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10.Voice







「ねぇ、教会へ行かない?」







傷も癒え殆どの包帯が取れる頃、エアリスがいつも一人で行っていた教会へ一緒に行こうと誘われた。

もちろん俺は頷きスラム外れの、あの教会へと…初めて会った教会へと歩を進めた。





















あれからどれくらい経っただろう。


エアリスにお世話になって軽く十数日。
そろそろスバルもここを出て行かなければならないと思っていた。
そんな時、絶妙なタイミングでエアリスは教会へ行こうと誘いを出したのだ。












ギィイッ―――…






教会の古びた扉が開く。

中は荒れ果てていて凄く老朽化している。
けれど一つ違うのは、その中心に光が差し込み綺麗な花を咲かせているということだった。





「ようこそ、スバル。
ここが私の大好きな場所」





ステンドグラスから漏れる鮮やかな光りが朽ちた木材達へと色付けている。
少年は導かれるように中へ入り自然と花達のもとへ歩を進めた。



スラムに日は射さない。
ましてや雨でさえ人工的に降らしている。

なのにここだけは違った。

人工的ではない自然の太陽の光が教会の中を照らしている。

故郷で感じたあの暖かさと同じ暖かさがそこにはあった。





『綺麗…』

「スバルが堕ちてきてお花ぺしゃんこになったの。でも、お花ってね、そんなに弱くないんだよ?」





ほら、と俺が堕ちてきて踏み潰したであろう場所はもう既に元の姿に戻っていた。
しかもそれ以上に綺麗に咲き誇り気高く、そして凛として咲いていた。





『素敵な場所だね…ここ』

「気に入ってくれた?」

『もちろん!』

「よかった…」






スバルは最初に会った時よりもずっと素直に感情をみせてくれるようになった。
それは彼女にとって凄く嬉しいことだった。

鼻唄を歌いながらエアリスは花の前でしゃがみ手入れを始める。


ここの花凄く生き生きしていた。それはきっとこの子の愛情の篭った世話のお陰なんだと思う。
雑草をとって害虫から守って―…





「あ、…この子病気。可哀相だけど…抜かなきゃ」





エアリスが手にとったのは明らかに元気を失い色の変わったまだ蕾の花。

スバルはそれを見て立ち上がり、そして光を見詰め上げゆっくりと口を開いた。






『エアリスの為に、私の声で恩を返そう…心優しき少女の為に…』






振り向くと辺り一面に心地よい風が包み、静かに鈴の音が周りにコダマする。

鳥の囀りよりも綺麗に、
川の流れのように優しく透き通った声―…



自然と周りの空気が変わり歌声に導かれるように花達が生き生きと花開き出す。



「あっ!」



手元の蕾に光が包む。
よく見ると徐々に病が消えて元気になるのが目の当たりになった。





「スバル…」









奇跡の声――…





そう思えた。












この子は私よりも実は年下で…


気づけば同じ意志を持っていた―…











声が止むと銀と青の髪がふわりと揺らめき、蒼い双眸がエアリスを捕らえその表情は普段と同じ顔で、ふわりとした微笑みをくれた。



『エアリス…』

「スバル、もう行くの?」

『…エアリスにはなんでもお見通しなんだね』

「また会えるよね?」

『もちろん。俺達は"友達"だから』





お互い手を握りしめ合い額を合わせて誓い合った。























離れても、


ずっと一緒だと――…





























「お取り込み中悪いんだけど一緒に来てもらうぞ、と」














突如二人しかいない空間に男性の声が鳴り響く。


カツ…カツ…と足音が近づいてくるのがわかりそちらを振り向いた。
そこには自信が無ければできないであろう赤髪の青年が一人。
その後ろにはスキンヘッドでサングラスを付けたガタイのいい男が立っていた。





「レノ!?…何しに来たの?」

「そこの姫さんを連れに来たんだぞ、と」





エアリスはスバルの前に庇うように立ち上がった。

どうやら二人とも面識があるらしい。
ここ数日間感じつづけた視線はきっと彼等だろう。





『神羅か…』

「…久しぶりだな、と」

『遇いたくなかった』

「相変わらずつれないぞ、と(苦笑」





レノはロッドを出し肩を叩きながら様子を伺っている。

…こっちにはエアリスがいる。
戦闘するには一人ならともかく明かに不利だ。















『…わかった、行こう』

「スバルッ…!!?」





セフィロスに切り裂かれた着物の上を片袖だけ羽織りベルトで絞めると袖から狐のお面を付けてスバルはレノ達の元へ自ら歩寄った。





「…いいのか、と?」

『…変なことを聞くな?』

「別に独り言だぞ、と」



「スバル…ッ!!!」





エアリスの悲痛な声が鳴り響く。
それにスバルは振り返る事なくただ―リンッ――と鈴の音を残しいつの間にか外で待機していたタークスのヘリに乗り込んだ。











―――また会える―









そう信じて。



end

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あきゅろす。
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