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オレンジの海での話





突然、仲沢利央は泣き出した。

泣いた、と言っても、わんわんと声をあげるのではなく、静かにぽとぽと涙を落としていた。

「どした」
聞いてみると目を擦りながら持っている絵本を指差した。寒色系の絵の具で彩られた絵本。タイトルは普通のひとはご存じの人魚姫。
利央の見ているページは丁度、人魚姫が自ら命を絶とうというところ。自分の喉に切っ先を向け、目を瞑り愛しいひとを想う人魚姫。
ストーリーを思い出し頭があぁ、とかそうだったなとか頷く。隣の鼻を啜る音で現実に引き戻されたが。
静かな二人だけの図書室に鼻を啜る音が妙に響く。笑いを誘っているのだろうか。
「あの、ね」
笑いなんて欠片も感じない声がゆっくりと口から落とされていく。茶化してごめんと内側が謝る。
「人魚姫がなんで王子様を殺さなかったのか、オレ、すごく不思議だった」

「王子様を殺さなきゃ、自分が死んじゃうのに、なんでって」

長い利央の指がページの人魚姫をなぞる。す、と動くその動きは何故か人魚姫の泡になる瞬間を彷彿させた。

声が、響く。


「でも、わかったんだ」










「人魚姫は王子様がいない世界は嫌だって思ったんだよ。だいすきな王子様がいない世界に自分はいたってしょうがないって」

「王子様は自分が居なくても生きていける。だから、」

「自分は泡になった、か?」
返した言葉に利央は声でなく、静かに頷いた。

「随分と、身勝手だな」
「それくらい王子様がすきだったんだよ」
「もしかしたら王子だって人魚姫をすきだったかもしれない」
「………」
「人魚姫が消えたのを知って海に飛び込んで死んだかもしれないだろ?」
「………ねぇ、」
「なに」
「準さんは、飛び込んで死んでくれる?」

夕日が沈み始めていて、利央の髪がほのかにオレンジに見えた。


「オレが死んだら、追っかけてくれる?」


逆光だかで見えない顔がまた泣いてませんように。


「俺が、お前を好きならな」


驚いたそれの額にキスをした。見えなかった顔は泣いてなかったので少し、安心した。






(ねぇ、貴方がいない世界で生きていくなんて、私、嫌よ)

(貴方がいないことで悲しむひとが多くいるのならば、私は私なんていらないわ)






オレンジの海での話


二つの考え方

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あきゅろす。
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