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黒バス小説(年齢制限なし)
超能力者黛千尋の災難3
 前回までのあらすじ

 オレは洛山高校バスケットボール部三年、黛千尋。
 テレパシー、サイコキネシス、透視、予知、千里眼、テレポート、その他様々な超能力を持つがどれもコントロールが難しかったり基本的に不便でろくなもんじゃない。
 見える聞こえる祓える霊能力もあって、こっちは実害はないが超能力で心霊現象と誤解されるような騒ぎを起こしまくっているオレが、祓える人間だと分かったら霊がらみでないことがバレてしまうので誰にも言ってない。
 そんな訳で超能力と霊能力を持っていることをひた隠しにし、生来の影の薄さをいかして一般人に擬態してきたオレだったが、最近どうも雲行きが怪しくなってきた。
 原因はオレがいるバスケ部の奴らである。

 まず主将の赤司征十郎。
 こいつはオレの影の薄さを見抜いて一度部活を辞めたオレをバスケ部に呼び戻した張本人。
 斉木とその周りの人物でいうと斉木の頭脳明晰さと燃堂の運動神経と才虎の家の超金持ちと照橋さんの人気者っぷりに海藤の厨二病、相卜さんの予知能力(天帝の眼)、超能力者だと疑う明智の要素まで取り入れた手がつけられないヤツ。
 こんな奴に超能力者と疑われてバレないようにするのは極めて困難だ。
 言ってみれば完徹続きの奴に居眠りさせないようにするとか、火薬庫に火を持った奴入らせて火事起こすなよ?というくらい無理ゲーだ。

 ところで、オレはさっき奴らと言った。
 つまり問題は赤司一人ではない。
 頭痛のタネその二、他のスタメン。
 バスケはコートに五人いるスポーツだからオレと赤司の他に三人スタメンがいる。彼らはバスケじゃ無冠の五将と呼ばれる天才だが、それはとりあえず今の話には関係ない。
 予知夢で三人が三人ともかわいそうなことになる夢を見たのだ、しかもそのうち二人は命の危険さえある。

 葉山の件(頭に植木鉢が落ちてくるという夢)は赤司の手というか眼を借りて無事解決したが、その代償として好感度82に上がった。
 好感度が上がりすぎてミスディレクションが効かないレベルだ、実はちょっと困る。

 根武谷のは練習前に腹の虫を鳴らしまくってる夢だった。
 いつも腹いっぱい食ってゲップしては実渕やオレに白い目で見られてる根武谷が腹を空かせてるのは絶対おかしい。牛丼屋の株主優待券と棒状の腹にたまる栄養補助食品をくれてやっておいた。

 実渕は三人の中では一番ヤバく、暗いところで、女子と二人で男(相手は一人しか見えなかったが声が二人ぶん聞こえた気もするのでもしかしたら複数犯かもしれない)に刃物で刺されそうになっている夢だった。
 超絶情報処理能力と発火能力(パイロキネシス)を持つ異世界のオレ(♀、一人称が僕なので通称僕っ子)の助けを借りて実渕は金曜夜の外出が多いことを突き止めたオレは、今回の行き先が図書館ってことを聞いたがあの辺りは今週連続で不審者が出た場所だ。ソースは警察の不審者情報メール。
 目下のところ、オレの一番の悩みのタネはこいつだ。命の危険回避がそりゃ最優先事項だろ。

 だが他にも悩みがない訳じゃない。
 バスケの試合のベンチ入りの選手は15人だがスタメンは五人、つまりスタメンじゃないがベンチに入っている人間が10人いる。そのうち四人とオレがスタメンに入ったことでベンチ入りから漏れた一人の計五人が昨日オレの更衣室のロッカーの鍵をこじ開けて荒らしたことがもとで洛山七不思議と呼ばれる怪奇現象(実は超能力)騒ぎを起こし、その件で赤司からますます疑わしい目で見られているのだ。
 どいつもこいつもオレの平和をなんだと思ってるんだ、いいかげんにしろ。

ΨΨΨ

 あらすじはこのへんにして本編に入ろう。

 部員五人がオレのロッカーの鍵を壊したことが原因で起きた騒ぎの翌日、朝練が終わって着替えの時間になると、部員達は洛山七不思議の件ですっかり盛り上がっていた。
 お前ら暇人かよ。
 ちなみに現在の洛山高校七不思議は、
 誰もいないのに見える人影
 誰もいないのに聞こえるドリブルの音
 動く骨格標本
 開かずの扉
 足音だけの幽霊
 ポルターガイスト
 いつの間にか備品が新品に入れ替わる
 の七つらしい。
 オレが七つ目を聞いた時点では、七つ全部知ったら呪われるという七不思議の定番だったからいつの間にか七番目が変わってたことに気づかなかった。
「昨日もまた七不思議があったんだよ。ロッカーが一つだけ新品だろ?」
 記憶修正済みの昨日の主犯が何も知らずに言う。
「どうせなら全部新品にすりゃあいいのに。昨日は足音だけの幽霊も出たらしいです。根武谷が言ってたっすよ」
 二年がオレの気苦労も知らずに勝手なことを言った。ふざけんな。
 全部新品になんかしたら偽装工作が大変だ。
 過去最も偽装が大変だったのは体育館が全壊した時だ。
 修復(レストア)が得意な異世界のオレ(♀、一人称がおれなので通称おれっ子)を呼んで体育館丸ごと修復と集団タイムリープをやってもらったが、それプラス目撃者全員の記憶操作なり洗脳までやらせるのは超能力の消費が激しすぎるので洗脳のエキスパート(♂、一人称はオレとかぶるので通称俺)も呼んだがそいつはテレポート能力がないので送迎が必要だったり無茶苦茶疲れたのを思い出す。
「昨日廃品の保管庫でポルターガイスト騒動もあったって職員室で噂になってたな。一日に三つある日はあまりないんだけど」
 マネージャーの樋口まで雑談に加わる。
 樋口まで参加すんなよ。
 なんだこの四面楚歌。
 誰もオレの味方がいねえ。
 昨日七不思議の三件発生したことをバスケ部内で知ってるのはスタメン五人だけだったはずなのに、噂広まるの早すぎだろ。おかしいだろ。
「黛は残ってたから知ってるだろ?ロッカーの件、結局どうなった?」
 ロッカー荒らし五人の一人である控えのセンターで三年生のヤツが聞いてきた。
 オレはこの際、事態の収拾につとめた。
「ロッカーに関しては伝達の文書がファイルの中にあって、担当が赤司に渡すのを渡すのを忘れてたと赤司から聞いた。ポルターガイストは、現場にいなかったから見てない。足音はどうせ誰かが通りすぎたのを見落としたとかそういうオチでもおかしくはないよな。心霊現象とかそうそうあるはずないんだし」
 ロッカーの件は赤司からの伝聞系で言っている。赤司から聞いたことを伝えてるだけだから嘘は言ってない。
 ポルターガイストを見てないのも本当だ、僕っ子や赤司から聞いただけだからな。
 足音もそういうオチでも(一般的に)おかしくはないと言っただけでオレがそう思ってるとは言ってないからセーフだろう。心霊現象は世間ではみんな気づかないだけで実はよくあることだがオレの身の回りではそうそうあるはずがない(オレが霊を消してるからあり得ない)。間違ってはいない。
「黛は全然動じないなあ、葉山はなんだかすごい怖がってたけど」
 樋口が感心したように言った。
「動じる訳ねえよ。ドリブルの音とか人影とか自分がネタにされてるんだから怖いはずないだろ」
 〜とか、〜とか。七不思議全部、〜とかに含まれている訳だが、そんなことをオレはもちろん教えてやらない。

ΨΨΨ

 ところで、PDCAサイクルという言葉がある。
Pは(plan)のP。
Dは(do)のD。
Cは(check)のC。
Aは(action)のA。

 ここで、実渕の命の危機回避という一大プロジェクトにこれを当てはめてみる。

 プラン:まず目標を設定し、それを具体的な行動計画に落とし込むこと。
 第一目標は言うまでもなく実渕の命の危機回避。
 第二目標は実渕と一緒にいた女子の安全確保。
 第三目標は犯人が警察に逮捕されるよう誘導し、再犯を防ぐ。
 目標設定はこんなもんだろ。

 実渕を守れなければなんのための予知夢だってことになる。実を言うと、犯行時間は不明ながら屋外で暗いことから夜なのはほぼ確定なので第一目標だけ達成するなら実渕に夜間外出をさせなければいいし、実渕がつべこべ言うようなら修復持ちのおれっ子に頼めばクリアは容易だ。おれっ子は治癒も蘇生(ザオリク)も自動復活(リザオラル)も使える回復系に関してはなんでも出来るチートだから死んでなければ治癒出来るし、死んですぐなら蘇生出来るし、そもそも一度だけなら自動復活をかけておけば死ななくてすむ。

 だが、実渕の行動を規制した結果、一緒にいた女子が命を落とすような事態を招いては意味がないから実渕の行動は下手に規制しない方がいい。
 何故かというと、チートと思えるおれっ子の治癒、蘇生、自動復活にはたった一つだけ欠点があって、顔と名前を知らない相手は対象外だからだ。せめて顔がはっきり見えていれば、念写して画像検索するなり情報チートの僕っ子に調べてもらうなりして名前を知ることが出来たかもしれないが、暗すぎて顔がほぼ映ってないから身元を特定出来ないため事前に自動復活をかけるのはどうやっても無理だ。おれっ子はオレよりずっと便利なテレパシーが使えるから意識がある怪我人ならテレパシーで心を読めば名前も分かるし救えるが、意識を失った怪我人や死人は心を読めないので事前に名前を知っていないと救えない。
 結論、氏名不詳の女子は刺される前に助けないとダメだ。

 第三目標は、もし犯人が不審者情報メールと同一犯なら、何回も犯行を重ねている奴と思われるから警察に逮捕されない限り犯行を繰り返す可能性が高く、野放しにしておいたら被害者が更に増える恐れがあるのでこれも絶対外せない。

 いくら超能力者といえどもこれを一人で抱え込んで全部達成するのはかなり難しい。
 不便な超能力しか持たないオレが、自分が超能力者であることを隠しつつ三つの目標を達成するのはほぼ無理だと思えるが、だからと言って外部の手は借りられない。
 不完全な予知夢しか根拠がない以上警察に言っても相手にされないだろうから、警察を動かすのは、犯行現場を押さえてからでないと無理だ。

 オレがもしやるとしたら具体的な行動計画はこうなる。
 プランA。
 実渕を尾行して、犯人らしき奴と接触した時点でエンジェルウィスパー(天使のささやき)を犯人に使い、自首を促す。それで素直に自首すればいいが犯行繰り返してるような悪党には効果は薄いだろうから、ダメだったら電話で警察呼んで・・・バグニュース(虫の知らせ)であらかじめ警官を近くに呼んでおいてもいい・・・、警察が間に合わなさそうなら最悪、石化の魔眼を使って犯人を止めて、防犯カメラとかのチェックを僕っ子に頼み、石化が映っていたら映像を修正してもらって、俺(洗脳能力者)に都合の悪い記憶を忘れるように洗脳させる。
 この案だと動くのは表立って動くのはオレ一人でも結局三人がかりになるが、まあいけるか?
 あとはコンタクトを最初から外していくか、犯人を見つけたら捨てるつもりでしたまま行くかも地味に迷う。
 犯人を見つけてから外して間に合うかどうか不安だが、道中でうっかり誰かを睨んだら石像がどんどん出来ちゃうことになるからそれはそれでもっと面倒くさいしな・・・。

 魔眼を使わない他の案だとどうだろう。
 プランB。
 バグニュースで警官を近くに呼び寄せておくことと最初にエンジェルウィスパーを使うことは同じで、犯人が攻撃してきたらサイコキネシスで応戦する。これなら関係ない人を石化させる心配をしなくてすむし、コンタクト代も気にしなくてすむから懐にも優しいしコンタクトを外す時間が不要な分、攻撃の時間は最短ですむのはいいが、加減が難しいから犯人を怪我させる可能性が高いのはマイナスポイントだ。
 怪我ぐらいですめばいいけど悪い奴とはいえうっかり殺したらやりすぎだし、周りの家までぶっ壊したらおれっ子の修復と目撃者の人数次第では俺の隠ぺい工作も必要になるし、これも防犯カメラ対策で僕っ子の助けだって必要になる。
 結局四人も必要になるならこれはうまくないな、ダメだ。

 プランC。
 あと他にいつでも使える攻撃は発火能力(パイロキネシス)くらいだが、これは犯人が焼け死ぬだけですめば上出来というか、周りまで延焼させそうで危ないから使いたくない、もっとダメだ。

 プランD。
 どの案でも助けてもらうことになる僕っ子にこの際、全部丸投げする。
 丸投げと言っても、僕っ子にバグニュースはないから警官はオレが呼んでおく必要はある。
 僕っ子には透明化があるから尾行は気づかれずに出来るだろうがオレが近くにいないとエンジェルウィスパーも使えないからいきなり戦闘開始になる。僕っ子の攻撃は・・・、発火能力一択だ、それも加減をちょっと間違うと近畿地方全域を瞬時に火の海にするレベルの。
 論外だ。攻撃方法が隠密作戦に明らかに向いてない。近隣を火事にしたり死傷者を出すリスクが高すぎて荒事を頼むには不適切すぎる。防犯カメラ対策とかデータ消去修正捏造関係なら頼もしいが、人には向き不向きってものがある。無理無理。

 プランE。
 おれっ子に丸投げ・・・はしたくない。
 借りを金銭に換算したら、オレは破産する勢いでおれっ子には借りがありまくりだから絶対に避けたい。一応考えてはみるが。
 おれっ子は回復系はチートだが複数犯相手に攻撃方法があるのか分からん。
 アポートとアスポートとテレキネシスを使って重い物を降らせたりぶつけたりすれば攻撃も出来そうな気もするがそれだと目立つから結局僕っ子の防犯カメラ対策は必須だろうな。
 今時防犯カメラはどこにでもあるから人目につくところで能力を使えば記憶操作と防犯カメラ映像の修正は必ず必要になる。
 おれっ子と僕っ子というチート同士が手を組めばなんでも出来るだろうけど今回は頼まないで頑張ってみよう、とりあえず保留。

 プランF。
 ・・・・・・。
 多少オレに負担はかかるが、即効性が高く周囲への被害が出ず、確実性もある。
 これも悪くないな。


ΨΨΨ

 人助けのためだから許してくれと実渕に内心謝りながら、声で聞くだけでなく心の中を練習中見せてもらったが、やっぱりそれらしい女子がいない。
 これから知り合って友達になるのか、襲われてる女子を見て助けようとしたら相手が刃物を持ってたパターンか、不審者情報から考えると後者っぽい気はするがいずれにせよ出来ることは限られるし、プランFでいくしかないだろう。


 オレが今まで頼ったと言った異世界の自分のうち三人中二人の性別が♀だったこと、オレの名前が男には珍しい名前ということで察しがついてる人もいるかもしれないが、パラレルワールドのオレは実は女の方が多い。
 しかも、普通に考えて、超能力者なんてそうそういるもんじゃないから影が薄いだけで他の力を持たない自分もそれなりに多い。
 おれっ子や僕っ子がチートすぎて忘れがちだが、危ない現場を女子に任せるのはいくら平行世界のオレといえども好ましくはないと思うし、オレが超能力者と疑われたくないから眼からレーザー出す奴とか派手な能力の奴も除き、実渕ともう一人を確実に守りきれそうで、しかもテレパシー持ちとなるとごく限られた奴しかいない。
 異世界の自分に対してのテレパシーは専用周波数で電波を飛ばすようなものだから遠くまで届く反面、アンテナがない奴には連絡が取れない。
 チートな奴は自分でアンテナを立ててやるとか他の手段でどうにかしてるかもしれないが、そんな技術はないオレにはテレパシーの素養が最初から多少でもある奴としか交信が出来ないのだ。
 こいつには荷が重い、こいつは技が派手すぎると除外していくと、オレが絶対に頼みたくないチートな俺様を除けばプランFのあいつくらいしかいない。


「征ちゃん、今日は定時で上がらせてちょうだい」
「じゃあオレも」
 放課後の練習後、実渕が帰ろうとしているのを見てオレも帰ろうとしたが赤司に阻止された。
「分かった。・・・・玲央はいいが、千尋、お前はダメだ。昨日は自主練が出来なかったし、もっとパスの精度を上げないと本番で使い物にならない」
 オレは思わず舌打ちした。
 実渕が死んだらどうすんだと怒鳴り付けてやりたいがオレが予知能力を持っているのは秘密だし、事件発生が今日と確定している訳でもないから無理を通す訳にもいかない。
 自分一人でどうにかするプランしか立ててなかったら大惨事になるところだったが実は昼休みにこんなやり取りがあった。

{ちょっと頼みがあるんだが、大丈夫か}
 オレは例によって異世界の自分に話しかけていた。 
{なんだよ}
 ちなみにこいつは一つの特殊能力に特化した能力者で、テレパシーは使えなくはないが使うと超能力の消費が激しすぎる。肝心な時に使えないと困るのはオレだからテレパシー用超能力は丸々オレの負担である。そのくらいはしょうがないが。
 負担を電話代に例えるとおれっ子が無料通話で、僕っ子がこっちがかける国内電話、こいつは海外からかかってくるコレクトコールみたいなもんか。
{実は、オレのチームの副主将やってる実渕っていう奴が刺される予知夢を見た。現場は屋外、たぶん路上で発生時間帯は恐らく夜。今晩かもしれない。犯人はたぶん二人だと思うが自信はない。昨日ちょっとゴタゴタして自主練の時間が潰れたから今日はもしかすると残れって言われてしばらく帰れないかもしれない。お前に代わりに守ってやって欲しいんだけどなんとかならないか?オレも帰れたらすぐ交代するし、燃やしたい物とかあればいつでも燃やしてやるから}
 オレの発火能力(パイロキネシス)は僕っ子ほど調節がきかないが飯ごうを溶かすくらいの威力はあるので大抵の物は燃える。
 調節出来ない=まったく火加減出来ないのが難点だが。
{いや、今は特に可燃ゴミはねえけど・・・。実渕なら、俺のチームでも副主将だ。オネエだろ?お前、ひょっとしていろんな奴に頼みまくってて人間関係把握しきれてないのか}
 痛いところを突かれた。図星だ、人間観察を自分に使うなよ。
 パラレルワールドのオレは洛山でなく京都の別の進学校に通ってたり桐皇の今吉や霧崎第一の花宮と同中だったり、何故か東京で元帝光中だったり人間関係がだいぶ違う奴も多いので、どの能力かだけは把握しているつもりだが、学校や人間関係は正直、しょっちゅう混同する。
 こいつは確か・・・、バックボーンはオレと同じか、言われてみれば。
{ここしばらく立て続けにいろいろあって疲れてんだよ。お前と違ってオレの超能力バレやすいし、七不思議とかネタにされた話、前にしただろ?}
{ポルターガイストに開かずの扉?他にもいろいろ言ってたっけ。こっちでも二年前から、ラノベ好きな幽霊が図書館に出るって噂が広まってる。多分俺のことだからムカつくけど、お前の能力、俺のよりずっと派手だから影薄いのに目立つし幻の六人目なんて絶対向いてないよな。まあ、知り合いが刺されたら夢見悪いし、力は貸してやるよ。で、どうしたらいい?}
 ラノベ好きな幽霊は間違いなく俺のことだな。
 目立たない超能力のこいつでも七不思議にランクインするんじゃオレはもう諦めた方がいいのかな。
 他の七不思議のインパクトを消すために広めた噂のせいでまさか七不思議を一人で独占することになろうとは思わなかった。
{実渕が先に帰ったら連絡するから、寮から出る時に影の薄さを利用して後をつけてくれ。刺されそうな時は女子と一緒だったからその子とどこかで合流するか、もしくはその子の悲鳴を聞いて駆けつけるかのどっちかだと思う。現場は相当暗いが、お前の能力なら暗くても問題ないよな?}
 こいつの能力は一芸特化型。ターゲットが自分=黛千尋を好きじゃない、つまり嫌いかどうでもいいかなら洗脳出来る。知り合い以外の奴はオレなんてどうでもいいに決まってるから世の中のほとんどの奴が対象と言っていい、洗脳に限ってはほぼ無敵に近いチート。赤司の好感度が低かった、屋上で気に入られる前ならこいつに頼めば簡単に処理できたんだが、あいにく好感度が高い相手は洗脳できない。
{俺の視界に入ってれば、顔は見えなくてもターゲットに出来る}
 俺は頼もしいことを言ってくれた。
 オレが人前で超能力を暴発させた時、こいつにはよく世話になったものだ。
{とりあえず危ない現場見たら、全員動くなとでも命令して動けなくしてオレに連絡。オレが警察誘導するから、実渕は何も見てないことにして、警察と実渕と被害者の女の子を洗脳して実渕は帰らせろ。警察に余計な負担かけたらかわいそうだから、犯人には動機とか余罪とか素直に全部自供するように洗脳して、裁判で自供翻してややこしいことさせないようにしといてやってくれ}

 今言っているのはPDCAでいうところのD、
 Do:組織構造と役割を決めて人員を配置し、組織構成員の動機づけを図りながら、具体的な行動を指揮・命令する。
 これな。

{長っ!注文多いな。要は、誰も怪我させないようにする。お前や俺が関わってるとバレないよう実渕も無関係だと思わせる。犯人がちゃんと罪を認めるようにするってことな。分かった、やっとく。今度夏の祭典に行く時、俺も連れてテレポートしろよ。お前、行ったことのある場所ならテレポート出来るよな?}
{・・・距離が遠いほど誤差が大きくなるからあまり勧めないが・・・ま、出来るっちゃ出来る}
 夏の祭典の会場にテレポートしたら、オレは障害物を避ける性質があるのでめちゃめちゃ人気のないとんでもないところにテレポートしたことがあるんだが、交通費は浮くからそのぐらいは我慢してもらうしかない。

 回想終了。


「チッ、分かったよ、ちょっと便所」
 洗脳能力者の俺に頼む場合、犯人を洗脳していいなりにさせるので安全確実な反面、一芸特化型ゆえのデメリットもある。
 俺の洗脳能力は
「超能力の消費が少ない、声で聞かせる方式」
 と
「超能力の消費は多いが心の声で洗脳する方式」
 の二パターンあるため、副次的な作用だが一応テレパシーも持っているからオレが呼び出せる訳だが洗脳とテレパシー以外の超能力はないのでこっちが送迎しないと来られないし、帰れないのが地味にキツい。
 おれっ子とかの、来てくれ、了解のやり取りに慣れていると往復の超能力を計算するのが面倒だし難しい。
 {今実渕が帰るところだ。引っ張って大丈夫か?}
 オレがテレポートで迎えに行って連れて来ようとすると、インターバルをおかないと次のテレポートが出来ないので部活のサボリ時間が長くなってしまうから赤司が文句を言うのが目に見えている。
 オレは一度行ったことがある場所からならアポート(取り寄せ)が出来るので、アポートで呼ぶ方がテレポートよりは時間短縮になる。精度はアポートの方が落ちるが、物と違って人間は自分の足で歩けるから少しくらいずれても問題ないだろう。
{いきなり消えたら変に思われるから一人になれるとこを今探す、ちょっと待て}
 俺が知る限りこの世界最強の超能力者斉木楠雄のアポートは価値が同等(プラマイ10パーセントの誤差あり)の物を引き寄せる代わりに別の物を手離す(アスポート)も兼ねているという摩訶不思議な能力で、それで例えば靴下と500円を交換とか面白いことをしていたが、オレにはそんな面白くて便利なスキルなどない。
 オレのアポートはいたってシンプルに取り寄せが出来るだけ、アスポートは一切出来ない。
{・・・こっちは大丈夫だ。迎えを頼む。変なとこに呼ぶなよ}
 オレには斉木みたいに自分の手元に寸分の狂いもなく引き寄せる技量がない。オレが二人いるところを見られるとマズイから例えば学校だと廊下で呼び寄せる訳にはいかないから普通、トイレとか入って呼ぶよな。
 オレはアポートもテレポートもただでさえわりと誤差が大きいのだが、以前俺を呼んだ時は特に酷く、かなり離れた教員用便所の個室(しかも使用中)に飛ばしてしまい、俺はその教員にお前は何も見なかった、と洗脳して出て来たらしい。
 オレは自分が行ったことのある場所しかテレポートもアポートも出来ないが以前生徒用のトイレが混んでた時、影が薄いのをいいことに教員用に入ったことがあるのでそれがまずかったのだろう。
 さすがに使用中のトイレに飛ばしたのはその一回だけだが、よほどインパクトが強かったらしくそれ以来こうして毎回念を押されるようになった。
 注意を払ったってノーコン投手がコントロールに気をつけて投げる程度の違いしかないけどな。
 ともあれ、アポートで今回はどうにか無事に引き寄せた。ノーコン投手だってストライクが入ることはある。
「オレのガラケー預けとく。通報する時使え」
 オレは周りを透視しながら言い、俺の手に一台ガラケーを押しつけるとトイレのドアを開け、手振りで行けと合図した。男がトイレの個室に二人で入っているところを目撃されたら大変なので急ぐ必要があった。
 幸い、俺もあっちの世界で洛山のバスケ部だから教えなくても道は分かる。これが別の学校へ行ってるヤツだと学校案内図や地図を片手に道の説明からしなきゃいけないから、教えなくてすむのは地味に助かる。
 ガラケーを預けたのは保険だ。
 オレのバグニュース(虫の知らせ)の効きやすさは個人差があるし、最悪警察に通報しなきゃいけない時は、スマホにしろガラケーにしろ当然だが異次元のものは使えないからこっちの物を用意しておく必要があった。
{リダイヤルの先頭が伏見警察の番号、着信履歴の先頭がオレの番号だ。お前のテレパシーは超能力を温存するために極力使うの避けて緊急時は遠慮なく携帯の方を使ってくれ。それと、黛千尋が二人いたらおかしいからお前はここではオレのいとこになりすましてもらう。お前の世界にもいるか?一個上で浪人生の黛千晴。一応その携帯の登録名とか黛千晴にしてあるから間違えるなよ}
 本物の千晴はオレと顔はそんなに似てないのだが親戚の中で一番オレと年が近く灰色髪の男なので、なりすますなら千晴が一番いい。
 高校にも大学にも予備校にも行ってない自宅浪人生だからバレにくいってのも好材料だ。
{お前、偽装工作なんか手慣れすぎててこええよ。俺の世界じゃ千晴は女だし大学生だけど・・・、まあとりあえず設定は分かった}
 結構食い違ってるな、でもそれはこの際どうでもいい。
 もうそろそろいいか。
 オレはトイレから出た。
{言うまでもないだろうが、通報内容がすべて録音されてるから110番には絶対かけるな、隠蔽がややこしくなる。警察への通報は伏見署の交換台を経由すること。警察署の交換台はまだ自動録音システムが完備されてないと確かな情報筋から聞いた}
 情報のエキスパート、僕っ子が自動録音システムなんか導入されたら音声データを全部偽造しなきゃいけないから気が重いよ、と愚痴っていた。
 偽造する気満々かよ、しかも出来るのかよと思いながらオレは聞いていたが。
{そういうこと普通に聞ける知り合いがいるってのが、お前のスゴいとこだよなあ。俺だって自分の力秘密にしてたのに何故かお前は知ってたし}
 オレ以外に少なくともおれっ子と僕っ子はお前の能力を把握しているって教えてやった方がいいんだろうか。二人ともタイムリープと記憶操作持ちで、失敗した時は自分で修正できるから洗脳の世話にはならないが、元々あいつらが教えてくれたんだけど。
{今、寮に着いた。まだ実渕の札が裏返ってないから外には出てないと思う}
{オレ、練習出るから任せる。体育館にスマホ持ち込むからなんかあったら鳴らしてくれ}
 スマホの契約するとガラケー一台プレゼント的なキャンペーンの時、入手しておいたのがこういう時に役立つとは。非リアなのに携帯二台使いとか一見ムダだがやっぱり手放せない。


ΨΨΨ


 オレは自主練をさせられていたが(させられる練習って自主練じゃない気がするんだが)俺から焦った声が飛び込んできた。
{今悲鳴が聞こえた、実渕がそっち向かってる}
{ちょっ、携帯使えよ。場所は、所番地は?電柱か自販機とかに書いてあるだろ、見つけて読み上げてくれ}
 番地が分かれば警官に転送してバグニュースで誘導出来るし、俺の視界に入りさえすれば俺がなんとでも出来る。
{この機種かけ方が分かんなかったんだよ!・・・住所は今探す}
 俺が逆切れした。
 そうきたか。
{一回テレパシー切れ。こっちから接続する。お前の洗脳が頼りなのに肝心なところでPPが切れたらシャレにならねえ}
 電話みたいな会話だな、これ。
 PPはサイキックポイント、超能力がどれだけ使えるかってこと。俺は洗脳能力がチートな代わりにPPが低く、テレパシーの消費値も大きい。
「赤司、ちょっと便所行ってくる」
 オレがタオルに包んだスマホを持って返事も聞かずに出ようとすると赤司は言った。
「お前、さっきもトイレの個室に入っただろう?腹の具合がそんなに悪いのか」
 オレはさっき便所に行くとは言ったが個室に入ったとかそんなことは一言も言ってない以上、見てないと分からないはずで・・・入るところか出るところを見てたってことか。
 俺が出るとこを見られてたら、私服だし外靴だしあからさまにおかしいと分かるから見られたのが俺じゃなくてよかった(赤司以外にはそうそう見つからないとは思うが)。
 赤司ほんとこええな。
 おれっ子のテレパシー探知にもひっかからない、僕っ子の用意したロッカーが自分が最初に見たヤツじゃないとあっさり見破った厄介なヤツなのに好感度が高いせいで俺の洗脳まで効かないなんてチートすぎる。
「・・・ちょっと便所にこもりたいんだよ。じゃ」
 オレは急ぎ足でトイレに向かいながら千里眼を使った。
 斉木の千里眼は寄り目になるが、オレの千里眼はオレの能力が低いせいか、やってる間は長距離走をハイペースで走ってるみたいにかなり苦しい。
 近くの交番を覗くとコンビニの袋を持った警官が中に入るところだった。これから飯食うつもりだったのか、悪いがもうすぐそれどころじゃなくなる。

{住所分かったか?}
 オレがテレパシーを送ると返事はすぐ来た。
{伏見区今町×××付近だ。警官の誘導頼む}
 オレは以前行ったことがある伏見警察のトイレにテレポートすると地域課のパトカー司令室勤務員にバグニュースで、先日不審者が出た伏見中央図書館付近をパトロールさせるよう誘導した。
 最初は交番の勤務員に直接バグニュースをかけるつもりだったが交番は狭いので誤差二、三メートルのオレがテレポートすると変な場所に出る可能性が高い。交番は大抵道路に面してるから誤差で道路上にいきなり現れたら車に轢かれそうでシャレにならない。
 その点、警察署の方が広いから少なくとも道路に着地する心配はない。留置場とかに着地したら嫌だが、それはないだろう。たぶん。
 ちなみに学校のトイレからどうしてバグニュースをかけられなかったのかは予想出来てるかもしれないが一応説明すると、バグニュース自体、目の前にいる人間に直接語りかけるかテレパシーで発信するかどちらかだがオレの発信用テレパシーはそこまで広範囲をカバー出来ないからだ。
 異世界の自分相手なら異次元ですらカバー出来る強力電波を出せるが、一般人相手には言ってみれば糸電話を持たせて連絡を取るようなもんで、距離はずっと短い。
 受信は半径約200メートルと検証したし、千里眼も能力の限界なら見えなくなるからすぐわかるが、テレパシーの発信実験は迂闊に出来ないので限界は正直、自分でも把握していない。テレパシーによるバグニュースは届いているのかいないのかの検証もしにくいだけに、人命がかかってる以上、多少の危険は覚悟してでも確実にテレパシーが届く距離まで近づく必要があった。

「パトカー一号車、伏見区今町×××周辺へ転進されたい、どうぞ」
「パトカー一号、了解」
 おお、成功した。
 やはり今週不審者情報があった場所だけあって対応が早いな。

 オレはマップに灯る光の一つ、たぶんパトカー一号とやらが伏見中央図書館付近へ動くのを千里眼で見てから元のトイレへテレポートした。
{今、警察がパトカーでそっちへ向かった}
 ・・・?ドアが開いてる、少なくとも元の個室じゃない。
 オレが俺をドンピシャで引き寄せたのはまぐれでそう滅多にあることじゃないが、それにしても中の張り紙とかオレの普段使ってる男子トイレと違うし教員用か、どこだ、ここはと周囲を透視したオレは思わず固まった。
 ここ、女子トイレだ・・・。
 オレは頭を抱えた。
 オレは前に言ったように、行ったことがあるところにしか飛べない。なら何故女子トイレに来てしまったかというと、これは黒歴史だが高一の時、ラノベ読みながらトイレに行こうとしてついうっかり間違って女子トイレに足を踏み入れたことがあるからだ。その当時は今よりずっと小柄で女でもおかしくないくらいの身長だったし、学校指定のジャージ姿だったから間違いに気づいたオレがそっと出ていくまで誰にも見とがめられなかったが、一度間違ったせいでまたこんなところに飛んでしまうとはいたたまれない。
 トイレ内で迂闊に透視能力使うとやべえな。中に誰も人がいなかったから助かったが、女子が用足してるところを透視なんかした日にゃ完全に痴漢じゃねえか。
 ガキの頃は透視能力がコントロール出来なかったので裸はさんざん見慣れてたしあまり登園しなかった幼稚園では園児が用足してるところを不可抗力で見たことはあるから多少の耐性はあるが、さすがに女子高校生の用足しを見たことはないので、それはいくらなんでもまずい。
{・・・来た、見えた。見えればこっちのもんだ、任せろ}
 廊下で話すと声が響くので聞かれるとマズイが、女子トイレに入っているところを人に見られるのはもっとマズいので壁の向こうに誰もいないのを透視で確かめてから個室から出ると女子トイレの窓を開け、窓から屋外へ出た。
 スマホでリダイアル機能を使い、ガラケーにかけ、トゥルルルル、しばらく鳴らすと着信を取るくらいは出来たのか、ようやく相手が出た。
「おい大丈夫か、そっち」
「あらやだ、あなた黛さん?」
 なんで実渕が出るんだ?
「ああ」
{何がどうなってる}
 オレは俺に説明を求めた。
 おれっ子や僕っ子と違い、こいつはオレと別行動し慣れてない。今まで頼んでたのは洗脳による証拠隠滅中心で、もっぱらオレのそばでやってもらってたからだ。
 だいたい終わっちゃってる気もするが、PDCAでいうところのチェックとアクションがまだ残ってる。
 実渕が邪魔で打ち合わせ出来ないんだけど。
{こっちの実渕、お前の言う好感度?高いみたいだぞ。洗脳が効かなくて困ってる。俺が取り方分かんなくてもたもたしてたら携帯奪われた}
「お前、こいつからどこまで聞いた」
 オレは実渕から話を聞きながら俺の話も聞くことにする。
 幼少時から一度に十数人の声を聞き分けていたオレは最近はミュートに慣れてサボりっぱなしだが、それでも聞き分け能力はかなり優秀だ。
 二人くらいなら聞き分けて別々に返事できる。
 ちょっと大変ではあるが。
「どうして練習サボってこんなとこにいるのかと、なんで助けてくれたのかとあなた誰ってことくらいね」
{どう答えた?}
{サボってない、千尋に頼まれたからついてきた、千尋のチームメイトだから助けた、俺は千尋のいとこで黛千晴だと答えておいた}
「ふうん。助けたってことはやっぱり危ない目にあった訳か」
{相手が刃物出して脅してからじゃないと罪が軽いかとギリギリまで様子見てたらこいつ無鉄砲に飛び出そうとしたからヒヤヒヤしたぞ}
「やっぱりって、小太郎の時みたいに分かってたのね?」
「葉山がお前にも喋ったのか?」
 広めんなよ・・・口止めしなかったオレが悪いのかそうですか。
「私は永吉から聞いたんだけどね。お財布落としたけどあなたから牛丼屋さんの株主優待券もらってたからそれで牛丼食べに行って、しばらくしたら無事にお財布、中身もそのまま入った状態で見つかったらしいわ。危うく飯食いっぱぐれるとこだったけど黛のおかげで助かった、あいつのカンほんとスゲーなとか言ってそこから小太郎の頭に植木鉢が落ちてくるって最初に言ったのは黛さんだったって話になったの。あなた予知能力者なの?」
「予知なんてそんないいもんじゃねえよ。危ない気がするとかその程度で、はっきりわかる訳じゃないし夢だから自分が知りたいことがわかる訳でもねえし、何月何日に起こるかもわかんねえから葉山の時は何日も空振りだったからな。人より少しだけカンが鋭い程度で全然たいしたことはない」
 間違ってはいない。
 本当にたいしたことはない。予知は。
{お前がチートなのは予知じゃないからな。テレパシー、サイコキネシス、透視、予知、千里眼、テレポート。主要な超能力に特に苦手がなくそこそこ使えて発火能力、念写、石化、好感度チェック、行動誘導、取り寄せなど他の能力も使えて、その上困ったら助けてくれる異次元の自分が大勢いるところがチートなんだよな、お前は}
 コントロールが効かないのはそこそことは言わない。野球に例えれば球種はたくさん持ってるがストライクの入らないピッチャーのようなものだが球種が少ない=使える超能力が少ない俺にはピンと来ないのだろう。俺は暴投が少ないからな。
「日にちは分からなくても時間は分かってたんでしょ。購買から昼御飯食べるまで頼むって征ちゃんに言ったらしいじゃない」
「あの時はたまたまだ、夢だから覚えてないことも多いし、根武谷のは時間も全く分かんなかったし財布を落とすこと自体知らなかった。まあ無事だったんならいいや、切るぞ」
 オレは通話終了をポチリと押して話を終わらせた。
{洗脳が効かないって言ったな。実渕だけか?}
{当たり前だ。洗脳が効かないヤツがそう何人もいてたまるかよ}
{じゃあ、命の礼だと思って誰にも言うなって普通に口止めするしかないんじゃね?}
{実渕が俺の言うことに耳を貸すとは思えないが、一応やってみる}
「ねえ、黛サンどこー、ウンコー?」
 葉山がオレを探してる声がして、オレは慌てて返事をした。
「ウンコじゃねえよ。ちょっと外」
 クソ、今取り込み中なのに。
『問題発生した。洗脳チートの俺の洗脳が効かないヤツがいて困ってるんだけど、なんとかなんねえかな』
 オレはおれっ子にテレパシーで聞いてみた。
 オレの超能力も今日は俺へのテレパシー、アポート、千里眼、透視、テレポート、バグニュースと大盤振る舞いしている上、後で俺をテレポートで送ってやらなきゃいけないからなるべく節約したいところだ。
 洗脳技能持ちでテレパシー無料通話枠のおれっ子を相談役に選ぶのは当然と言えた。
『・・・?お前のとこの主将?』
『いや、今回は副主将。あいつ=俺の洗脳、好感度が高いと効かないんだよ。昨日は30台だったから大丈夫だと思ったのに効かないってことはたぶん70超えてるっぽい』
『結局おれに聞くんなら最初からおれに言ってくれればよかったのに』
『結果論としてはそうなんだが、今回は危ない場所だったし、お前回復系だから攻撃は得意じゃないだろ。アポートやアスポート使えばなんとかなりそうだけどそれだと目立つし。大勢ごっそり洗脳出来るあいつなら目立たないから向いてると思ったんだよ』
「赤司がどこ行ったってすげえ怒ってるよ!男子トイレの個室覗いたけどいなかったって。今どこー」
『洗脳が目立たないのは確かに事実だから悪くない判断だが、おれだってアポートアスポート以外でも攻撃は出来る。対象者の周りだけ高度一万メートルの空気と入れ換えて酸欠にさせてもいいし、空中浮遊で浮かせてから地面に叩きつけてもいい。呪いの魔眼で今すぐ心臓止まれと呪いをかければ証拠を残さずに殺せるし、攻撃力は低いけどいくらでもやりようはあるさ』
 おれっ子は記憶操作ならまとめて出来るが洗脳は一人ずつという弱点がある。だから複数犯相手だとキツいんじゃないかと思ったんだが回復だけじゃなくて攻撃もチートだった。
 しかもえげつないのばっかりだな。
 つーかおれっ子の魔眼が呪いで、そんな使い方が出来るとは今日まで知らなかった。人前ではコンタクトを絶対外さないからだ。
「外だ、今戻る。よっこらせ」
 オレはめちゃくちゃ慎重にサイコキネシスを使い自分の身体を少しだけ浮かせた。
 この力加減はこういう落ち着いてる時は出来ても(それすらわりとしょっちゅう失敗するが)試合中のアドレナリン出まくってる時は到底無理だ。
 ともあれ、女子トイレの窓から上がって無事中に入ったオレがなに食わぬ顔して戻ろうとすると赤司が廊下で腕組みをして仁王立ちで立っていた。
「なんてところから出てくるんだ、お前は」
『お前のチートなめてた、スマン』
「誰もいないのを確認してたから痴漢とか言うなよ?」
「いつの間に女子トイレに行ったんだ。しかも男子トイレの個室に鍵をかける偽装工作までして」
 テレポートしたら間違って出ただけなんだがそれは言えないしな。
「お前が今自分で答え言ったじゃねえか。男子トイレの個室に鍵かけてから女子トイレ行ったんだよ」
 何も嘘は言ってない。
 途中経過をはしょっただけだ。
 赤司は疑っているみたいだ。
「個室の中まで覗かれたらおちおちトイレにもこもれねえだろ。休憩が長かったのは認めるが主将だからってあまり干渉するなよ」
 つーか普通にドン引きだよ。
 トイレ覗くとかあり得ねえわ。
 オレがクソしてたらどうするつもりだったんだこいつは。
『先に結論を言うと、悪いけど今回はおれも無理だな。洗脳する前を白米だとすると、洗脳の得意なあいつが洗脳した後はカレーライスだと思え。おれの洗脳後は例えるなら握り寿司。カレーライスを握り寿司にリメイクは出来ない。あっちもおれが洗脳失敗したヤツを洗脳しろって言われても苦労するだろう。まあカレーの方が強烈だから出来なくはないのかもしれないが』
 握り寿司にカレーかけて食うところを想像したオレはげんなりした。カレーライスで作った寿司も、握り寿司カレーも絶対まずそう、つまりうまくいく訳ないってことだ。
『分かりやすいたとえ話ありがとう。理屈は飲み込めた、そういうことなら違う方向性でやってみる』
 おれっ子でも無理か・・・。
 面倒なことになった。
『大変だな。頑張れ』
『ああ』
 オレはテレパシーを切断した。
「僕自身の練習もあるし主将としての仕事もある。手取り足取り教える時間はないのにその貴重な時間を割いているんだ、お前が抜けたら気になるのは当たり前だろう」
 赤司は開き直った。
 理屈は分かるし、普段ならサボリはしないが人命救助を優先するのが当たり前・・・と言いたいところだが、言ったら余計ややこしくなるから我慢した。
「分かったよ。悪かった」 
{しばらく時間潰しててくれないか?説教が長くて当分終わりそうにねえ}
「女子トイレにもずっといた訳じゃないだろう、水を流す音がしなかったからな。どこにいた」
 しつこいな。
「お前がそういうストーカーみたいなことをするから安心していられねえんだよ!女子トイレの窓から外に出たに決まってるだろ。嘘だと思うなら窓枠でも窓の下の足跡でも確認しろよ」
 オレがブチ切れると赤司の追及がおさまった。こいつ、嘘を見抜くサイドエフェクトでも持ってんのか?この世界にボーダーもネイバーもいないし、ワールドトリガーの世界とは繋がってないんだけど。
 何度も言うが、オレは隠し事しまくりでいろいろ省いたりはしているが嘘は言ってない。
 オレは自分が大好きだから嘘はつけないしたぶん嘘は言ってもすぐバレる。
 だから本当のことしか言わないのだ。
「・・・スパイ映画の世界の住人のようなマネをするな。窓から飛び降りて怪我でもしたらどうする」
 赤司の説教はやっと終わった。
 オレは俺が気になって練習中に少しだけ千里眼を使った。当然息が切れたが、練習で息切れしたように見えるだろうから問題ない。 
 ・・・これはファミレスか?
 窓の外の景色からして京都駅近くの某ファミレスだ。京都駅方面に帰ってきてくれた方が迎えには行きやすいが問題は京都駅近くは防犯カメラが多いから下手にテレポートを使うと消えるところや現れるところが防犯カメラに映ってしまう。
 向かいに実渕が座っていて、携帯を何やらいじっている。
 黙っててくれという説得は無事出来たんだろうか。テレパシーが大して上手くない俺が二人同時に話しかけられてさばけるかどうか分からないしここは口出しはしないでおくか。
 オレは千里眼を切った。
 ゼイゼイしているオレを見て根武谷が、
「あんたもっと体力つけろよ!牛丼ありがとうな助かった!」
 とオレの背中をバシバシ叩いていく。
 根武谷の好感度は77。
 昨日から40も上がっている。
 オレのおかげで牛丼食えたからか。
 そこまで好きなのか牛丼。
 チョロすぎだろお前。
 そんなこんなで自主練を終え、片付けはバックレたかったが、最上級生でも部内の力関係的には逃げられないので、しぶしぶ片付けもしてから荷物だけ持ち、ジャージのまま外へ飛び出す。
「登下校は制服でと校則で定められてるぞ!」
 赤司の怒声に、
「急いでんだよ!影薄いから問題ない」
 とだけ答えて走り去る。
 目指すは俺がいるファミレス。
 テレポートが迂闊に使えないのでは走るしかない。駅からならタクシーに乗れるだろうがこっちから駅なら、徒歩15分の距離だからタクシーつかまえるより走った方が早い。たぶん。
{そのファミレスでオレと待ち合わせしてたことにしろ。今そっちに向かってる}
{長かったな。待ちくたびれたぞ}
{返す言葉もない、すまん}
 俺の帰りのテレポート用に超能力を残しておかなくてはいけないからテレパシーを切る。こんなに超能力の節約が必要な日は初めてだ。
「・・・待たせたな」
 オレが俺の肩をポンと叩くと実渕がやっとオレに気づいてぎょっとした。
「なに、あなたジャージのまま来たの?」
「制服に着替える時間が惜しかったからな」
 オレは俺の前にあった手付かずの水を飲んだ。 部活して自主練もしておまけに走らされたのだドリンクバーなんか取る気にならない。だって、わざわざ立ち上がらなきゃいけないじゃないか。
「そう。いとこって聞いたけど、あなた達本当によく似てるのね。双子みたい」
「オレは一人っ子だ、兄弟はいない」
 オレと俺が双子でも兄弟でもないのは事実だ、だって別世界の自分だし。
「そんなことより、実渕。さっきのことは」
 俺は口封じが気になるらしい。
 もちろん死人に口なし的な意味の口封じなら、オレのサイコキネシス暴走でもパイロキネシスで頭中心に焼いたりすればまず助からないからいつでも出来るが、命を取らない方法の口封じとなると昏睡状態の寝たきりにさせる以外にはちょっと思いつかない。
 洗脳もかなりうまいチートのおれっ子が出来ないと言っている以上、他の奴に当たっても再洗脳はもう無理だろう。
「黙ってて欲しいのよね、いいわよ」
 ウフッと微笑みながら実渕が安請け合いした。
「・・・お前の危険をオレが予知したとかつまんねえことも言うなよ。電話でも言ったが、オレの予知夢は知りたいことが分かるような便利なもんじゃねえし、予知能力とか出来るだけ人に知られたくない」
「千晴さんが人を言いなりにさせる力があるってことも秘密なのね?」
「・・・そっちは絶対に秘密だ。最悪、オレの予知だけならバレても仕方ないと思ってるが、こいつの力は誰にも知られる訳にはいかない」
 オレの予知だけなら。
 予知だけならバレても大勢に影響ないが、オレの他の能力や俺のことを知られる訳にはいかない。
 オレは実渕からオレへの好感度を見た。
 77だった。嘘だろ。
 昨日は37だったのに40も上がっている。
 どいつもこいつもチョロすぎかよ。
 葉山が82でダントツトップ、赤司根武谷実渕が三人とも77で並んでいる。
 ギャルゲーならハーレムエンドが狙えそうな数値になってきてるが、あいにく野郎ではなんの需要もない。
 腐女子のおれだって三次元には興味ないらしいから誰も喜ばないだろう。
「こんな力がバレたらどんな組織に狙われるかも分からない。誰にも何も言わずにそっとしておいてくれ」
 俺の頼みに実渕は前のめりで頷いた。
 オレは自分への好感度しか見えないのでよく分からないが、これオレより好感度が明らかに高いような・・・あれか、一度バスケ部を辞めた奴というレッテルを貼られて厳しい目で見られてたオレとは違い先入観なしで出会ってしかも直接命を救われているから好感度が鰻登りなのか。
 直接助けてないオレでさえ40上がったということは俺はもっと上がっただろうからこの様子だと85か90ぐらいになっていても不思議ではない。
 この好感度ならそりゃ洗脳など効くはずがないわな。
「約束するわ、千晴さん」
 実渕はこれなら黙ってはいてくれるだろうがなんというか別の心配が出てくるな。
 必殺技の洗脳が効かない相手に俺のケツは大丈夫なんだろうか・・・。
 不吉な予感はしたがこれっきり会わなければ関係ない。オレが伝票を持って立ち上がると、オレは何も頼んでないし、俺に払わせる訳にもいかないから自分が持つと実渕が主張したので、会計している隙にさっさと店を出て、人通りの少ない方、少ない方へ向かった。
 防犯カメラもないし人通りもない絶好のテレポートスポットまで移動すると、テレポートした。


ΨΨΨ


 場面変わって俺の部屋。
 うわあ失敗した。
 外からテレポートしたから靴のまま部屋に入ってしまった。雨の後とかじゃなくてまだよかったが、部屋に土足で上がられた形の俺はちょっと顔をしかめてから口を開いた。
「とりあえず靴脱げよ。実渕がいると出来なかった話もあるだろうし」
「悪いな・・・。さっきアポートが珍しくドンピシャだったから今日はもう二度目はないと思い込んでた」
 部屋の外にテレポートする可能性が高いと思ってたのによく部屋の中に到着したものだ。
 オレは靴を脱ぐといつも余分に持ってるビニール袋に入れた。
 俺は部屋の入口に靴を並べていた。
「・・・茶でも飲むか?」
「いや、オレはいい。自分相手に気使わなくていいから、お前が飲みたければ飲めばいい」
「俺は間が持たないからひたすらドリンクバー飲みまくったからしばらくいいや」
 だよな。オレも実渕と二人でファミレス行くような事態になったらトイレやドリンクバーに席立って時間を稼ぐだろうし。一番いいのは最初から近づかないことだが。
「で、なんであんなにあいつになつかれたんだ?」
「わからん。テレパシーで伝えたように女の悲鳴が聞こえて実渕が走ってったんだよ。図書館の帰り。俺じゃ実渕の足には追いつけないから泡食ってお前に一報した訳だが」
「住所教えてくれたのはどんな状況だった?」
「遅れて追いついた俺が女子と実渕のピンチを格好よく救った直後だ。女子は全然俺に気づいてなかったがな・・・」
 だろうな。
 明るいところで普通にしてても影が薄いのに暗い中、初見でオレや俺の姿に気づく奴はあまりいないだろう。
「俺の存在に気付いてない犯人、女子、警察、通りすがりの通行人は普通に洗脳したんだけど実渕の反応が変だったから離れた場所に引っ張ってって落ちついて洗脳しようとしたら電話の時言ったみたいなやりとりになって実渕に全然洗脳がかからないことに気づいたんだよ。お前から電話来たのはその最中。あいつはお礼になんかおごるってきかないし、お前も時間かかるって言ったから電車で移動してファミレスで暇潰しがてらドリンクバー飲みまくりつつ口止め工作してたらようやくお前が来たって流れだな」
 昨日までの実渕の好感度なら洗脳余裕だったのに今日だけであんなに爆上げするとは普通思わない。
「遅くなってほんと悪かった。危険な目に遭うのが実渕の夜の外出中なのは分かってたけど今日かどうかまでは分からなかったから、念のため頼んだって感じだったけど誰も傷つかなくてよかった。お前のおかげだ、ありがとう」
 能力を公に出来ない以上、どこかに表彰されることは決してないが、こいつが人命救助したのはたしかだし、それはオレの頼みを聞く義理なんてないのに誠実に応えてくれたおかげだ。
「いやいや。犯人達には、聞かれたことには全部本当のことだけ答えろ、嘘を言うと本当のことを言うまで息が吸えないって風に洗脳しといたから本当のことを洗いざらい言うしかないだろ」
 俺はさらっとなんでもないことのように言った。
 洗脳で身体機能まで支配してしまうのがこいつの洗脳チートたる所以だ。
 しかも洗脳は相手の脳に到達した瞬間に出来るので敵に回したら恐ろしい、味方なら頼もしい奴だ。
「それなら余罪があれば分かるし、公判も問題なく維持出来るだろうし言うことないな。お前に頼んでよかった」
 助けるだけならオレでも出来たかもしれないが、犯人に罪を認めさせるとかそういうのはエンジェルウィスパーくらいしかないので俺より効き目がずっと弱い。犯人にちゃんと罪を償わせるには俺の方が適任だったなあと思う。
「自分同士で誉めるのおかしいからそのくらいにしとけよ・・・これ返す。俺が使い方が分かんなくてまごまごしてたら実渕がファミレスで嫌というほど使い方教えてくれた。なんでも機械音痴の親がこの機種で、使い方調べさせられたから覚えたんだと」
 俺がきわめてどうでもいい情報とともにガラケーを返してよこした。
 オレがちょっと中身を確かめるとちゃっかり実渕の番号とメアドが登録されていてオレは愕然とした。
 明らかにロックオンされてる、ヤバいぞこれ。
 メールくらいなら返してやってもいいけど、これ絶対面倒くさい奴だ、やっぱり無理だ。
 オレはとりあえず実渕の番号とメールは着信をサイレントモードに設定した。黛千晴に電話かけたらオレの鞄から着信音が鳴るとかいう最悪な事故はこれで回避出来る。
「自分の携帯なのに電話の取り方も知らないのかって不審がってたから、機種変したばっかでこれから覚えるとこだって答えておいた」
 そこも追及されたか・・・。
 言い訳するとしたらそれしかないわな。
 それに俺と別れたあの時点でガラケーの使い方の講習なんてする暇なかったし、かといってオレのスマホ渡してガラケー持ってるのを誰かに見られたら二台使ってることがバレるからダメだしな。
 万一に備えて番号変更するか・・・。
 たしか手数料2000円とかで即日番号は変えられるはずだ。メアドも変更になるからちょうどいい。
 問題は土日の携帯ショップの営業時間が10時から19時だということ。明日は午前は学校公開だし、午後は部活だしショップまで出かける時間があるかどうか・・・。
「今日は長時間ありがとうな、夏の祭典頑張って送迎させてもらう。じゃ」
 オレは忘れ物がないようにテレポートしようとして愕然とした。飛べない・・・。
 ここへきてまさかのPP切れか。
 ヤバい。
「・・・帰らねえの?」
 今日黛千晴になりすましてくれた俺が怪訝そうに言った。
「明日学校公開だから一時間目授業で二時間目から球技大会なんだ・・・。一時間目の予習しとかないとヤバいのに帰れねえ。PPが足りないみたいだ」
「俺PP切らしたことないから知らねえんだけど、それってちょっと休んだら回復すんの?それとも幻想水〇伝みたいに宿屋か本拠地で一晩明けないと回復しない系?」
「一晩待たないと回復しない系だがここで一晩休んだら宿題が出来ないからだれかに送ってもらうしかないな」
「泊めなくていいのは助かるけどタクシーじゃあるまいし・・・。呼ばれる奴、えらいとばっちりだな」
 俺が呆れ顔で突っ込んだが、聞こえないふりをした。
 こいつには世話になってるので恩を仇で返すようなマネはしない。


[なあ、今大丈夫?]
 千里眼を使う余裕がないので状況が見えない相手にオレは話しかけた。
[大丈夫だけど。また帰れなくなったのか?]
 からかい半分に言われて憮然とする。
 俺が見えてるのに知らない会話をするのは気がひけてスピーカーホンのように声が聞ける状態にする。テレポートは出来なくてもこいつ相手のテレパシーは負担がほぼないのでこのくらいはじゅうぶん出来る。
[まあそうだ。今日はチームメイトの命救うために大変な思いしたからな]
[へえ。なんかお前巻き込まれ体質だよな。普通ならほっとくと思うが]
 こいつの能力だとたしかにそうか。
 オレはたまたま無料通話枠だからこうして話せるが、こいつのテレパシーは言ってみれば、電話に例えるとお子様用安心携帯みたいなものでごく限られた相手としか連絡が取れない。そのテレパシーもじゅうぶん使いこなしているとは言い難く、電話のたとえだとオレから電話すれば電話は取れるが、自分からの掛け方は分からないちびっこみたいな状態だ。
 だから電話代(超能力)をほぼ使ってないので、頼めば高確率で送迎に応じてくれる。
 いろいろ欠点がない訳じゃないが贅沢は言えた義理じゃない。
[まあ、予知しちゃったものはしょうがないからな。今、今日の件で活躍してもらった奴の寮部屋にいる]
[テレパシー切ったら分かんなくなるから切らずに待ってろ]
「俺の能力教えんなよ」
「いつも言ってない。自分と連絡取れない相手の能力なんか知ったってどうしようもないから聞かなくていいって自分から言ってくれてるんだ。オレのこともテレパシーとテレポート以外は不充分な予知があるくらいしか知らないんじゃねえかな」
「ならいいけど」
「お邪魔しまーす。お待たせ。帰ろうか」
 遠路はるばる送迎に来てくれたこいつは来た瞬間もう帰ろうとした。
 こいつの見た目は異次元のオレの中でもとりわけオレに似てない。もっさりした前髪で両目を隠して見せようとしない、いわゆる目隠れ系男子。
 髪の色はオレと同じ灰色だし、顔のパーツも同じだが、いかにも根暗っぽい髪形のせいで印象が全然違って見える。
「早っ」
 この世界の住人の俺が光の速さで突っ込んだ。
「っちょ、今日は打合せがあるから作戦会議させてくれ。まず、今日はオレのチームメイトの根武谷って奴の食料危機を救い、実渕って副主将が刺される危険を回避し、犯人逮捕に陰ながら協力し、昨日は葉山って奴の頭に植木鉢が落ちるのも回避させてるからこの三人の好感度が無茶苦茶上がってる。だから遭遇したら簡単には離してくれない恐れがある」
「ぼく全然関係ないけど・・・?」
 こいつはパラレル世界の♂のオレにしては珍しく自分のことをぼくと言ってる奴だ。
 男子寮のオレの部屋へ女子に送迎させる訳にいかないからここは普通に男を選んだ。
 前髪がもっさりして野暮ったく見えるが、個人の好き好きなので人の髪型をどうこう言うのはやめよう。オレも別にしゃれた髪型してる訳じゃねえし。目隠れ系男子、通称ぼくは、テレパシーの他には強力な毒攻撃とやや微妙なテレポートを持ち、SAN値ダウン系の歌も歌える。
 魔眼は磁力操作。電子機器をぶっ壊すには便利だけど磁力は(ペースメーカーを使ってる人とかは別として)それほど人体に影響はないし、オレと違って力のコントロールも出来ているから周囲にむやみやたらに毒撒いたりする訳じゃなし、一見普通の影が薄い男だ。
 磁力操作には発動に時間がかかり即効性がないこと、他の能力も敵味方識別なしの全体攻撃とか使い勝手が悪いので実渕を助けるにはキツいと判断して頼まなかった訳だが。
「お前、当たり前だけど顔自体は俺と似てるから、そいつらに会うと兄弟か身内と思われて面倒くさいことになるって言いたいんじゃね?で、こいつにも偽名つけるのか」
 言いたいことを俺が喋ってくれたのでオレは頷いた。
「オレのいとこ、男で年が近いのは一個上の千晴と二個下の千暁なんで千暁のふりしてくれねえかな。ほら、お前前にも何回かオレと同じ寮の奴に姿見られたことあるし」
「アレ結局誤魔化せたんじゃないのか?わざわざ設定作ってフラグ立てることないと思うが」
 フラグと言われればそうなんだが、こいつのテレポートがちょっと微妙なのを知っているだけにそう楽観視はできない。
「あの時は好感度が高い奴がいなかったから、あれは親戚だ、ふうんで終わったけど今は好感度高い奴がいるからそいつらに見つかったら絶対追及されると思うんだよ。だから設定は作っておきたい」
 超能力がほぼ底をついている今連絡がついてテレポートも出来る人材は限られる。チートな俺様、チートなおれっ子、そしてぼく。
 俺様は論外だし、おれっ子には今日知恵を借りたばかりだし、男子寮に女子を連れ込むのはまずいし(昨日男子更衣室のロッカーのレストアとサイコメトリーを頼んだのは他に人がいなかったからスルーの方向で頼む)、テレポートに多少問題があってもぼくに頼るしかないのだ。
「ここまでして超能力隠すよりいっそばらした方が早くねえか?俺だって一人だけはばらしたけど」
 俺は好感度が低い相手は洗脳出来るからばらす必要がない。ばらしたってことは好感度が高い相手だ。
「オレの世界の実渕以外でってことか?」
「もちろんこっちの世界の奴でだ。異世界の自分以外にも誰か協力者がいればだいぶ違うだろう。ま、今日みたいなケースは一般人より俺ら向けだったとは思うけど」
 考え込んだオレにぼくが言った。
「別に設定を作るのはかまわないさ。分かった、誰かに出くわしてなんか聞かれたらちさとのふりすればいいんだな。ぼくの世界だと千暁は弟なんだけどお前のとこじゃいとこか・・・、実在の人物になりすますならそいつのことをもうちょっと教えろ」
 ぼくは見た目といい、能力といい、家庭環境といい、パラレルワールドの男のオレの中でもとりわけオレとはズレが大きい。
 頭の出来とか、凝り性だが時に面倒くさがりなところとか性格は似ているんだが。
「千暁はオレのとこだと千晴の弟だ。15歳。千晴は浪人一年目で誕生日が来てるから19」
「15のガキのふりしろって無茶ぶりもいいとこだな。うちの千暁も高一で15だからそこは同じか。学校はやっぱり堀河行ってんの?」
 やっぱりってことはぼくの世界でも堀河なのか。ちなみに京都じゃ私立では洛山、公立では堀河が学力が一番高いといわれている最難関校だ。
「本物の千暁か?堀河だ」
「ならいい。でも詳しいこと言って本人ではないと分かったらまずいし基本黙ってりゃいいんだよな?」
 ならいいというのはぼくも堀河生だから堀河高校のことならオレよりよっぽど知ってるからだ。
 考えてみれば、オレは一人っ子だったから私立校の洛山に行かせてもらえたが、二人兄弟だと学費の安い公立の堀河に二人とも進学していてもおかしくはない。家からは遠いが、金銭面と学力面では妥当な選択だろう。
「もちろん、余計な会話はしなくていいが、詮索されたら情報小出しにして切り抜けてくれ。テレポートは出来なくてもお前とテレパシー使う分くらいは残ってるから、迷ったらつつくかなんかしてくれればテレパシーつなぐから聞いてくれ」
 ぼくはほとんど超能力を使わないのでマホアゲル(自分のMPを仲間に渡すドラクエの呪文)とか持っててくれればオレに回してほしいところだが、あいにくそんなスキルを現実で持ってる奴など実際に見たことはない。
 ここからもっと詳しい話とか身内ネタですっかり盛り上がり、打合せが一通り終わったところでオレとぼくはようやく腰を上げた。
「長々と悪かったな。今度こそ帰る」
「また今度会おう」
「ぼくのテレポートは目印がないとたどり着けない。自分の世界ならいいんだけど、異次元はこいつの部屋とこいつの現在地くらいしか行けないんだ。こいつと一緒の時に呼んでくれれば行くよ」
 親と一緒にしか出掛けられないチビ助か人見知りの子どもみたいだな。
 言わねえけど。


ΨΨΨ

「・・・どこだここ」
 ぼくのテレポートには一つ欠点がある。
 オレがいるところに来るのは完璧だし、自分の世界に帰る時も問題ないらしいのにオレを連れ帰る時限定で方向音痴というか、帰りたい場所の近くまでしか来れないのだ。
 自分の世界(自分んち)は駅みたいに目立つから分かる、オレがSOS出してる時はテレパシーで呼ぶ声を聞いて場所の見当をつけているから来られるが、オレを連れて帰る時は住宅街の中のありふれた家の中から該当する家を見つけるようなもんで難易度が高い。だから住宅街の一角にたどり着くのがやっとだ、という理屈らしい。
 別の世界に行きっぱなしよりは、この世界に連れ帰ってくれるだけありがたいし、目隠れ系だけあって視線が大嫌いだから防犯カメラに映る場所やその瞬間誰かに見られている場所は華麗に回避してくれるのでそこは長所なんだが、こんな調子なので部屋にダイレクトに到着しないのが悩みだ・・・。
「黛さんやっと見つけた!もう、どうして先に帰っちゃうのよ!」
 廊下できょろきょろするぼくにオレが答えを言う前に実渕の声が割り込んだ。
 まずい、もう実渕に見つかった。
 視線が外れている場所に着くというのは、テレポートの瞬間に見てないだけということも多いので、このように直後に見つかることもざらである。
 会計している間に見捨てて帰ったのに好感度は1しか下がらず76。相変わらず高いな。
 ちなみにオレ達がいるのは寮の受付付近。
 前に僕っ子にこの寮に防犯カメラのデータを解析してもらったところによると、この位置はちょうど死角で映らないから証拠が残らないのはいいんだがもうちょっと精度をどうにかしてほしいよな・・・オレだって男子トイレと間違って女子トイレに出るくらいテレポート下手なんだけどさ。
「誰だこいつ」
「実渕だ、今日さっきの奴が通り魔から助けた奴」
 オレは少し迷ったがテレパシーをつなぐことにした。ぼくからオレへテレパシーがつなげない以上、つないだままにしておくしかない。
[さっき一緒にいた“千晴”はお前の三学年上の兄貴って設定忘れんなよ]
 ちなみにこの目隠れ男子の千尋=ぼくはさっきも言ったように堀河生なので洛山の校舎も寮も近隣の道も生徒も全然知らない。もっと言えばバスケ自体やってないからキセキの世代とか無冠の五将とかも認識してない。他の競技なんてオレだって知らないし、そんなもんだろう。
 オレが洛山はバスケの強豪だと教えても、そうかよと返した程度で全然興味なさそうだし。
「あいつが帰るって言ったから」
 嘘じゃない。
 あいつとだけ言ってオレは偽名を口にしてないからな。
[お前の嘘じゃないってひでえ屁理屈だな]
 ぼくからツッコミが入ったが無視する。
 オレはぼくにアイコンタクトで動くなと伝えてから受付のボールペンを取り面会表を記入する。
 何月何日何時何分、誰を訪ねて誰が来たか書く用紙があるのだ。これを記載台で本人に記載させると防犯カメラに映ってしまうのでオレが異世界の自分を呼ぶ時はだいたいオレが書いてる。
 オレは嘘は言えないが紙に嘘が書けないとは一言も言ってない。
[何書いてる?]
[面会表だ。これを書いておけば後はザルだから要所要所の防犯カメラに映らなければ問題ない]
「何書いてるの?黛さんに面会?黛・・・えーと」
 千暁、が読めないらしい。
 ちさと、ちあきなど複数の読みが考えられるから無理はない。
「この字なら、これで千暁(ちさと)と読む」
 オレは読み方を説明した。
 実渕は周りをきょろきょろした。
[こいつがぼくに気づいてないならこのまま帰りたかったんだがな]
[受付のとこまで来て何もしない方が不自然だからしょうがねえだろ]
「その千暁さんはどこ?」
[お前はその変な完璧主義でよく墓穴掘らされるよな]
 ぼくは一人称こそ違ってもやはりオレだけあって結構毒舌だ。
「分からないのか?」
 ぼくが呆れたような声を出すと実渕は直近で聞こえた声に飛び上がった。
「びっくりした・・・!影が薄いところはさすが親戚ね。その前髪邪魔じゃない?」
「余計なお世話だ」
 ぼくはそっぽを向いた。
 こいつは髪を切れと言われるのが嫌いなのだ。
「千晴さんもだけどあなたも黛さんと声がそっくりね。兄弟?」
「いとこだ。千晴と兄弟」
[お前なら、(この世界の千暁は)千尋といとこで、千晴と兄弟だ、オレがこの世界の千暁だとは一言も言ってないから嘘は言ってないとか言うんだろ]
[自分相手に人間観察を使うな。それとも心を読んだのか?]
 オレは苦笑した。
 一見似て見えないようでもやはりオレはオレみたいだ。
[お前が伝えたいと思ってることは聞こえるが心の声が全部聞ける訳じゃない。そんな能力はないからただ推測しただけだ]
「じゃあ千暁さんて千晴さんの弟さんなのね。私、今日お兄さんにとってもお世話になったのよ」
 オレがそれ以上言うなと実渕を睨むと実渕はあっという顔になった。
 ぼくは知ってるから問題ないとはいえ、さっき言ったばかりの口止めをもう忘れるとか、勘弁してくれ。
[なんでこっちが年下認定されなきゃいけないんだよ、もとは同一人物なのに・・・!]
 ぼくはぼくで怒っていた。
 まあ、千晴が19歳設定で、オレもぼくも17歳だからそもそも年上に見えるはずがない。
「関係ない。つーか、あんた何年?呼び捨てでいいよ。こいつのことさん付けで呼ぶってことは一年か二年だろう。タメ年や年上にさん付けされるのキメエ」
 こいつの世界では黛千暁は高一でしかも弟だから高二の実渕にさん付けで呼ばれるのは不自然な気がするんだな、気持ちは分かる。
 あと自分の本名が千尋だからオレを千尋と呼びたくないのもよく分かる。だからパラレルワールドの自分と会うとお互いにお前とかこいつとかあいつとか、本名を呼ばない呼び方だらけになってしまうのだ。
「ってことはあなた高一?細いけど背は高い方ね。バスケしてるの?」
「してない。つーか、バスケやるつもりならこいつみたいに洛山選ぶだろ」
 京都じゃ洛山一強だからな。
 ちなみにこいつはバドミントン部だ。
 堀河高校の男子バド部は団体戦でインターハイ出場したりしているが、部活を言ってしまうと本物の黛千暁がオレとそれほど似て見えないことがバレてしまいかねないのでバスケじゃないということしか明かしてない。
 実は本物の千暁は顔のつくり自体は千晴よりずっとオレに似ているんだけどいかんせん茶髪なので髪色が違いすぎてなりすますには正直ちょっと無理がある。
 千晴の髪と千暁の顔を合成すればだいぶそっくりなんだが。
「洛山を選ぶ?あなたどこの高校?」
 洛山は難関なので選べる奴はそうそういない。
「堀河だ。お前、人の質問には全然答えないで自分ばっかり聞いてきてふざけんなよ」
 ぼくは分厚い前髪の隙間から実渕を睨み付けた。そんなに睨んだら魔眼が発動しそうだが、幸か不幸か、こいつの魔眼は即効性がないのでたいして問題ないはずだ。
 ぼくは会話のキャッチボールを楽しむような性格してないので会話のドッジボールみたいになっているが実渕は気にしてないらしい。
「あらごめんなさい。私は二年よ。千暁ちゃん」
「ちゃん付けやめろ。呼び捨てか、千歩譲ってさん付けにしろ。でないとここで歌ってやる」
 冗談じゃねえ。
 オレは目立ちたくないんだよ・・・!
「実渕、ここは素直に言うことを聞いてやれ。こいつの歌は例えるならジャイアンのリサイタルか斉木楠雄の友達の燃堂の歌、そうでなければマク○スデルタの敵の風の歌みたいなもんだ。要はヤバい。分かるか?」
「黛さんとそっくりな声でどうやったらジャイアンみたいになるの?逆に気になっちゃう」
 実渕は例えがジャイアンしか分からなかったらしい。
「音痴すぎてほとんど怪音波なんだよ。どうしても聞きたければ人里離れた誰もいないとこで聞かせてもらえ。近所迷惑だ」
 音痴と超能力のコラボでひどいことになる訳だが、とりあえずこいつに歌わせたらヤバいとだけ知ってもらえばそれでいい。
 実渕はやっとことの重大さに気づいたらしい。
「そんなにすごいの?!じゃあ、千暁さんって呼ぶことにするわ・・・。黛さんの親戚ってみんな個性的なのね」
 親戚というか全員オレなんだがそれは言うまい。
「お前の方がよっぽど濃いじゃねえか。あっ、お前二年なんだっけ。あんたの方がよっぽど濃い」
 オレも監督くらいしか敬語使う相手がいねえ(影薄くて普通に教師に見つからないから)んで敬語は下手くそな自覚はあるがこいつも大概だな。
「わざわざ言い直さなくていいわよ。あーあ、もっとちゃんと千晴さんにお礼言いたかったのに。すぐいなくなっちゃうなんてひどいわ」
「・・・もっとちゃんとってことは礼はもう言ってるんだろ。ならいらないんじゃね。同じこと何回も言うのも聞くのも時間のムダだし、あいつだって別に礼を言ってほしくてしたことじゃねえだろう」
 男だから需要ねえけどこいつ実はクーデレだったりする。一年に一回くらいデレるぼくは素っ気なく言った。
 ほんとにこいつ素っ気ないな。
 高一設定も忘れられてそうで怖い。
 高一が高二に言う発言じゃねえ気がするが規格外の赤司を見慣れて感覚が狂ってるらしい実渕は何も不審に思わなかったらしい。
「レオ姉、黛サン見なかった?っておわっ!」
 葉山が実渕の次にオレ達に気づいたらしくぎょっとしている。
「黛さんが二人・・・?」
 前から見ると髪形のせいで似て見えないが後ろ姿は本人だから当然そっくりではある。
[なにこいつ]
[葉山だ。洛山のスタメンはオレ以外全員有名だけどこいつもバスケじゃ有名な奴]
[ふうん]
「お、お化け・・・?」
 葉山がなんで震え声なのか訳が分からん。
 でも朝、七不思議のことをなんか怖がってたとか樋口も言ってたっけ。
 実渕の件でバタバタしたから忘れてたけど。 
「おい。人をオバケ呼ばわりとかふざけてんのかよ」
 ぼくはむっとしたようだった。
 影が薄くてしばしば幽霊扱いは受けているとはいえ面と向かって言われたらそりゃ腹立つよなあ。
 オレとぼくが同時に振り向くと葉山は、
「ぎゃあ、違った!」
 ・・・?
 客観的に見て、ぼくは影が薄い上に長い前髪で目を完全に隠している髪形もあいまってオレよりよっぽど幽霊に見えるはずだが。
「葉山。今なんでお化けとか言ったんだ?」
 オレは強引に話を戻した。
「昨日部室で足音聞いた時、オレ最初に出たじゃん?あの時、廊下に一瞬、うっすらとだけど黛サンが見えたの!オレよりちょっと目線が低かった気もするけど黛サンの顔だったんだよね」
 こいつ透明化が見える体質だったのか・・・!
 ♀のオレの身長は、オレよりいくらか低い。
 ちゃんと並んで背比べしたことがある訳じゃないし身長を聞いたこともないがオレより何センチか低いのはたしかで、そのせいでテストで入れ替わった時、不審に思われたことがある。変身能力を持つ♀のオレじゃなくて、もちろん女装したオレの方がな(遠い目)。いくら細身で顔は同じとはいえ、身長182センチ運動部男子のオレに女装させること自体そもそも無茶な話だと言いたい。
 一瞬で身長が小さかったことまで気づくとは目もいい。侮れないな。
「でも黛さん部室にいたじゃない?千暁さんか千晴さんがいたっていうの?」
 ぎえ。
 変なとこに飛び火したな。
 これ対応を間違えると大火傷の予感がする。
[お前、変なことになってんな]
[スタメン入ってからこんなんばっかりなんだよ。葉山に見られたのは異次元のオレだ]
[だろうな。ぼく、さっきの奴、今までに会った奴。これだけ異次元の自分の助けを借りまくっていればいつかは誰かに見られて追及もされるさ]
「ぼくは知らない。洛山の部室なんて行ったこともない」
 潔白を主張するぼくに葉山が言った。
「あんた自分のことぼくっていうの?黛サンの声でぼくとか面白え!後ろ姿がそっくりだったから一瞬昨日透けて見えた黛サンかと思ったけど、猫背なだけでよく見たら黛サンと同じくらいタッパあるし、前髪も長いから違った。間違ってゴメンね」
 ぼくはオレと見かけが全く違うからオレと勘違いされる可能性は低いが、これだと俺が不法侵入した疑いかけられることになってきわめてマズイ状況だな。
「こっちは全然面白くねえよ。許可取らないで勝手に入ったら不法侵入だろ。身に覚えのないことで人を犯罪者扱いすんじゃねえ。千晴だって用もねえのに部外者が行ったらダメなとこには行かねえだろうし」
 ぼくは前髪越しに葉山を睨み付けて苦情を言いながらさりげなく千晴の弁護もした。千晴はこいつの兄という設定なのに兄貴と言わないのはオレと同じであまり嘘つきたくない性格なんだろうな。気持ちは分かる。
 用もないのに部外者が行ったらダメなとこには行かないという弁護も一般的にはその通りだし、用があれば行くかもという含みは残している点、こいつも嘘は言わないけどお世辞にも包み隠さず物を言うタイプではない。
 オレより目立たないとはいえ一応能力者で、俺のようにチートな洗脳能力を持ってる訳じゃない以上隠し事がうまくないとやっていけないのだろう。
「千晴さんも黛さんと背格好は同じだから違うわよね。黛さん、心当たりない?」
 答えにくい質問をオレがどうしようか一瞬悩んだ時、葉山の声が割り込んだ。
「ちはるさんって誰?」
「黛さんのいとこよ。私を助けてくれた王子様!・・・あ、今のは忘れて、言わない約束だったの」
 言うなって言ったのに一時間そこそこで約束破るなよバカ・・・!
「その人も黛サンに似てんの?」
「そっくりよ。髪の色も髪の長さも背格好も同じで双子みたいに似てるわ。黛さんだと思って話しかけちゃったくらいだもの」
「双子とか兄弟ならともかくいとこでそんな似てんの?」
 葉山はしばらく考え込んだ。
 ここが寮でなければ心を読みたいところだが寮生だけでも60人いるとして、食堂とかの業者さん、寮の近くの道路を通行する一般人もいると考えると・・・ちょっと多いな、こんなに大勢人がいるところではうるさすぎて聞き分けられない、無理だ。
「黛サン、あんたより背が少し低くてそっくりな顔の弟かいとこっていないの?」
「いないな。オレは一人っ子だから兄弟いねえし、いとこはだいたい180以上だからな」
 オレにそっくりなのは異次元のオレなのでむろん親戚ではない。
 だがまだ名義を借りられる親戚がいない訳ではない。いとこと聞かれただけだから叔父叔母とはとこの名前を使えばいい。
「えー、じゃあ生き別れの兄弟とかいないの?」
「そんなもんいねえよ、幻でも見たんだろ」
 ハッとバカにしたようにぼくが言った。
 これを放置すれば好感度が少しは下がるかと思いきや微動だにしやがらねえ。
 好感度がこんなに簡単に上がってちっとも下がらないなんてゲームだったらクソゲーもいいところだがあいにくこれは現実だ。
 ゲームなら何回でもリセット出来るんだが・・・。


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