19.recuperation
オイルの臭い
空の見えない黒い雲
排煙、汚水
そして魔晄…
それが、文明都市ミッドガル
しかし、ここにはそんなもの一切ない
あるのは小鳥の囀り
穏やかな河のせせらぎ
優しい風…澄み切った空気…
ウータイは他に流されず独自の文化で確立した民族の郷。
ビルのような石膏やセメントで出来た建築物は無く、あるとすれば木造の建物や古風なたたずまい。
そして独特な風貌の銅像や石碑が無数に存在する水の都。
ザックスとの約束を交わしたあの日から早数日。
神羅から逃れウータイへと戻り、衰弱しきったスバルを見るやいなや族の長に療養するようにと部屋へ隔離され今に至る。
もちろん部屋の外には見張りつき。
ご親切にもウータイの護衛用モンスターまで放されている。
…気が抜ける筈もない。
まぁ、易々とさらわれたのだから仕方がないだろう。
『落ち着かない…』
あの日、
別れる間際。
彼の身体がビルから堕ちたのが確かに見えた。
………死んだとは思わない。
いつかまた会える。
そう信じたい……
「スバルー、大丈夫?」
襖の向こうから間の抜けた声が聞こえた。
主従関係、この郷の掟で主の部屋に入るにしても甲乙をとらなくてはならない…。
嫌いなんだけどと言うがあの3人は絶対きいてくれない。
罪人であった3人であるのに……
返事を返すとゆっくりと襖が開きピンク頭が部屋へとズカズカ入って来た。
「Σうげっ湿気臭い!
よくこんな所にいるわねー?換気換気…って格子さえ開けれないの?」
『隔離状態』
「ないわー…でも大丈夫!やっと陰陽寮に帰れる御達示が出たの」
陰陽寮―……
それは陰陽師が住む住居、それは現当主、そして末代当主のスバルの家。
『わかった…ヒバリとトラは?』
「ヒバリは神羅の動きについて情報収集、トラはウータイへ来る神羅兵討伐。アイツら懲りないわねー、ホント」
神羅は諦めていない。
ウータイを手中に入れたいと今も虎視眈々と狙っている。
おかげでウータイのお偉い幹部達は心休む間もない……
寝巻きを着替え着物に腕を通し腕に数珠を巻き付け陰陽特有の羽織りを羽織ると裾を翻し二人は部屋をたった。
足音も何も立てず空気に溶けるよう…
そう、
神羅は諦めちゃいなかった。
日々ミッションとして派遣されてくる神羅兵。
仕方なく立ち向かい討伐し続けるしかない毎日。
…終わった筈の戦争。
けど事実、小さな紛争は続く。
平和は無いのか……?
ゆっくりと迫り寄る影
行かずとしても来る標的
闇の中唇を噛み締め胸を押さえる
恐怖が、笑って近づいて来ている事実に
もう逃げられないという事実に
押し潰されないよう
「フン…」
郷を一望できる高い崖の上。
銀の髪をたなびかせ一人の男が小さく微笑んだ。
誰も気づかぬよう、殺気を殺して…
END
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