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聖闘士☆矢(年齢制限なし)
生還(シャカ&ムウ)乙女羊祭2011
 嘆きの壁を破壊するため、黄金聖闘士全員が初めて結集し、命を賭けた。
 その彼らのうち、生きたまま冥界へ赴いた約半数の黄金聖闘士達が聖域に再び帰って来た時、女神軍の誰もが驚いたものだった。
 生還した牡羊座のムウ自身、どうやって帰って来たのか全く記憶にない。
 覚えているのは、白羊宮の上空に自分が突如として出現し、訳も分からず受け身も取れずに落下したところからだ。
 貴鬼が泣いて飛び出して来て抱きつくのを受け止めながら、ムウは考えていた。
 自分が生還出来たのは、誰の力なのだろうと。
 始め、ムウはアテナの加護だと思っていた。
 しかし、嘆きの壁の向こうに消えたハーデスを夢中で追いかけた彼女にそんな気配りが出来るはずがない。
 では、誰が。
 嘆きの壁が破壊される寸前、時空間の歪みを察知したような気もする。
 時空を操るといって、真っ先に連想するのは黄金聖闘士の中でも最強クラスの双子座と乙女座。
 特に乙女座のシャカは一輝の自爆を無効化したことがあり、禁忌の必殺技アテナエクスクラメーションでさえワープの隠れ蓑にしてしまったほど爆発エネルギーをいなす技術に関して天才的な才能を持っている。
「シャカ…なのか」
 ムウは一つの確信にたどり着くと、シャカの小宇宙を求めてシャカの守護する処女宮に向かった。
 処女宮はアテナエクスクラメーションの撃ち合いで崩壊し、瓦礫の山だったが、その向こうの沙羅の木の木陰にシャカが倒れているのを見つけ、ムウは慌てて駆け寄った。
「シャカ…、シャカ!!」
 シャカは傷だらけだった。
 黄金聖闘士の中でも回避能力が優秀なシャカがダメージを受けたことは、めったにない。
 ムウの知る限り、シャカが負傷したのは二回だけだ。
 冥衣黄金三人との一対三の戦闘の時と、嘆きの壁破壊を試みた時しかない。
 そのシャカが、最後に姿を見た時よりひどい怪我をしている。
「シャカ、しっかりしろ、シャカ!」
 ムウはシャカを抱き起こすと、必死に名前を呼んだ。
「う……うう…」
 シャカが呻いた。
 いつも綺麗な顔をしていたシャカがこんなに傷だらけになったところを見るのは、ムウは初めてだった。
 しかし、いつも超然としていたシャカの傷だらけでボロボロの姿の、その傷はまさに男の勲章のようにムウには思え、とても好ましく感じた。
「シャカ、起きろ。これしきのことで参る君ではないだろう?」
 癒やしの小宇宙を送りながら必死になって叱咤激励するムウの言葉にシャカは眉を寄せた。
 どうやらシャカは意識があるらしい。
 良かった……。
 安心したように微笑んだムウに対し、シャカはブツブツと言った。
「……黄金聖衣を着けている君と生身で落下した私を一緒にしないでもらおう。他の者を連れて来るのにいささか無茶をしたのでな。自分の身をかえりみるいとまがなかったのだ」
 そういえば、シャカは乙女座の聖衣を着ていない。
 ムウは驚いてシャカを問い詰めた。
「君、聖衣はどうした」
 シャカは眉をしかめると、地面を指差した。
 そこには金色の粉が落ちていた。
「…エリシオンで瞬が苦戦していたので貸してやったらハーデスの手下の神に粉々にされた。一応、粉も回収しておいたが。文句があったら瞬に言ってやりたまえ」
 ムウはむっとしてシャカの頬をむにゅっと引っ張った。
「…何をする」
 迷惑そうな顔のシャカの胸板に顔を押し当ててムウは言った。
「久しぶりに二人きりで会ったばかりなのに、他の人の名前ばかり出すな…。君が同じ乙女座生まれの瞬のことを気にかけているのは知っているが、瞬、瞬って二回も言わなくてもいいだろう?」
 シャカは長い睫毛を揺らしてゆっくりと目を開けると、ムウの顔を上げさせ、目と目をしっかりと合わせて見つめ合った。
 ムウは急に気恥ずかしくなって頬をほんのりと赤く染めながらもシャカを見つめ返した。
「聖衣が破壊された経緯を説明しただけだ、他意はない。だが、無神経だったというなら謝る。すまなかった」
 唯我独尊で俺様でめったに謝らないはずのシャカに謝罪されると、ムウはつまらないことで苦情を言った自分が恥ずかしくなった。
「…もう、いい。君に謝られると気味が悪い。それより、君、立てるか?」
 ムウは強引に話題を変えた。
 シャカはゆらりと立ち上がった。
 少し危なっかしいが自分の足で立ち上がったシャカを見てムウが安心したように表情をやわらげた。
「歩けるか?白羊宮にしばらく泊まってくれ。処女宮はこの有り様だから住めないだろうし……」
 普段はあまりベタベタしたがらないはずのムウが心配そうに手を差し伸べようとするのを断って、シャカはムウと肩を並べて歩き始めた。
「…問題ない。では、しばらく厄介になるとしよう」
 シャカの返事に、ムウは幸せそうに微笑んだ。
 ともに聖戦を戦い、生き抜いた二人はこの後、ムウの白羊宮でともに語り合い、疲れを癒やすだろう。
 その時が待ち遠しかった。
fin.

乙女羊祭2011参加作品です。

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