僕の空色クーピー
空が、大好きだった。
小さい時から青く澄んだ空がだいすきで、オレの持ってるクーピーはいっつも水色だけ小さかった。
「準さん、」
今日も空は青く澄んでいて、
「…利央」
オレのだいすきな色だった。
白い雲がふわふわと浮かんでいて、それがオレの中のよくわからない緊張感を無くしてくれる。
「和さん、いなくなっちゃったね…」
座ったベンチは少し冷たい。気温はこんなに高いのに、とギャップを感じる。
準さんの顔は、見ない。見れない、のが正しいかも。
「うん…」
準さんはさっきからずっとホームベースを睨んでる。
ねぇ、そこに和さんはいないんだよ?
心の中で繰り返される酷い言葉。
「準さん、あのね」
「うん」
準さんはホームベースに顔を向けたまま。オレは空を見上げたまま。記憶の片隅で折れた水色のクーピーを思い出してた。
「オレ、和さんが居なくなってほっとしてる」
ぱき、という歯切れの良い音がしなかったそれはいつまでもオレの頭の端に置いてあった。転がったまま。ずっと。
「準さんがオレを見てくれるって思ったらどこかですごく安心した」
転がったそれをオレは何を思うでもなく見つめて最後にはゴミ箱に捨てた覚えがある。
「…ごめんなさい、準さん」
平気な顔して新しいのを買ってもらったオレは大喜び。
「ごめんなさい」
謝ってんのは和さんになのか準さんになのか、折れて捨てたクーピーになのか。
オレにはわからなかった。
「…いーよ、別に」
そう言って準さんは顔を上げた。
オレと同じ空を見上げた。
「和さんが引退すんのは変えられないことだったし」
涙が目をいっぱいにした。前が霞んで水色がぼやける。
「お前が和さん引退するってんで喜ぶのはムカつくけど」
ぼとぼと、情けない程に落ちる雫。
「でもそれくらい思っててくんないと逆にこっちが投げにくいしな」
頭に準さんの手の感覚。
暖かくて、でも暑いなんて思わなかった。
「ま、和さん以上のキャッチなんていねーよ」
あぁ、きっとこのひとはオレとは違うひと。
折れたクーピーをセロハンテープで繋いで永遠と使い続けるひとなんだ。
すぐにそれは折れてしまうけど、きっとこのひとはまた繋ぎ止めるんだ。
そしてこの空を描くんだ。
ずっと変わらないこの空を。
「ね、準さん…」
きっと、彼はこの柔らかいクーピーに似ていたんだよ。
だから不器用でも、すぐ折れてしまうってわかってても必死に繋ぎ止めたんでしょう?
「空の色ってすき…?」
僕の空色クーピー
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