬼夜行には持って来いだ。




「風の噂で聞いてね…何やら特殊な細胞を持った異質な素材があるらしいな?しかも…どうやら逃げ出したサンプルがそれを持っているらしくてな、…君達知らんかね?」




ゆらゆらと身体を揺らしながらポケットに手を入れ睨み付ける眼光。
ヒバリとマオは待つ間もなく地面を蹴った。
ポケットからカプセルがバラ蒔かれその一つ一つがモンスターへと具現化し飢えた獣のように瞳や牙をギラつかせ襲い掛かってきた。




「クックックッ…まったく…

 私の言うことが聞けないなんて…腹立たしくてハラワタが煮え繰り返りそうだ」




















































「スバル、」

「…来たか」




陰陽寮の中、微かながらにも緊迫した空気が辺りを立ち込める。
死人…アンデットとなった3人の片割れのトラ、そしてその主となるスバルに他2人の意識が受動的に流れ込んでくる。

この星のため、この先の未来に影響を及ぼすモノを身体に閉じ込めた##name_1#を神羅は…いや、宝条は見過ごす訳がなかった。
こんなにも早く気付かれるとは…




「宝条…奴単体で乗り込んできたか」

「気をつけろ

…単体ということは、奴は実験に身を捧げたかもしれない」




危険だ。
暗鬼として屈託のない力を持つあの二人でさえ安否がわからない。
一度戦ってみれば解る…あの狂い様は尋常じゃない。




「主、古えの森へ」

「トラ…」

「陰陽寮は既に神羅の眼下だ、手中にあると考えてもおかしくない」




一度タークスによって侵入を許してしまった以上奴らがここを知らないはずがない。
よって、ここの見取り図や資料が作成されていると考えられる。あちら側で詮索されれば他者が情報を得るなんてことは容易だ。
得に奴の場合は執着が凄い分質が悪い。




「…死ぬな」

「一度死んだ俺達は一度人生が終わったも同然だ。主を護るのは俺達の選んだ新しい道、悔いはない」

「だがっ…!」




結界の力が増す。
何千年もの歴史、先代達の想いが重なり動発したのだろう。
それだけ生きなきゃならない、例えそれだけそぐわぬ想いを秘めていたとしても。


徐々に周りに黒い霞のような霧が敷き詰める。
まがまがしいオーラが本堂の入口に集中している。



ひたり、ひたり、…



冷たい足音が堂内へ響き渡る。










………








………………















…… みぃーつけたぁっ♪













足元と両手には夥しい血。
誰のモノか何のモノかわからない…血と肉塊。




「宝条…!」

「…やぁ…久しぶりだな実験サンプルよ」

「貴様…あの二人はどうした?」

「あぁ?あの鳥と猫なら、」





















………切り刻んで海に捨てた………





















「!!!」

「スバルッ!!」




瞬時、
スバルはその場から移動し数十m離れた宝条を切り刻み血祭りに上げていた。




「…流石見事だ、




       …だが甘い」

「…ッ!!」




切り刻んだ後ろ、そこに宝条は佇みニヤリと微笑む。






まさか、幻影?



なら…今、切った奴は…?














「スバルッ見るな!!!」















「う、そ…」

















見たことのあるピンクの髪、白い肌…

俺はこの人を知ってる。
知らないはずがない。












「…もう…ホント、お人よし…な、だから」










「マ、オ…?」















「トラッ、スバルをはよ逃がさんかい!」

「く…ッ!」





手の中でバラバラになった親しい仲間の身体。








嘘だ………








赤く染まる自らの白い髪、服。










嘘だ嘘だっ………












信じたくない事実と、見たくないのに見なきゃならない現実。
生暖かい温もり、生きていた証を秘めた血が頬を伝い…地へ落ちた。















「う、うぁあぁぁぁあぁあぁっ!!!」









「だから落ちこぼれなんだよ、君は…」




「トラッ!」

「スバル、ッ!」




無理矢理こじ開けた時空間経路。
陰陽特有のその時間の歪みにトラは歎きもがくスバルをほうり込んだ。




「忘れたのか!?俺達は死なない!」

「スバルッ、


         生きろ!!!」







時空間に飲み込まれる身体…


涙で曇りぼやける視界に見える金と紅。


残る罪悪感と嫌悪感。


己の生きる道をどれだけ呪っただろう?







「生きろ」







なんて重い一言。








気付けば周りは鬱蒼と茂る木々がざわめく深い森にいた。



古えの森――…




時間の止まった歴史の産物



誰もいない…孤独の森…








「クソッ…クソぉッ!!!」




再び時空間経路を開こうと右手を宙に翳す。
しかし、術が弾かれ右手を風が切り刻む。

あちら側から来るなと術をかけられた証…




「俺は…いつも守られてばかりだ…」




吹き抜ける風…
崩れ落ちる身体。
囁いた言葉は風に乗せられ深い森へと溶けていった。


END

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あきゅろす。
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