聖闘士☆矢(年齢制限なし) 生還(シャカムウver.)腐向け 同じタイトル話のやや不健全バージョン。 友人としての立場から先に進めないじれったい二人。 嘆きの壁を破壊するため、黄金聖闘士全員が初めて結集し、命を賭けた。 その彼らのうち、生きたまま冥界へ赴いた約半数の黄金聖闘士達が聖域に再び帰って来た時、女神軍の誰もが驚いたものだった。 生還した牡羊座のムウ自身、どうやって帰って来たのか全く記憶にない。 覚えているのは、白羊宮の上空に自分が突如として出現し、訳も分からず受け身も取れずに落下したところからだ。 貴鬼が泣いて飛び出して来て抱きつくのを受け止めながら、ムウは考えていた。 自分が生還出来たのは、誰の力なのだろうと。 始め、ムウはアテナの加護だと思っていた。 しかし、嘆きの壁の向こうに消えたハーデスを夢中で追いかけた彼女にそんな気配りが出来るはずがない。 では、誰が。 嘆きの壁が破壊される寸前、時空間の歪みを察知したような気もする。 時空を操るといって、真っ先に連想するのは黄金聖闘士の中でも最強クラスの双子座と乙女座。 特に乙女座のシャカは一輝の自爆を無効化したことがあり、禁忌の必殺技アテナエクスクラメーションでさえワープの隠れ蓑にしてしまったほど爆発エネルギーをいなす技術に関して天才的な才能を持っている。 「シャカ…なのか」 ムウは一つの確信にたどり着くと、シャカの小宇宙を求めてシャカの守護する処女宮に向かった。 処女宮はアテナエクスクラメーションの撃ち合いで崩壊し、瓦礫の山だったが、その向こうの沙羅の木の木陰にシャカが倒れているのを見つけ、ムウは慌てて駆け寄った。 「シャカ…、シャカ、目を覚ませ、シャカ!!」 ムウは傷だらけのシャカを抱き起こすと、必死にシャカの名を呼んだ。 黄金聖闘士の中でも回避能力が優秀なシャカがダメージを受けたことは、めったにない。 冥衣黄金三人との一対三の戦いの時ですらカミュのダイヤモンドダスト一発の被害に抑えたシャカがこれほど傷だらけになるとは。 「う……うう…」 シャカが呻いた。 いつも綺麗な顔をしていたシャカがこんなに傷だらけになったところを見るのは、ムウは初めてだった。 しかし、いつも超然としていたシャカの傷だらけでボロボロの姿の、その傷はまさに男の勲章のようにムウには思え、とても好ましく感じた。 「シャカ、起きろ。これしきのことで参る君ではないだろう?」 癒やしの小宇宙を送りながら必死になって叱咤激励するムウの言葉にシャカは眉を寄せた。 どうやらシャカは意識があるらしい。 良かった……。 安心したように微笑んだムウに対し、シャカはブツブツと言った。 「……黄金聖衣を着けている君と生身で落下した私を一緒にしないでもらおう。他の者を連れて来るのにいささか無茶をしたのでな。自分の身をかえりみるいとまがなかったのだ」 そういえば、シャカは乙女座の聖衣を着ていない。 ムウは驚いてシャカを問い詰めた。 「君、聖衣はどうした」 「…エリシオンで瞬が苦戦していたので貸してやったらハーデスの手下の神に粉々にされた。文句があったら瞬に言ってやりたまえ」 ムウはむっとしてシャカの頬をむにゅっと引っ張った。 「…何をする」 迷惑そうな顔のシャカの胸に顔を押し当ててムウは言った。 「久しぶりに二人きりで会ったばかりなのに、他の人の名前ばかり出すな…。君が同じ乙女座生まれの瞬のことを気にかけているのは知っているが、瞬、瞬って二回も言わなくてもいいだろう?」 シャカは長い睫毛を揺らしてゆっくりと目を開けると、ムウの顔を上げさせ、目と目をしっかりと合わせて見つめ合った。 ムウは恥ずかしそうに頬をほんのりと赤く染めた。 「聖衣が破壊された経緯を説明しただけだ、他意はない。だが、無神経だったというなら謝る。すまなかった」 唯我独尊で俺様でめったに謝らないはずのシャカに謝罪されると、ムウはつまらないことで嫉妬した自分が恥ずかしくなった。 「…もう、いい。君に謝られると気味が悪い。それより、君、立てるか?」 ムウは強引に話題を変えた。 シャカはゆらりと立ち上がった。 少し危なっかしいが自分の足で立ち上がったシャカを見てムウが安心したように表情をやわらげた。 「歩けるか?白羊宮にしばらく泊まってくれ。処女宮はこの有り様だから住めないだろうし……」 普段はあまりベタベタしたがらないはずのムウが心配そうに手を差し伸べようとするのを断って、シャカはムウと肩を並べて歩き始めた。 「…問題ない。では、しばらく厄介になるとしよう」 シャカの返事に、ムウは幸せそうに微笑んだ。 白羊宮に着くと、ムウは自分の寝室へシャカをいざない、自分のベッドにシャカを座らせると、再び癒やしの小宇宙でシャカを癒やした。 「…もういい、ありがとう。手数をかけた」 律儀に礼を言ったシャカにたまらなくなってムウはフルフルとかぶりを振るなり、シャカに抱きついた。 「…どうしたのだ」 シャカがゆっくりと目蓋を上げ、目を開いた。 数回まばたきをしてからムウを見つめる瞳はムウが冥界で見た時よりずっと蒼かった。 ムウは頬を染めた。 我慢することには慣れているはずなのに、シャカと地上で再会してからというもの、どうも抑えがきかなくなっている。 「なんでもない……」 親しい友人としての立場を、二人の関係を壊すのが怖い。 でも、シャカを独占したい、シャカに自分だけを見つめて欲しいと願う気持ちが膨れ上がって抑えがきかなくなりつつある。 「なんでもないという顔ではないな。きちんと説明したまえ」 シャカに逃げ道をふさがれると、ムウの頬はますます火照った。 「…礼などいらない。そんなことより…」 ムウは口ごもった。 人里離れた僻地でひっそりと暮らしていたムウは色恋沙汰に対して全く免疫がないし、知識も成人男性としてはお粗末極まりないため実際何を求めているのか自分自身、よく分かっていない。 分かっていることはシャカのぬくもりに包まれている今の感触を離したくないということだけだ。 「そんなことより?」 辛抱強く先を促すシャカに、ムウは蚊の鳴くような声で望みを恐る恐る口にした。 「しばらくこのままでいたい」 ムウの示す親愛の情は、友情というより愛情なのだろう、とシャカは思う。 だが、ムウは友としての立場を超えたいとは思っていないらしい。 そうであるならば、しばらくはこのままでいるのも悪くはない。 処女宮の修繕が終わるまでは白羊宮にいられるのだから、焦る必要はない。 ベッドの上で抱き締めあいながら、そんなことを考えているシャカとムウの関係は、まだ清かった。 [*前へ][次へ#] |