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バスケ漫画小説(年齢制限なし)
新型の幻の六人目と魔術師が初めて公式戦で同じコートに立つ話(黛ナシュ第5話)


 まさかこいつとチームメイトになる日が来るとはな……。
 新入生どもに混じってひときわ目立つ緑色の頭を見てしばし感慨にふけったオレはナッシュ・ゴールド・Jr。
 グレていた頃ストバスで有名人になっていたが、日本のチームに負けたことを期にストバスチームジャバウォックを脱退、バスケの強豪でもある名門UCLAの学生として正統派のバスケの世界に戻った。
 とはいえ、大学バスケはストバスとはレベルが違う。もちろん下手クソとは言わせないだけのものは持っていたつもりだが、オレぐらいの実力では化け物揃いのUCLAではポジションで一番になるにはまだ力不足だった。
 同い年の選手の中ではオレがトップだったものの、上級生を押しのけるには至らず控えでくすぶっている間にスランプを経験したり、犯罪に巻き込まれたりそれはそれはいろいろなことがあった。
 今年こそようやくレギュラーになれそうだという年の秋、ルームメイトの黛のもとに誰かからランチの誘いが来た。
「高校時代に対戦したことがある黛さんにUCLAを案内してほしいのだよ。か。まあいいけど」
 黛は幼なじみの花宮から転送されてきたメールを読み上げた。
 日本の知り合いからの連絡をほぼシャットアウトしている黛は花宮か寮のルームメイトのオレ(対外的には。恋人同士なのはそれほど大勢には教えていない)経由での連絡のみ受け取るが、それ以外はもれなく迷惑メールフォルダー行きに設定している。
 火神やアレックスは現地の知人枠なのでまた別らしいが、あいつらと黛がつながっていることを知っている人間自体がそもそも少ない。
「高校時代に対戦?洛山の時に戦ったヤツってまさか黒子じゃねえだろうな」
 黒子に似たラノベの女の子を推している黛に黒子を近づけたくない。
 オレが嫌な顔をすると黛はちげーよ、と言いながら苦笑した。
「黒子は成績は普通らしいからUCLAには来れないさ。それにあいつ花宮のことが嫌いだから黒子なら花宮を頼らず火神経由で伝言寄越すんじゃねえの。お前も知ってるだろ、緑間。オレあいつとも高校の時対戦してんだよ。特に因縁とかないのに向こうが覚えてたのは意外だが」
 そう言えば、黛の日本時代のプレーを観察するため過去の映像を見ていたら緑とも対戦していたのを見た。
 マークを赤司と交代するまで、黛ともう一人で緑のマークについていたので覚えられていても不思議はない。
「緑間?ああ、あのクレイジーなシュート撃つシューターの。あいつも修学旅行か」
 今まで、修学旅行とやらでUCLAにいろんなヤツが見学に来たので今更驚かない。
 他校の学生が黛を訪ねてくるのは花宮の例もあるし、珍しくもない。
「さあな。てゆうかWC準決勝の日にたった一言しゃべったきりだぞ。赤司が緑間の握手拒んだからかわいそうかなと思って『赤司が悪かったな。オレでよければ握手するか?』って聞いただけだけど」
「日本の思い出を話すと相変わらず息するように赤司の話が出てくるな、お前」
 いちいち怒る気にもならねえ。
 見かけによらず後輩の尻拭いするいい先輩だったんだなと思う。
 約束した日がやってきて緑間と、緑間と同じ高校のチームメイトが黛を訪ねてくると、黛はほぼ初対面のそいつらに嫌な顔もせず大学を案内してやった。
「どうしてオマエが一緒なのだよ……!」
 緑間は眉間にシワを寄せ、ひどく不機嫌なツラをしてオレに苦情を言った。
「あ?オレはこの大学の学生だ。いて悪いかよ」
 黛が他のヤツと一緒にいるだけでも気分が悪いってのにましてやヴォーパルソードのヤツとくれば、不快感はうなぎ登りだ。
『まあまあ真ちゃん』
 ヴォーパルソードで控えだった前髪センター分けの男がなだめると緑間は不承不承口をつぐんだ。
 シンちゃんというのはどうやら緑間の愛称らしい。
「お前らもバスケ体験していくか?緑間はキセキの世代の一人と呼ばれる高校バスケ日本一のシューターだって説明しといたからコーチはプレーをぜひとも生で見たいって言ってたぜ」
 コーチが見たいと言ったのは緑間であって、もう一人のことは特にコメントしてなかった気がするんだが、もう一人はわがことのように喜んでテンション高く言った。
『黛さんどんだけ未来見えてんすか?!やべー!やろうぜ、真ちゃん!オレ達のとっておきを見せてやるのだよ』
 なんだこいつ……。
 前髪センター分けの高尾とかいうやつはえらく騒がしいヤツだった。
「オレの真似をするな」
 緑間は照れ隠しか、眼鏡のブリッジを押し上げて言った。
 日本人はStrkyの四番といい、ヴォーパルソードの控えでベンチにいたヤツといい、緑間といい、眼鏡の使用者がやけに多いがバスケは接触競技だから実は危ないんじゃないのか?
「そう言えばお前、今日のラッキーアイテムはどうした?いつも変なもの会場に持ち込むことで日本の中学高校バスケ界の有名人だったくせに今日はなんも持ってないのな」
「今日のかに座のラッキーアイテムは相棒なのだよ。相棒ならここにいるから問題ない」
「ブッ」
 黛が珍しく無表情を崩して吹き出した。
 緑間はオレと同じかに座だったのか。
 ならばオレもラッキーアイテムが隣にいることになる。
「ああ……、お前らかに座なんだな。ところで魚座は?」
 黛は自分の星座のラッキーアイテムを聞き始めた。
『今日の一位は魚座でラッキーアイテムはバッシュなのだよ』
 黛は真顔になった。
 バッシュなら履かない訳ねえし、しかも緑間が信奉する占いの一位。火神の成績の危機を救ってきた神様の鉛筆を入手したのは緑間だと聞いているし、こいつなんか神がかり的なところがあるんだよな。

 今までバスケ体験の日本人が来るたびに黛が同じチームに入ってプレーしてきたが、今回は元チームメイトでなく元敵チームだということもあって同じチームにはならず、緑間、高尾チームには大型選手のメタル、ブロンズ、アイアンが入った。
 そしてオレと黛は同期のブラウン、ボルドー、ローズと組んで隣のコートで別の試合に出るよう命じられた。
「あいつら、やれると思うか?」
「無理だな。メタル達は昔のお前以上の人種差別主義者だから黄色人種の緑間、高尾には多分めったにボール回さないだろう。奇襲で何回か点取るのが精一杯じゃねえか?それでもコーチは緑間の特異性には気付くだろうけど」
 黛は淡々と分析した。
 こっちの試合?
 オレと黛がいて負ける訳ねえだろ、圧勝だ、圧勝。
 それは当然だからまあいいとして。

 試合に出ながらチラッと見ただけだが、高尾の実力はどう見ても下位だった。
 得点能力が低く、ボール回しと緑間との連携しか取り立てて長所と呼べるものがない。
 単体ではとてもUCLAの選手には通用しないレベルだ。
「おまけに攻撃の組み立てがなあ……」
 緑間はパスをもらってキャッチアンドシュートが得意なピュアシューターなのでPGの試合の組み立てや仲間との連携の巧拙が得点力に直結する。惜しいことにジャバウォックとの対戦で点を取りまくった得点王の面影はそこにはなかった。
 緑間はスカイダイレクト3pシュートとやらで観戦していた者全ての度肝を抜いたのもつかの間、2メートル級のデカいヤツにダブルチームで警戒されるとほとんど仕事をさせてもらえなくなってしまいイラついている様子。
 高尾・緑間コンビでは事態を打開出来ないと見切りをつけたコーチは、緑間にはもう一度チャンスをやることにしたようだ。
 次のゲームは高尾やメタルらは外されてオレと黛が呼ばれた。
 敵としてではあるが同じコートでプレーを見て、苦しめられた経験からプレースタイルをよく知っているオレと黛、黛の影の薄さに慣れてきたチームメイトの腹黒センターホワイティと陽気なオレンジ(フォワード)が選手シャッフルで緑間と同じチームに。
 一方の対戦チームはほぼ去年のレギュラー達。
 
『緑間。お前、一人で点取ろうとすんのはよせ。日本ならともかくアメリカの大学バスケじゃそんなん通用しないぞ。もっと味方頼れ。オレがいた洛山と対戦した年はもっと味方信じてプレーしてただろ。何退化してんだよ』
 黛がいきなり説教すると緑間は仏頂面で、
『退化してないのだよ!』
 と怒鳴った。
 〜なのだよ、というのはこいつの口癖らしい。
 オレがジャバウォックにいた頃、対戦した当時は怒鳴るイメージはなかったが、あまり英語が得意でないのかもしれない。
『なら、オレ達を頼れ。昔はともかく、今は味方だってことを忘れるな。人種差別主義者も中にはいないとは言わねえけど、役に立つならボールくらい回す程度には状況判断能力はある奴のが多いから、得意のシュートビシバシ決めてチームの役に立ってみせろ。パス回してほしけりゃちゃんといいとこにいろよ』
 黛が先輩らしくビシッと言うと緑間は目を爛々と輝かせて頷いた。
『オレのシュートレンジはコート全てなのだよ』
『知ってる。とりあえずしばらくは旧型君の猿真似してた頃のミスディレクション使うからボールをしっかり見ろ。「あと、日本語で日本人同士ばっかりでコミュニケーション取ってると内緒話してると思われて印象悪いから英語話せよ。キセキの世代の中じゃお前頭いい方だろ。赤司から聞いてたぜ。片言でもブロークンでもOK、スピークイングリッシュ!分かったな?」
 また赤司か。
 黛が知ってるキセキの世代情報は赤司から聞いた話だらけなんだよな。
 今更腹立てるのも馬鹿らしい。
「はい……」
 緑間は聞き取れるし話せるが照れがあってあまり英語を話そうとしないだけだったらしい。
 よくあるシャイな日本人ってとこか。
「お、ついに消えるマジックやる気か?」
 オレンジ達は日本語は分からないが、黛がミスディレクションで姿を消したように見せているということくらいは知識として知っている。
「手品の種考えたのはオレじゃないけどな。緑間はオレより先にそのマジックやった黒子と同じチームにいたからすぐ慣れるだろ」
 オレのベリアルアイに予備動作なしのパス、黛の視線誘導と味方のゾーン誘導、緑間のスカイダイレクト3pシュート。ホワイティとオレンジは身長もジャンプ力も速さも兼ね備え、攻守ともに隙のない有能なプレイヤーだ。
 守備に関しては身長が低く高さが足りない黛と、簡単に抜かれる緑間は穴だが、攻撃面ではちょっとやそっとでは止められない得点力が大きい。
 以前緑間が言ったという二点より三点の方が強い理論が現実味を帯びてきた。
 緑間をうまく使って快勝すると、緑間は来年入学したらぜひバスケ部に来なさいと言われてた。
 黛はラッキーアイテムと言われていたわりにいいところのなかった高尾のことを気にかけていたが、
「こんなことくらいでへこんでたら真ちゃんの相棒は務まんないっすから!大学では黛さんにパス出してもらうことになるでしょうけど、真ちゃんのこと頼んます!スカイダイレクト3p、赤司とゴールドは軽々やってのけてたけど凡人は練習しなきゃ合わないんでいっぱい練習して下さい。黛さんはオレと同じ凡人枠でしょ」
 とか失礼なこと言われて無表情ながらイラッとしていた。


 そして現在。

「緑間、お前勉強しなくていいのかよ」
 スカイダイレクト3pの自主練習に延々とつき合わされている黛がたまりかねたように聞くと緑間は真顔で言った。
「NO。オレの成績は落ちん」
「建築のオレと違ってお前医学部だろ……。同じ理系でも分野が違いすぎて数学くらいしかかぶってねえし、フォローしてやれねえぞ。ローズみたいに成績が足りねえから転学とかみっともないことになるなよ」
 黛はゴーストライターの才能があるのか、レポートの代筆を時々している。
 黛と履修科目がかぶっていたことによって救われた者は意外に多い。
 理数系科目に強く、コンピューターや裏情報にも通じていて、ニンジャと呼ばれるほど隠密性に優れた黛はつくづくムダにスペックが高い。
『ローズ?誰なのだよ』
「日本語使うなっつうに。ローズってのは去年までいたチームメイトでお前がバスケ体験しに来た頃はまだいた赤毛の奴だ。単位が取れなかったってオレンジが言ってたな」
「誰のことだか分からないのだよ」
「チームメイトの顔と名前くらい覚えろよ。オレ達と去年同じチームで戦ったホワイティ、オレンジ、ブラウンとボルドーは今年のレギュラー候補だろうから嫌でも顔を合わせるだろ」
「黛さんはレギュラー候補ではないんですか」
 緑間は黛の忠告をスルーした。
 オレ達ジャバウォックがこてんぱんにしたStrkyにはこいつの先輩がいたらしいが、そいつもきっと苦労したことだろう。
「オレ?オレは当落線上の六人目候補ってとこかな。これでもやっとここまで這い上がったんだぞ。選手でなくマネージャーならいいって言われて裏方仕事引き受けたりな。ナッシュやお前の力使って必ず幻の六人目になってやるからオレのパスでガンガン得点決めてオレにアシストをつけさせろ」
 黛は学業ではとことん高スペックだが、バスケにおいては化け物揃いのUCLAの中ではまだ一般人に近い。
 日本人にしてはかなりいい方とはいえ身体能力にはそこまでの伸びしろがなかったし、身長の伸びも180センチ台半ばで止まってしまった。
 だが、黛には視線誘導とミラクルパス、そして成功率はまだまだだがゾーンへの誘導サポートがある。
 高さのなさや守備範囲の狭さなどのマイナス面を補って余りあるサポート力で戦況をひっくり返せる可能性を秘めた選手にまで実力をつけた黛は、今年こそオレと同じコートに立てるだろう。
「スカイダイレクト3pシュートの成功率を早く100パーセントにするのだよ。オレは失敗するかもしれないシュートを撃つ気はない」 
 緑間は生真面目に言うと黙々とシュート練習を再開した。
 こんなにめちゃくちゃ練習してどうしてケガしないのか不思議で仕方ないが、緑間は身体がやわらかいのでケガをしにくいのだろう。
「チッ……。ナッシュ、パスくれ」
 オレの予備動作なしのパスを受けてタップパスで方向を変え、ジャンプした緑間が空中で投げやすいようにセットするのは、緑間がコンビを組んでいた高尾のパスより数段難易度が跳ね上がる。
 パスが身上の幻の六人目とはいってもそう簡単に会得出来るものではない。
 しかも黛がやろうとしているのは日本の某バレーボール漫画からヒントを得た、最高到達点で止まるパスなのだ。
 止まるは言い過ぎだが、緑間に渡る時に勢いが落ちた状態の方が緑間にとってシュートを撃ちやすくケガの防止にもなる。
 イグナイトパスやイグナイトパス・廻のような速いボールは繊細なシューターの指を痛めかねない。
 そう言えば、実渕にパスをする時は多少手加減したやさしいパスだったような気がするし、余計なことはあまり言わないから気付く奴は少ないが、黛は黙ってサラリと人を気遣える男だ。
「分かった」
 毎晩練習に励むオレ達にとって幸運だったのはUCLAのカフェテリアの営業時間が長く、品揃えが豊かだということだ。
 食うもの食わねえと練習にならねえしな。




 なお、黛と緑間のデビュー戦の日、かに座のラッキーアイテムはベンチ、魚座のラッキーアイテムは左利きの人だった。
 そこでオレ、黛、緑間の順で座っていたのだが、対戦チームとの間に乱闘が勃発すると、オレ達以外は競って乱闘に参加し、ほとんどの奴が退場処分を受けた。
 退場処分を受けはしなかったスタメンの奴も乱闘で殴る蹴るの被害に遭った場所が痛くて交代。
 交代出来るのはオレ達しかいない。
 かくしてNCAAデビューした黛と緑間だったが、MVPになった緑間がおは朝の御利益についてインタビューで熱く語ったのは言うまでもない。
 ちなみに黛も試合に出ていたが、緑間がチームメイトに魚座の先輩がいて、魚座のラッキーアイテムはオレだったのだよと言った時以外は何一つ話題に上がらなかったことはもちろん言うまでもない。

 日本のマスコミはキセキの世代の緑間のNCAAデビューを大々的に取り上げていたが、元洛山の黛が同じ試合に出場していたことは報じられることもなく終わったのだった。


【終わり】
 



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