[携帯モード] [URL送信]

バスケ漫画小説(年齢制限なし)
止まっていた時計が今動き出した【赤司征十郎生誕祭2019】
 WC決勝で洛山が敗北した後の世界から時間移動能力者の黛さんが僕司を救いに現れたことから始まる第一話が2016年の赤司誕小説だったことに我ながら驚き。
 続きをお待ち下さっていた方がもしいらっしゃったとしたら長らくお待たせしました、第二話です。
 このシリーズは攻め受けが決まる分岐点前の二人なので、今後どうなるかは読み手のご想像におまかせします。今回恋愛要素は控えめですが、普段は黛花、黛赤、黛ナシュなど中心に書いているため生産元を気にされる方はご注意ください。
 僕司視点です。
 問題ない方のみどうぞ。
 





 最初の時間移動は黛千尋によって12月30日から12月20日へ行われ、WC決勝(洛山対誠凛)の試合の模様が映った未来のUSBが12月20日の僕に届けられた。
 USBの映像を見て黒子対策を強化した僕達だったが、12月28日から12月30日へ黛千尋に連れられて二人で時間移動をしたところ、帰る時に12月20日に戻ってしまった。
 千尋が言うには、質量保存の法則により同じ時間に同一人物が二人存在することは出来ない。
 そのため、12月20日に12月28日の僕達がいるということは、12月20日の僕達が12月28日の世界にいる可能性が高い。
「千尋?」
 千尋が何か考え込んでいる。
 僕が下から見上げると、千尋は我に返ったようだった。
「……USB見直すか。データがどこか上書きされてるかもしれねえし」
「USBは同じものなのに中身だけ変わることがあるのかい」
 驚いて聞くと、千尋は僕の質問に質問で返した。
「お前、知らないのか?バックトゥザフューチャーとか見たことねえのかよ」
「その映画がタイムトラベルもので有名なタイトルであることくらいなら知っているが、実際に見たことはないね。僕が何を知らないというんだ?」
 千尋にバカにされると腹が立つ。
 怒りを表情に出さないようにして聞くと千尋は言った。
「バックトゥザフューチャーでは未来の写真を持って過去へ行って過去が大きく変わると写真に映った人間が消えていったりするんだよ。つまり、手元にある現物の質量さえ保存されていれば表示される内容やデータは更新されることが普通にある。タイムトラベルの界隈では常識なんだけど赤司でも知らないことがあったんだな」
 そんな常識知るはずないだろう。
 娯楽映画など見る暇がある訳もないし、千尋のように時間移動能力を持っている訳でもないのに知るよしもない。
「僕だって知らないことくらいあるよ。お前は僕をなんだと思っているんだ」
「なんでもお見通しってツラしたおぼっちゃん」
 その認識はどうなんだ。
 僕が千尋を睨むと千尋は僕の機嫌を取るかのように髪をくしゃりと撫でた。
「悪かったな。お前おぼっちゃん扱いされるの好きじゃないんだろ?冗談だ、冗談」
 僕は年上ぶって頭を撫でてくる千尋の手をペシリと叩き落としてノートパソコンに視線を移した。
 ……?
 このWC決勝は始めの方こそ僕達が経験したものと同じに見えたが、途中からはまるで別物だった。
 千尋は影の薄さがなくなると控えの選手と交代させられ、その後コートに戻ることはなかった。
 僕がゾーンに入ることもなく、ゾーンに入った火神になすすべもなくワンオンワンに負けたばかりか敗北のショックでずるずると崩れた僕の醜態に遂に監督の交代命令がなされ、そのまま洛山は敗れた。
 最初に見た試合結果よりもひどい最悪の未来がそこには映っていた。
「なんだ、これは……」
「思ったよりもひどいな。お前のゾーン入りは誠凛対桐皇の試合を見た後だったよな。あの日の練習がなくなるとお前のゾーン入りもなくなっちゃうんだな。オレを試合に出し続けたのは恐らくゾーン入りでオレの失態をカバー出来ると思ったからで、ゾーン入りがなくなるとオレを交代させようとする監督の判断に抵抗出来なくなって、そこでも未来が変わる。試合から降ろされたオレは淡々とスポドリ飲んでいて完全にやる気なさそうだし、お前が下ろされそうな時に庇ったりもない。そういうもろもろの積み重ねで惨敗を喫する訳だ」
 試合後には僕でなく、もう一人の僕、本来の人格であるオレの姿が映っていた。
 それを見て僕は理解した。
 オレは僕の敗北を望んでいる。
 だから僕が消えるまでずっと表に出なかったのだと。
「恐らく、洛山が誠凛に負けるのが本来の未来というか正史で、これはその派生の一つなんだろうな。黒子はしょせん影だから影にばかり注視して本来の敵から目をそらしちゃダメだってことなのかもな。やっぱり火神を抑えないとどうしょうもねえ」
 別に目をそらしている訳ではない。
「火神対策は……、僕のゾーンですら抑えられなかったのにどうするか。最初に見たUSBに映っていた終盤の映像のように小太郎とお前の二人をつけるとしたらお前の負担が大きくなる。お前のスタミナが最後までもつかどうかも問題だろう」
「もたせなくていいだろ。オレは本来シックスマンなんだからへばったら控えと交代させればいいだけのことだ」
 淡々と言う千尋に僕は噛みついた。
「お前は何を言ってるんだ?僕の相棒はお前なのだから最後までコートにいてもらわなくては困る。僕にはお前の力が必要だ、交代などさせるものか」
「時間移動能力とか抜きで冷静に考えて、オレより控えの方がいいと思ったら迷わず代えろよ。間違っても私情は挟むなよ」
「この僕が選手起用に関して私情など挟むものか」
 僕は千尋と睨み合った。
 千尋は僕より年上だという意識があるせいか、時間移動に関して一日の長だという自負があるせいか黒子のようにおとなしく従ったりはしない我が強い影だ。
 今まで周りにいなかったタイプなので面白くて気に入ってはいるのだけれどこの我の強さは時として扱いにくい。
「私情を挟まないというならオレがへばったら迷わず代えろ。あとはそうだな、12番とのミスマッチを突いてお前がもっと決めに行ってもよかったんじゃねえか?インサイドへ行くと火神がヘルプに来ると分かってるなら最初からアウトサイドからスリーうっちまえばよかったのに」
 永吉の声でスリーうっちまえと言われているのも聞こえたが、話はそう単純ではない。
「真太郎ではあるまいし、そうそうスリーは入らないよ。それに、12番が僕に通用しないと判断されれば火神が僕のマークにつくだけだろう。そうなるのは避けたい」
「スペースがあるとこだとアンクルブレイクで転ばされるから火神は来ねえか来るとしてもタイミングが遅くなるだろ。この時もそう判断したからオレはヘルプに行ったんだろうし」
 千尋は特性を上書きされる寸前、僕のヘルプに走ってきた場面まで時間を戻して画面を指差した。
「そこまで考えるか?みすみす上書きを完成させたお前が?」
「上書きされるって予想しないでパスバンバン回してきたのはお前だろ。ディフェンスもオフェンスも黒子とベッタリじゃ、そりゃ上書きされるよなあ。……体力は削られるけどやっぱりオレ火神のマークしてた方がよくねえか」
 千尋の体力さえもつのならそれが最善かもしれない。体力さえもつのなら。
「テツヤはどうする気だ?」
「誠凛がオレを放置してたのと同じで放置でいいだろ。バニシングドライブにしろファントムシュートにしろあんなもん決めまくれば影の薄さなんてすぐなくなるはずだ。オレが火神のマークについていれば上書きはない」 
「上書きはないかもしれないが、どこまで対応出来るかは未知数だ。……大輝に頼んで練習相手になってもらうか。火神と互角に張り合った大輝なら火神の代わりとして申し分ない」
「は、大輝って青峰のことだろ?初戦で負けて間もない青峰に練習相手になれってか?鬼だな、お前」 
 冬休みの宿題を教えてやると約束すれば大輝は来るだろうと算段する僕に千尋が突っ込んだ。
「鬼?……フッ、小太郎とお前は大輝と一緒にディフェンスの練習をしろ」
 この時パソコンの画面が奇妙に揺らいだ。
 決勝戦の様子が映った未来のUSBのデータは時間移動能力者である千尋のパソコンからしか見ることは出来ないのに故障だろうか。
 USBが壊れたのかパソコン本体が壊れたのかどちらなんだろう。
「チッ、まずいことになったな。たぶん本来の歴史からかなり遠ざかった気がする」
 千尋がぼやきながら一時停止すると全てのタブを閉じてからパソコンをシャットダウンして再び電源を入れ直した。
「遠ざかった方がいいだろう?」
「本来の歴史をなぞるだけじゃ未来は変えられないが、ただ変えりゃいいってもんでもねえよ。お前、ほんとむちゃくちゃなこと考えるよなあ。でなきゃそもそも退部したオレを呼び戻したりする訳ねえけど」
 千尋はパソコンが再起動するとタッチタイピングでキーボードを叩き始めた。
「千尋?」
「……本来の歴史から離れすぎると接続が不安定になるんだよ。ほら、ポートのチェックのところがLMPだのUSBだの目まぐるしく変わっていってるだろ。それから……」
 千尋はポートの確認を終えると次はデバイスマネージャーを開いた。
「USBの抜き差しもしてないのにここが濃くなったり薄くなったりしている。いろんなところの挙動が明らかにおかしい」
「機械の故障ではないのかい?」
「本来の歴史から離れた時に理論上あり得る現象だ、恐らくマシントラブルではないな」
 どこで本来の歴史から離れたのか見当がつかないが、この場合どうしたらいいのだろう。
「こういう時、元のルートに戻るのと新しい道を進むのとどちらがいいだろう?お前ならどうする」
「元のルートに戻ったらお前が消えちまうんだろ。なら新しい道へ行くしかない。それでダメだったらそれはその時に考えればいいことだ」
 パソコンとUSBが完全に壊れるのを恐れて今回はこれ以上USBを見ることはせず、一周目同様WC初戦敗退した大輝を呼んで練習に明け暮れた。
 そして…………12月28日。
 準決勝の秀徳戦に勝ち、前回同様タイムトラベルをするかしないかの最終決断の時がやって来た。

 数日ぶりにパソコンを立ち上げ、未来のUSBを挿した僕達はWC決勝、試合開始の段階で唖然とした。
「……なんだこれは」
 洛山の向かい側に整列しているのは誠凛ではなく黄瀬涼太を擁する海常だったのだ。
 つまり、誠凛が準決勝で海常に負けて海常が決勝進出した未来ということになる。
「どうしてこんなことになったんだ?」
 何故未来が変わってしまったのか。
 時間移動については僕よりずっと詳しい能力者の千尋に意見を求めると、千尋は首をひねりながら言った。
「オレ達洛山から海常には何も働きかけてないのに変わってるなら、誠凛に何かあったと考えられるな。本来の時間の流れと違うことが何か起きたはずだ」
「何かとは?」
「そいつはオレが知りたい。……でもオレ達が時間移動したのは洛山対秀徳戦の直後だからそういえば誠凛対海常の結果は見なかったんだよな。もしかしたらそこで何かあったんだろうな、もともとどっちが勝ってもおかしくない点差だったし」
 決勝の相手が誠凛ではなくなったことで、今までの対策が全て無になってしまった。
「せっかく誠凛対策を講じたのにまた一からやり直しか」
 振り出しに戻って愕然とする僕に千尋が楽観的に言った。
「考えようによっちゃあチャンスかもしれないぜ。黄瀬がパーフェクトコピーするのは青峰と緑間とお前と紫原だろ。青峰には練習相手になってもらったし、緑間とは準決勝で戦った。紫原とは戦ってないから対策は出来てねえけど、黄瀬はそんなに紫原のコピーはしねえし、エンペラーアイに関しちゃお前が本家なんだしいけるだろ。このルートで優勝すればお前が消えることもないんじゃねえの?」
 千尋に勇気づけられ、今回の12月28日には12月30日へ飛ばない決断をした。
 この決断が吉と出るか凶と出るか、それはUSB接続が再び出来なくなった今、当日その時を迎えるまで分からない。
 だが、僕は千尋と一緒ならどんな困難も乗り越えられると信じていた。


終わり

 タイトルは2004年にリリースされたZARDの曲名からです。
 古い曲なので知らない方も多いかと思いますが、とても好きな曲です。

 作中の黛さんと赤司くんは知らない裏設定。
 誠凛の未来が変わったのは、青峰くんが洛山との練習に駆り出されたため、黒子くんや火神くんとストバス場で会う機会が消失したからです。
 誠凛対海常は黒子くんと火神くんの経験値が原作より上がってないので海常が逆転勝ちしました。
 作中で黛さんが葉山くんと一緒に火神くんのマークにつけばいいと言っているのは、火神くんを一人でマークするのは無理だし、原作通り黒子くんのマークにつくのは下策なのでこれが一番いいかなぁという自分なりの判断です。
 基本脳筋の葉山くんは頭脳派の伊月くんとは相性が悪いので黛さんが伊月くんをマークするのも一つの手だと思います。
 が、洛山対誠凛は他カプで書いたことがあるので、二回似たような話を書くのはどうなの……ってことで今回決勝は海常に勝ち上がってもらいました。
 誕生日のたの字も出てこない話ですが、赤司誕小説の続きなので生誕祭タグでお祝いしたいと思います。
 赤司くん、誕生日おめでとう!

 文庫本にジャンプラ後日談等が収録されていないのは、完全収録した愛蔵版?完全版?を売るための布石ですかね……。
 まだまだ公式から目が離せないので、遅ればせながらツイッターのアカウントを作りました。
 情報収集が主たる目的なので特になにも呟いたりはしてませんが、たまにリツイートやいいねはするかもしれません。
 ツイ垢もpixivと似たような名前ですので、目についたつぶやきをいいねリツイートなどさせていただくことがありましたらその際はよろしくお願いいたします。
 ここまでお読み下さりありがとうございました。

[*前へ]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!