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30.tear



純白無垢な花びらと太陽の黄色を輝かせた花びらが宙を舞う―…




風もない筈の教会内は静まり返りただ舞い上がった花びらがゆらゆらと揺れ舞い降りた。








「二人とも大丈夫かな…」





神羅に拘束された友達の行く末も知れず、ソルジャーの友達はあれ以来連絡が取れずにいる。
不安はどんどんと増すばかりだ。




「もー…連絡くらい欲しいのに」




…待つだけって凄く辛いんだよ?

けどね、帰る場所があることってすごく大切なことだから…




「スバル…ザックス…」




目を閉じ何処からか教会へと差し照らす光を肌で感じ、エアリスは胸の前で手を握りしめ願った。









スバル…


アナタからの気持ちはチョーカーを伝って流れ込んできてるよ?


辛い気持ちも、悲しい気持ちも…


アナタは強い、けどすごく弱いんだよね






「ザックス…、スバルを護ってあげてね…」








届かない想い…




目に見えぬ風よ、どうかあの子の場所へと届けてあげて…




両手を伸ばしエアリスは花びらを風に乗せた。
スバルが司る風に――…。








































まさか居るとは思わなかった。

貴族達の前戯に出ることなんて腐ってもやりたくなどなかった。
まして、陰陽の力を珍獣扱いしコレクションに入れたいと言い出す輩が居ないとは言い切れない。
下手したらオークションにかけられてしまう。
だからどちらにしろ途中で消えてやる気で居たのだが…その空間に彼はいた。
見つけてしまった。
悲しみと迷いに包まれた彼を…








『…ここなら追っ手も来ない』




空間移動しスバルは街の外れにある桜並木の下へと移動した。
月に照らされ僅かな風に幹が揺らされ桜が舞い散る。





『…ザックス』

「スバル…久しぶりだな、元気だったか?」





彼は固めた髪をくしゃりと崩しカッチリと決めた服を着崩し柔らかく微笑んだ。
しかし、その笑顔の裏には欝すらと影が差し込む。





「俺もいろいろあってさーセフィロスにはこき使われるし統括には雑用させられっ『ザックス!!』

「!!」




スバルは声を荒げた。





『…そんな辛い顔で、無理して話すな』




苦痛に歪むスバルの顔。
そんな顔はして欲しくないのに…




「……お前は勘が鋭いから困るよ」





ザックスはソルジャーとして感情を表に出さない訓練も受けてきた。
他の奴らもそうであろう、どんなに苦しくても隠して、何気なく対応しなくては敵に翻弄され利用されるから。
だが、それもコイツの前では通用しない…

心を読むことができる陰陽術を持ちえる彼だが必要以上は詮索しないのは肌で感じている。
僅かだが一緒に話し触れ合った二人だからこそわかる。







「…アンジールが死んだ、いや…俺の手で殺した」

『……』

「アイツがそれを望んだから?…違う。俺は自分を守るために剣を振るった…結局は自分のエゴだ…もしかしたら違う道があったかもしれないのに、生きて助けられたかもしれないのに俺はっ……!!!」

『…っ』




スバルはザックスの腕をぎゅっと強く掴み引き寄せ苦しいくらいに抱きしめる。すると彼は顔を一瞬驚いた顔をするも、頭を手で包み込まれ子供をあやす様な温もりにいつの間にか自分が涙を流していたことに気が付いた。
何年ぶりだろうか?
ザックスは喚き、叫びながら泣いた。




『ザックス…君は悪くない、悪くないんだよ…』

「でも…っ!!」

『アンジールはそれを望んでた…』

「!!?」




耳元で淡々と話す。
間髪も入れられぬよう。




『アンジールは幾度か俺を尋ねてきたよ…天使のような翼を携えてね。面倒見が良くて優しくてザックスを弟のように思ってること、すごくわかった……そして、凄く無垢な心の持ち主だった』

『あの日も桜の木下だったよ…
アンジールが最期のお別れを伝えに来た日。凄くザックスを心配してた…それと同時に凄く信頼してた』







ああ…
どうして……








『アンジールは自分の人生を悔いてはいなかったよ。それにザックスを憎んじゃいなかった…。寧ろ、誇りに思っていた』









スバルはどうしてこんなに欲しい言葉をくれるんだろう…









『ザックス、迷うな。前を向け。
アンジールの顔に泥を塗るな、お前はアンジールの生きた証なんだ』

「…っ!!」





自分より小さな身体。
華奢で儚くてまだ幼い面持ちの彼に俺はどれだけ救われた?
この細い腕にはどれだけの苦しみや悲しみを抱えているんだろうか…

ザックスは腕を回しぎゅうっとその身体を抱きしめた。
そうか…俺はコイツに惹かれてた…
アンジールが頼り訪ねたこの小さな陰陽の頭首。



俺が、
俺が護らなくちゃならない…







「夢を抱け、そしていかなる時もソルジャーの誇りを忘れるな…か。

よっしゃ!いっちょ頑張ってきますか!」

『フッ、なにそれ(笑)』





暗くずっしりとした陰鬱な気持ちも吹き飛んだ。
明るく元気じゃないなんてザックス・フェアの名に相応しくない。
でっかい声でザックスは叫ぶ。
その隣でクスクスと笑うスバル。

うん、やっぱこの空間が一番落ち着くわ…。





「スバル、お前に俺の背中を預けたい…。
 ずっと俺と一緒に居てくれないか?」

『…それって何?プロポーズ?』

「え、あー…まぁ、そんなとこ」

『吃ってるし…自然タラシはどこに行った』

「俺だって緊張くらいするし!」

『はいはい』

「Σ軽ッ!!!」





久しぶりに馬鹿のようにじゃれあう二人。
トリカゴのガラス越しだった頃が少し懐かしく思えたのはお互い同じだろう。





「スバル…お前の背中に乗っかってる重いモン、俺も一緒に担いでやる。だから独りで泣かなくていい、泣くなら抱きしめててやる、俺も一緒に分かち合いたいんだ」






『ごめん、それは出来ない…』

「……俺がソルジャーだからか?」

『違う…俺が陰陽師、だから』




口だけ出る形の構造の狐の仮面を外すスバル。
するとそこには以前と違う色の瞳が揺れていた。




「スバル…何をした?」

『…ごめん…仕方がなかったんだ』




以前はアイスブルーだった瞳はなんと自分と同じ魔晄に侵された青へ変わっていた。

そして新たな異変に気付く。




「スバル…腕はどうした?」




明かに違う違和感。
前から隠してはいたが様子がおかしい…






「お前、それどうしたんだよ?」

『何が?なんも変わらないじゃん?それより仕…「どうしたんだって聞いてるんだ!!!」

『……っやだ、やぁっ…見るなっ!!!』

 


ビリリッ―――!!!!





視線を合わせないスバルの腕を瞬時に掴み痛みに顔を歪ませる素振りに違和感を覚え嫌に長く繕われた着物の袖を破り捨てた。
そこにはぐるぐると痛々しく包帯が巻かれ、赤黒く変色した血とは言えない何かが滲んだ腕があった。





『ははっ…醜いだろ?気持ち悪いだろ?
素直にそう言えばいい、そう思われても仕方ないんだから…』

「なんで…」

『“定め”だ…』





星が嘆き、終焉の兆しが見え始めている今。
残された選択肢は一つしかなかった。
陰陽の最後の生き残りである自分ができる最後の役目にして最初の犠牲。
古代種であるからにしてやらなくてはならない星への償いと救急手段。
それは天から舞い降りた厄災の始末と題して陰陽の自然界から与えられた力によって封じ込めるという荒療治。
神羅や他の化学者に喰われる前に最悪の事態を回避するにはこれしか残された手段はなかったのだ。

星を守る。

そう言えば聞こえはいいかもしれない。
でもこれは、そんな綺麗事じゃない。
勝手に森を切り開き工業機械等の排煙や化学物質を振り撒いた人間への恨み。
本来なら来るはずもなかった星外生物の招来。
少なからずそれらが星を怒らせた。
共存し質素に生きてきたセトラにさえ星は牙を向いた。
星からの恨み。母からの天罰。

赤黒く滲むそれの下には、星の恨みが刻まれていた。





『お前は悪くない、何も…そう、何も』







陰陽師はそこまでして何を守るというのだ?




ザックスは静かに涙を流した。


end

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あきゅろす。
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