[携帯モード] [URL送信]

バスケ漫画小説(年齢制限なし)
【腐向け】新型の六人目と魔術師が出会う話【黛ナシュ1】
 他カプ要素を念のため書いておきます。
 黛さんに甘える赤司くん
 モブ女にモテるナッシュ
 赤司くんや火神くんを気にするナッシュ
 黛さんに敵意を向けるシルバー
 こういった要素がありますが、恋愛感情は黛ナシュにしかないのでご安心ください。
 ナッシュがシルバーに暴力をふるう場面があります。嫌な方すみません。

 以上の注意書きで問題ない方はお進みください。




 ナッシュ・ゴールド・Jr。
 世界的に有名なストバスチーム“Jabberwock”のリーダー。
 それがまさか日本のサルどもにしてやられるなんて......。
 最後に決勝点を決めたのはサルにしてはマシな赤毛の10番と青髪の5番の二人だったが、そいつらに決められたのは赤毛の4番と水色髪の11番、二人のチビ猿のせいだ。 

 コートでは、敗北を認めずにわめくシルバーをなけなしの理性とプライドをかき集めてたしなめたが、オレだって腸は煮えくり返っているし、役立たずのチームメイトに対する怒りや苛立ちはそうそうおさまるもんじゃない。
 着替えた後になって汗は引いても怒りはまだまだ収まりそうになかった。
 八つ当たりで言わなくてもいいことを口にする前に、どっかで頭冷やすか、一人で遊びに出掛けるか。いずれにせよチームメイトと一緒に行動する選択肢を切り捨てたオレは、あいつらを放置し、財布とスマホだけポケットに突っ込んで会場内の通路へ出た。
 出口に向かって進んでいくと、サルどものキャプテンである4番の赤い髪のチビの姿が遠目に見えたので足を止め、様子を見ることにした。
『来て下さってありがとうございます、黛さん』
 4番が誰かと(もちろん日本語で)話している。 
 オレは見下しているサルどもの言葉を積極的に喋る気はないが、一応日本語は分かる。
 海外に行く前に訪問先の国の言語を習得しておくのは常識だ。
『そりゃチケット送ってもらったら来るしかねえだろ』 
 4番と話しているのは視野の広いオレでさえ見落としそうな影の薄い灰色髪の男だった。
 日本人の一般的な髪色は黒だそうだが、黒髪なんてstrkyとベンチに数人しかいなかったな。
 青みがかった灰色の髪は普通の白髪と違い独特でただならぬ雰囲気のある奴だ。体格も顔も全く似ていないのに、気配が薄いところだけは最後にスティールされた水色髪のチビと似ている気がして妙に気になった。
 試合のチケットを送られたということは日常的に会う奴ではない。にも関わらずそんな手間をかけてまで見に来てもらう価値がこの男にあるっていうのか?
『ふふ、お忙しいのにすみません。でももう一人のオレと統合するところを黛さんに見届けていただけて嬉しかったです』
 オレ達には威圧するような態度を崩さなかった赤頭が灰色髪の地味な男には敬語で礼儀正しく接し、しかも甘えるようなことを言っているだと?
 意外すぎる。
 つーか灰色の奴は何者だ?
 キセキの世代とか言われている赤、青、黄、紫、緑の奴が日本のバスケ界じゃ有名ってことくらいはこっちも把握していたが、灰色の奴は選手としては無名なはずだ。
 有名ならVORPALSWORDSに招集されたはずだしstrkyとかいう大学生チームにもいなかった。
 身長や筋肉のつき方をみるとバスケをしていてもおかしくはないが決して強そうには見えない。
 なのに赤い方は灰色の奴に敬意を払っているようだ。あれか、菊と刀でいうところの日本人の精神、恩とか義理とか年功序列って奴か。
 日本人は若く見えるから何歳くらいなのか分かりづらいが、灰色の方が赤いチビより落ち着いていて年上に見える。
『そうか、お前のそんな顔が見られるなら途中からでも見にきたかいがあったよ。お前も忙しいだろうからそろそろ帰るな』
 灰色の奴、マユズミの声はそう大きくない。
 注意して聞いていないと聞き漏らしそうな吐息まじりの低い声はやけにセクシーに聞こえた。
『今度、一緒にストバスしましょう。今日はお越しいただきありがとうございました』 
 ストバスに誘っているということはやはり灰色の男もバスケをやるらしい。
 キセキの世代は全員高校二年生=11th Grade (Junior)だそうだから、それより年上のこいつはオレと同い年くらいってとこか。
『......気が向いたらな。じゃ』
 灰色の男は赤いチビに手を振り、踵を返した。
 ゆっくり歩いて遠ざかっていく後ろ姿を赤いチビはしばらく名残惜しそうに見つめていたが、選手控え室から誰かに呼ばれてドアの内側に引っ込んだ。
 それを確認してから、オレは灰色の男に早足で近付いた。
「おい」
 後ろから声を掛けると灰色髪の男は無表情で振り向いた後、目を大きく見開いた。
 そりゃさっきまで観戦していた試合に出ていたチームの選手、それもキャプテンにいきなり話しかけられれば誰だって驚くだろう。
「...キセキの連中になんか用か?だったらそっちへ勝手に行ったらどうだ。オレはあいつらほとんど知らないから、紹介とか無理だぞ」
 灰色髪の男はVORPALSWORDS選手控え室に視線を誘導しつつ英語で言った。
 サルどもの中でオレに英語で話しかけてきたのは赤いチビだけで、青髪や金髪の奴は試合中に英語わかんねえと日本語で堂々と言い放っていたが、こいつは英語が話せるらしい。
「ほとんど知らないわりにあいつらのキャプテンとは喋ってたようだが?」
「そりゃ赤司は一応高校の後輩だから。だが他の奴らは高校も別だし、何人かとは試合で対戦したが、旧型君の劣化コピーのオレに興味持つような物好きはいなかったから個人的に喋ったこともない。よってオレにあいつらを紹介させようとしてもムダだ。じゃあな」
 アカシと同じ高校の先輩か。
 日本人は英会話が不得意な者が多いらしい。現にキセキの世代にも英語を話せない奴が何人もいたがアカシもマユズミも英語を普通に話せるのは高校のカリキュラムのおかげか二人ともたまたま英会話が得意な日本人なのか。
 劣化コピーって、黄色い奴以外にもコピーキャラがまだいたのか、ひょっとしてキャラがかぶってるから選ばれなかったのか?
「待て、オレが用があるのはお前だ、あいつらじゃねえ。ちょっと付き合えよ」
 マユズミの身長はおよそ6フィート。日本人にしては高身長の部類のはずだが、何故か水色のチビ並みに影が薄い。
 この図体で何故こいつはこんなに影が薄いんだ、もっと存在感があってしかるべきじゃねえのか。
 オレが呼び止めるとマユズミは意外そうに言った。
「......オレ?あいつらに話があってきたんじゃないのか」
「出口に向かって歩いてたらたまたまあいつらの控え室方向に来ちまっただけで、別にVORPALSWORDSの奴らと話したいことなんか何もねえよ。くだらねえミスしやがったチームメイトにも今は会いたくねえ。気晴らしにどっか面白そうなところへ案内しろ。こっちは土地勘がないもんでな」
 今までの日本滞在中は他の奴らの好みに合わせて六本木とか渋谷とかそんなとこばっか行ってたから観光らしい観光など全くしていなかった。
「外国で土地勘がないのは分かるし、VORPALSWORDSやチームメイトと会いたくないのはお前の勝手だが、だからってなんで初対面のオレに頼むんだ?案内くらい通訳かガイドがいるだろ」
 当然の疑問だ。
 オレ自身、なんでこんな話を持ちかけてしまったのか自分がしたことなのに自分でびっくりしてる始末だからな。
「通訳はいたが、昨晩六本木でシルバーが暴れたせいで怖がられて、とうとう契約解除を通告された。今更、新しい通訳を手配させるのも面倒だ。お前ならオレに怖じ気づいたりしない度胸があるし、英語も出来てちょうどいい」
 今言った事情は全部本当だ。
 だからって初対面の奴に声かけるかって話だが。 
「......オレは一応赤司の先輩だし、同級生がstrkyのメンバーでお前らのチームにこてんぱんにされたんだが。そこまでしてやる義理がオレにあるとでも思ってるのか?」
 アカシの高校の先輩なのはさっき聞いた。
 strkyについても大学一年生のメンバーで構成されていたという知識はあったからマユズミと同級生でもおかしくない。
 しかし、マユズミの死んだ魚のような目は感情を感じさせない。
 strkyの件で内心愉快ではないかもしれないが、だからといってオレに意趣返しをするような性格には見えなかった。
「Strkyと同級生?じゃあお前、大学生か。義理がないならビジネスと思えばどうだ?通訳兼ナビゲーターのガイド役。お前の英語力なら余裕だろ」
 マユズミが着ている服も履いている靴も量販店で売っていそうな安物だ。
 金を持っていそうには見えないから金で釣るのが一番簡単だと思ったら案の定、釣れた。
 仕事と思えば割り切れるドライさがあるという見立ては間違っていなかったらしい。
「strkyで五番だった樋口と元クラスメートで同じ高校を卒業したが、まだ大学には入ってない。英語は通訳になれるほど得意って訳ではないが、秋葉原ならオレも行くつもりだったからついでに案内してやってもいい。それとも太平洋横断の参考に船の科学館見学でも行くか?」
 マユズミは無表情ながら口角をつり上げ、本人は一応笑ったつもりのようだ。 
 strkyの五番か...。
 五番はたしかstrkyの中で最も小柄な黒髪の奴だったか。
 高さのある六番八番と、素早さのある七番、人の心を読んでいるかのような動きをする四番に比べ、目立った特長がなく、5フィート6インチ程度と身長が低い五番は穴だったという印象しかない。
 まだ大学には入ってないという言い方だと入る意思はあるのに行けなかったように聞こえるな。
 働いてるジャパニーズビジネスマンには見えねえし、金を持ってなさそうに見えたオレの観察眼は正しかったようだ。
 さらっと太平洋横断とか言いやがったのは、オッサンのイカダで帰れ発言を知っているからこそだろう。
「船の科学館?行かねえよ。......なんか面白いもんがあるなら別だが」
「船の科学館には昔、飛行艇の最高傑作といわれる、世界に現存する唯一の二式大艇があったんだが、鹿屋に移管になったからもうないんだよな......。南極観測船の宗谷とかは今でもあるけど」
 カノヤってどこだよ、自分の知っていることは全て常識だと思うなよ。
 ちょっと話しただけでも分かるほどこだわりが強い凝り性な性格と感じる。
 こだわりの強い奴が勧めるのは珍しい場所だろうし、こいつに任せればオレには思いもよらないような面白いものが見られそうな気がする。 
「秋葉原の電気街ならオレも聞いたことがある、秋葉原に案内しろ。なあ、お前もバスケやってんだろ、strkyには誘われなかったのか?」
 strkyの五番の技術は日本人のサルとしてはそれなりだったが身長が低すぎる上に身体能力も高くなかった。
 アカシがわざわざチケットを送ってまで観戦してもらうことを望み、後ろ姿をじっと見送るほど執着している選手のレベルが低いとは考えにくいから、五番の代わりにマユズミを入れた方が戦力は上がったはずだ。少なくともマユズミの方が身長は高い。ストバスの出場者資格に大学生であるかは関係ないのでその辺りが腑に落ちない。 
 オレが横に並んで話しかけるとマユズミは舌打ちした。
「......なんでオレがバスケやってると思ったんだ?もうずいぶんやってないんだけど」
「やめたのか?...アカシにストバスに誘われてただろ。てっきり現役だと思ったんだが」
 気が向いたらやるという返事だったからやめたとは意外だった。
 それにあいつは勝ち目のない戦いはしなさそうに見える。呼べば来てくれると思ったからこそ誘ったんだろう。
 マユズミは灰色の光のない目でオレをじっと見つめた。
「ストバスに誘われてたのが分かるってことはお前日本語出来るんだよな。通訳なんかいらないんじゃねえの」
 こいつは頭がよさそうだ。
 日本語が分からない設定に騙されるほどおめでたい脳みそしてないようだからプランBでいくか。
「オレは喋れないから通訳しろなんて一言も言ってねえ。日本語が話せると分かったら喋りたくもない他人に話しかけられてウザいだろ。喋れないフリをするには通訳が必要で、それをお前にやらせたい。理解したか?」
「...そういうことか。それならまあ分かる。オレも知らない奴と話すのは苦手なんだ」
 こいつの場合、影が薄いから知らない人間に話しかけられる機会そのものが少なさそうではある。 
「オレと話すのも苦手って言いたいのか?」 
「そうは言ってない。こっちが一方的に見て知ってただけだが、お前は知らない奴じゃないからこうして喋ってる」
 知らない奴じゃない。
 そう言われて悪い気はしないが、試合を一回見たくらいで知ってる奴認定するのもどうかと思う。
 そのわりに自分が試合で対戦したキセキとか言われてる奴らのことはほとんど知らない、個人的に喋ったことがないと言い切っていたな。
 そこらへん矛盾している気もするが....。
「一試合、それも途中から見た程度でオレのなにが分かるってんだ?」
 マユズミは唇の端をつりあげた。
「見たのは今日の試合だけじゃない。お前のインスタもチェックしたぜ。ボクシングが得意、あとマリンスポーツが好きなんだっけ?」
 こいつ、試合でやりあう訳でもないのにそこまでオレを気にしてたのか。
 ちょっと気分がいいな。
「...ああ、お前はなにが得意なんだ?」
 英会話だって達者なくせに本人は得意ではないと言い切っているから、こいつが自信を持って得意と表現するものは相当レベルが高いはずだ。
「オレか?特技はオーバークロックだ」 
 オーバークロック。
 全く畑違いの単語を聞かされ、オレは面食らった。
 オーバークロックとは、自己責任でパソコンをいじって処理速度を上げることらしい。
「......ああ、それで秋葉原なのか」
 電気店街で有名な秋葉原ならほしいパーツを探すのにもってこいなのだろう。
 秋葉原へ向かう途中、電車の中でいろいろと話を聞いた。
 マユズミは京都に所在する進学校・洛山高校の卒業生だそうだ。ためしにスマホで検索をかけてみると卒業生の進路は京都大学、東京大学が多いようだ。京都大学と言えばノーベル賞受賞者が何人も出ている日本じゃ有名な大学のはず。
 こいつが頭よさそうだという印象は間違ってなさそうだな。
 しかし......京都?
「京都って関西国際空港の近くだろ。そのわりにはずいぶん東京に慣れてそうだな、こっちに住んでるのか」  
 東京→京都間の距離が約320マイルとしてサンフランシスコとロサンゼルスくらい離れてるんじゃないのか?
 それにしては明らかに東京に慣れているように見える。
 関西人はstrkyの四番のように標準語と違う言葉を話すもんだと思っていたが、言葉も標準語だし、 知らない街にいるようにはとても見えないのでそのあたりを聞いてみるとマユズミは言った。  
「東京には昔住んでた。京都から関空まで75分から90分かかるからそんなに近くはないぞ。電車に乗ってふらっと知らない駅で降りて歩くのが好きだからあちこち行ってるけど」
 もともと東京に住んでいたから標準語なのか。
 特技がオーバークロックだというから家にこもってパソコンいじりばかりしているのかと思えば、意外に行動的なようだ。
 マユズミに連れられて行ったパーツ街で機材を見ながらオーバークロックのマニアックな話を聞いたり、神田天神とかいう名所を冷やかしたり、アニメ用品専門店をぶらついたりしているうちに、試合に負けてささくれだっていた気持ちがだいぶ落ち着いてきた気がする。
「何見てんだ?」
 アニメ専門店にて、マユズミはピンク髪の少女が表紙に描かれている本を手に取っていた。
「ラノベ...ライトノベルだ。お前も見るか?オレは基本的に特定の作家を追いかけることはしないんだが、このシリーズは結構気に入ってる」
 ライトノベルというのは和製英語なのだが英語が達者に見えたマユズミは和製英語とは気づいてない様子でそのまま言った。
 時計仕掛けの林檎と蜂蜜と妹。というタイトルはA CLOCKWORK ORANGEのパロディ小説をイメージさせる。ビニールの袋に入っていて中は読めないが裏表紙の粗筋をチラ見した後、平積みの本の中から同じタイトルの三巻を発見したオレは心底げんなりした。
「...アカシみたいな女と水色のチビザルみたいな女が出てくるヤングアダルトか。悪趣味だな」
 一巻と二巻はピンク髪の少女が表紙だが、三巻にはよりによって今日オレが出し抜かれた二人そっくりの少女達が描かれている。
「かわいいうさ耳妹キャラの輝夜を旧型君と一緒にすんな。サーシャは...赤毛だし、オッドアイだし、言われてみればまあ似てるところもあるが、赤司そっくりとか言うなよ、萎えるだろ」
 もう一度赤毛の少女を見直したが、サーシャとやらは何度見てもアカシが性転換したようににしか見えない。ウサギの耳がついた少女も、色素の薄い髪、大きな瞳はマユズミが言うところの旧型君にしか見えない。髪の色だけならマユズミの方が似ているのだが、マユズミの目はもっと死んでいてこんなに大きくないからやはりカグヤはマユズミには似ていない。 
「...オレも最後の最後に黒子にマークついてたのに出し抜かれて負けて、しばらくの間は水色髪のキャラが黒子に見えてムカついたから気持ちは分かるけどな。気分転換にメイド喫茶でも行くか?」
 素っ気ない口調が多いマユズミにしては、珍しく当たりが少しやわらかい。
 こいつ、まさか気を使ってるのか。
 こいつの同級生や後輩の敵だったオレに?
 メイドなんか実家に帰れば普通にいるんだが、日本のメイド喫茶は有名だ。
 話のタネに一度見ておくのは悪くない。
「そうだな、行ってもいい。......お前、秋葉原に来るたびにメイド喫茶行ってんのか」
 マユズミは地味な顔立ちで目立ちはしないが、造作が整っていてルックスは悪くない。明るく振る舞えばそこそこモテるだろうに、特技がオーバークロックで読む本もジャパニーズオタク趣味全開のヤングアダルトでは女に好まれる要素は皆無だろう。スポーツも英語も出来て頭がいいのに残念な奴だ。
「一人で店に行くと店員に気づかれないし、入店しても忘れられるから行けないんだよ。呼び鈴を鳴らしても誰もいないのに呼び鈴が鳴ってる、故障したと思われてスルーされるからな。影が薄いオレにメイド喫茶なんか敷居が高すぎて行ける訳ねえだろ」
 マユズミは影が薄いことの弊害を切々と語った。
 列に並んでいると必ず横入りされ、苦情を言うといつからいた?と毎回驚かれる。
 青信号で横断歩道を歩行中も信号無視の車が平気で突っ込んで来る。
 写真はいつも見切れるか背後霊のようにしか写してもらえずまともに撮ってもらえたためしがない。
 などなどオレには理解不能な体験をしてきているらしい。
「そういう訳で実際に入ったことはないが、ネットで研究したから評判の店はいくつか知ってる。今年オープンしたばかりの、スタッフを外国人で固めたメイド喫茶。英語や中国語にも対応しててメイド服の試着も出来るメイド喫茶。戦国気分が味わえるメイド喫茶もあるらしい。どれにする?」
 何故その三つの店をピックアップしたのか問い詰めたいくらい色物しかないチョイスにオレは頭痛を覚えた。
 やっぱりこいつ変わってる。
 一見普通に見えて全然普通じゃない。
「戦国時代にメイドはいねえだろ、時代考証を無視すんな。外国人メイドに茶を入れさせたければ実家に帰れば本物がいるから外国人メイドもいらねえ。メイド服の試着っつーのは当然女の客だけだよな?」
 ツッコミどころしかない。
 普通の店はリサーチしてねえのかよ。
「メンズ用のサイズも各種取り揃えていて試着可能って書いてあったから男も着れるみたいだぞ。お前なら絶対綺麗だろうな」
 “旧型君”似のうさ耳キャラをかわいいと評するような奴だけあってマユズミの感性はかなりいかれているらしい。 
「......眼科に行け。身長6フィート3インチの男のメイド服が綺麗とかあり得ねえよ」
 柄にもなく親切に忠告してやり、マユズミお薦めのメイド服の試着が出来るメイド喫茶に一緒に行ってやったのは、影が薄いこいつが哀れに思えたせいもあるし、この男のメイド服姿を見て嘲笑ってやりたくなったせいでもある。
 どうせオレの着れるサイズは扱ってないだろうと予想していたが、その読みは日本人の凄まじい商売根性によって覆された。
「なん......だと......」
 服のサイズがLLのマユズミはいざ知らず、オレのまであるとは想定外で、マユズミだけメイド服を着させて笑ってやろうというオレの作戦は水泡に帰した。
 マユズミは黒っぽい目立たない色のメイド服を確保したが、オレには不思議の国のアリス風の白いメイド服しか合うサイズがなく、白と黒のコンビみたいになっている。友達ですらない赤の他人なのに腑に落ちない。
「思ってた通り似合ってるな。クオリティ高え、ハイスペックだなお前」
 そう言うマユズミは、日本人にしてはでかい6フィートの大男のくせにメイド姿が普通に似合っている。
 何をさせてもそこそこ高水準に出来て目立たないのがこいつの特性なのかもしれない。
 笑い者になるどころかただの美人なメイドでしかねえぞ、こいつ。
 表情筋が仕事しないせいでレイプ目なところが、セクハラされて疲れきってるメイドのようにも見えてセクシーさがヤバイ。
「ハイスペックはお前の方だろ......」
 店の女の子にキャーキャー言われながら記念写真を撮影されてる間も、メイド達はオレにばかり寄ってきて、一緒にいるマユズミは誰からも認識されている様子はない。
 似合っている度合いも色気も明らかにマユズミの方が上なのに、外国人客で目立つせいなのかオレだけがひたすら注目を浴びまくっているのは納得いかない。
「......なあお前、オムライス食えるか?こういう店の定番メニューらしいから、嫌いじゃなければ注文してみようぜ」
 マユズミは注目されてないせいか余裕でメニュー表を眺めながら言った。 
「...オムライス?オムレツにライスか。ここにはシーフードピザはないのか」
 マユズミが指差したメニュー表の写真を見るとオムレツにケチャップがかかっている。ライスはどこ行った。
「あいにくシーフードピザはないな。オムライスはチキンライスをオムレツでくるんだものだ。その卵の表面においしくなる呪文と称して客とメイドが一緒になんらかのパフォーマンスをしながらケチャップかけるのがメイド喫茶の作法らしい」
 卵にケチャップをかければ美味くなるに決まっている。パフォーマンスはいらねえから普通に食わせてくれ、と言いたいがダメだろうな。
「パフォーマンスならお前がやれ。オレが撮ってやる」
 スマホで撮影しようとしたが、店が写真を売る都合上、料理以外は撮影禁止とのことで撮れなかった。自分のスマホだと焼き増しし放題になってしまうからだろう。納得するかどうかは別として意図は分かる。
 店員が撮った写真にはオレはクリアに写っていたが、マユズミのメイド姿はどういう訳か灰色の髪の人間らしきものが写っていることしか判別出来ないくらいぼんやりとしか写っていない。
「ほらな。いつも心霊写真みたいになるんだよ。洛山のレギュラーが紹介された時もオレだけこんな感じ(黛初登場の175Q参照)だったんだよな......」
 マユズミが遠い目をして言った。
 美人メイドがどうしてゴーストそっくりに写るんだ。これで金取るのは不当請求だろ。
 日本語でなんと言うのか知らないが英語ではこういう時、
“That’s a rip-off!”と言う。
 こんな美人(美人なのは見かけだけで中身は美少女系ヤングアダルト小説とパソコンいじりを愛する男のオタクだとしても)の写真を持って帰れないのはもったいなさすぎんだろ。
「おい、こんな記念写真で金を取っていいと思っているのか?オレが撮影するからカメラを貸せ」
 オレが英語の分かる店員(バッジをつけている)をつかまえてマユズミの顔が判別出来ないひどい写真を見せて凄むと、店員は困り顔で撮り直しさせてもらうと言い出した。
 しばらく黙って見ていたが、マユズミは無意識か意図的か、カメラを向ける店員がシャッターを押す瞬間にミスディレクションをかまして微妙に動いている。ピントが合わないのはこのためだ。
「オレにそのカメラを貸すか、オレのスマホで撮影するのを許可するかどっちか選べ。お前らじゃ無理だ」 
 オレのべリアルアイやアカシの眼ならミスディレクションに対応出来るが、素人にはまず無理だろう。ボケボケにボケた画像を量産した後、とうとう根負けした店員達はメイドを被写体に入れないことを条件に特別に店内のスマホでの撮影を許可した。
 オレが撮りたいのはマユズミのメイド姿の写真なので、本職のメイドはまったくもってどうでもいい。
「......?!お前、撮りすぎだろ......」
 マユズミのメイド服姿を堂々と撮りまくるとマユズミは死んだ目で苦情を言った。
「それにそろそろホテルに帰った方がいいんじゃねえか?アキバは夜は治安悪いっていうから遅い時間にぶらつくのはお勧めしないぜ」    
「治安悪いってどの程度だ?日本じゃせいぜい拳銃程度で、ショットガンやマシンガンで武装してる奴はいないと聞いたが」
 マユズミは苦笑した。
「さすがにマシンガンはねえだろうけど、日本語でいうカツアゲ......路上強盗みたいなのが出るらしい。管轄の警察署のホームページで注意喚起しているくらいだから気をつけた方がいい。お前は腕に自信あるんだろうけど、応戦して過剰防衛とかで警察に取り調べ受けたり、異国で留置場に入るのはキツイだろ。全方面にケンカ売ってくスタイルはどうかと思うぞ」
 路上強盗ねえ。
 平和と言われてる日本の観光地でもそんなん出るんだな。 
 強盗ごときに負ける気はしないが、手加減出来る自信は確かにない。
 マユズミの忠告に従っておとなしく店を出ることにし、着替えと会計をしてメイド喫茶から退店する。
「秋葉原駅までくらいなら送っていってもいいが、どうする?」
 マユズミに聞かれ、オレは少し考えた。
 こいつと他愛ない話したりバカなことして遊んでいるうちにいつの間にかイライラは収まっていた。
 今なら冷静に話も出来るだろう。
「オレは他にも行くところがあるから駅まででいい。そういやガイド料いくらにするとか決めてなかったな。これでいいか?」
 成田空港で換金した一万円札を出すと、マユズミの顔がひきつった。
「いらねえよ、アキバ来るついでだったからそんな大金もらうほど世話してねえし。メイド喫茶の代金もお前が全額払ってくれたし、それでじゅうぶんだ」
 結局マユズミは秋葉原駅に着くと、一円も受け取らずに去っていった。
 欲がない奴だ、と思う。
 さてと。
 オレは嫌々ながら世話人のオッサンの携帯に電話した。
 こっちが負けた以上、落とし前つけなきゃならないことは分かっている。
 店内ではずっと機内モードにしていたが、通常のモードに切り替えた途端にメールや着信が大量に来ていたことが分かったが、見なかったことにすると、ややあってオッサンが電話に出た。 
「もしもし。お前のチームメイトが心配して探してたぞ。今どこにいるんだ?」
「どこだっていいだろ、それより」
 余計なおせっかいを拒否して話を続けようとしたオレの耳に、電話の向こうで誰かが話している声が聞こえた。
『みんな、オレ急なんだけどアメリカに行くことになった』 
 ......?
 この声には聞き覚えがある。
 つい今さっきのことだからユニフォーム姿を余裕で思い出せる。この声はVORPALSWORDSの10番、最後にダンクを叩き込みやがった赤い髪のサルじゃないのか。
「......10番がアメリカに来るって聞こえたが」
「耳いいな!そうだ、火神にはロサンゼルスの高校から誘いが来てると聞いた」
 大人のオッサンにだけ先に話しておいたのか。普通に肯定され、オレは憮然とした。
 オレの住居もロサンゼルスにある。 
 自分を負かした連中の一人が自分のテリトリーに来ると聞いて愉快に思うはずがない。
「......こっちに来るってんなら次こそ必ずブッ潰してやる。とはいえ、今回はオレ達の負けだ。何すれば気がすむ?」
 このオッサン、前にイカダで帰れとか言っていたが、あれは本気だろうか。
 マリンスポーツが好きだから知識としてだけ知っていることだが、太平洋横断距離はおよそ6000マイル。ヨットでも1か月か1か月半はかかると言われている。
 イカダと一言で言っても、有名なコンティキ号(乗員6名、長さ50フィート=約15メートル、幅20フィート=約6メートル)とか、80代男性が大西洋横断のために作ったってニュースで見たイカダとか100日以上航海するのを想定したようなデカイイカダなら食糧その他の積載物も積めるだろうし、交替で眠るのも可能だが、現実問題、それ作って帰るって話だと準備期間がどんだけかかるか見当もつかねえ。
 国が定めた安全基準に適った設備がなければそもそも出港許可だって出ないだろう。
「あんたがイカダで帰れって言ってた件だが......」
 これを言うのは屈辱的だが、イカダに帆を張って太平洋横断するノウハウを持っている者はJabberwockにはいない。
 オレはヨットの操縦ならば出来るし、それで旅をしたこともあるから、せめてヨットでなら帰れないこともなさそうだが、そもそもオレのヨットはアメリカにあるのでおいそれと運んで来られない。 
 かといってもう一艘買うって訳にもいかない。
 というのは暇つぶしに日本でもどっかで日本のヨット借りて乗れないかと調べてみたところ日本国内でヨットを操縦するには日本の船舶免許が必要だそうだからだ(オレが自分のヨットに乗って入港していれば外洋へ出るだけなら日本の免許がなくても出られるようだが、どっちみち税関の手続きやらなんやら面倒くさいらしく、飛行機で来て良かったと思った)
 船舶免許の取得からスタートしないと買っても操縦が出来ないので意味がない。
 どう考えても履行不可能だ、詰んでる。
 賭けに負けたくせに出来ませんとかダサいことを言わなきゃならない屈辱感にオレが言葉を詰まらせるとオッサンが気まずげに言った。
「あれな......。法律的にどうだの、いくら相手が失礼だったと言っても未成年者に大人が売り言葉に買い言葉はどうなんだとか、まあだいぶ炎上してな。負けを認めて詫び入れてくれりゃそれでいいわ」
「......分かった。今この場ででも、オッサンに会って直接でも、記者会見の席設けてでも、こっちはかまわないがどうする?」
 結局、明日記者会見をする方向で調整することになった。
 カガミの送別を兼ねてキセキ対セイリンが最後の試合をするとかでオッサンは忙しいらしく、電話はすぐ終わった。
 オレには他にもまだ電話しなきゃならないところがあるが、東京とロサンゼルスの時差は16時間だから夜中に電話しないと無理か。




***



 
 翌日。
 約束通り謝罪記者会見を終え、ロサンゼルス行きの飛行機の搭乗口にやって来たオレは意外な人物と鉢合わせして思わず叫んだ。
「てめえ、なんでここにいる?!」
「ナッシュ、誰に喋って...は?てめえ、いつからいた?」 
 突然叫んだオレに怪訝そうな顔をしたザックがオレの視線の先に目をやるやいなや、奴も驚いたらしく声をひっくり返らせた。
「搭乗開始になったから今来たんだが、なにか問題あるか?」
 貸し切りじゃない以上、チケット持ってる他の客が旅客機に乗るのは普通だが、ザックが言ってるのはそういうことじゃない。
「ラウンジでもチェックインカウンターでも見なかったよな...?」
「おいおい、誰かが話しかけるまで見えねえとかボクちゃんそっくりの奴がこんなとこにも湧いたのかよ」
 シルバーは水色髪のチビをボクちゃん呼ばわりした訳だが、それを聞いた日本人の男は盛大に舌打ちした。
「お前が誰のことを連想したかは分かったが、人をゴキブリみたいに言うのはやめろ。こっちこそさっきの言葉そのまま返すぜ。なんでお前らがここにいるんだ?イカダで帰るんじゃなかったのかよ」
 てめえが驚いた理由そっちかよ!
 つーか、一見自己主張しなさそうな目立たない外見のわりに意外と毒舌だな、この男。
 水色髪のチビを旧型君と呼んでいたこいつはどうやらあのチビが嫌いらしく、そっくりと言われたくないようだ。
「んだとてめえ!」
 目の前の影が薄い日本人...マユズミに殴りかかろうとするシルバーに咄嗟に足払いをかけ、尻餅をつかせて頭を押さえつける。
 空港の固い床に尻餅をついたりしたらしばらくケツが痛くて難儀するだろうが、空港警察に逮捕されるよりはましだろう。
「一般人に暴力振るうとかバカか、てめえ。こんなとこで暴行事件なんか起こしたら確実に出国停止食らうぞ、頭冷やせ」
 シルバーはマユズミを憎悪の眼差しで睨みつけているが、マユズミはよほど肝がすわっているのか、自分よりはるかに体格のいいシルバーに睨みつけられても全然動じた様子を見せない。
 本人は怒るかもしれないが、こういう時に怯えを全く見せないところもあのチビと似てる。
 あのチビはちっちゃいからボクちゃん呼ばわりしてバカにしていられたが、マユズミの場合は小さくもねえし、ガキくさくもなくふてぶてしいからシルバーにしてみればよけい苛つくんだろう。
「...イカダで帰れってのは売り言葉に買い言葉だったから負けを認めて詫び入れてくれりゃいいと言われた」
 オレが昨日世話人のオッサンに言われたことをマユズミに答えると、アレンがオレをつついた。
「こいつ、友達なのか?お前に日本人の知り合いがいるなんて知らなかったな」
「知り合いだが、友達ではないな。昨日秋葉原のメイド喫茶には一緒に行ったが」
 メイド服を着て媚びへつらっている店員と一緒に撮った記念写真をポケットから出して見せるとチームメイト全員、シルバーさえもが爆笑した。
「リーダーを、メイド喫茶に...、勇者だな、お前」
 マユズミがうちの大男どもに取り囲まれて質問責めにあっている。
 大男に囲まれると身長6フィートのマユズミが相対的に小さく見える。
「後にしろ、そろそろ搭乗しねえとヤバいだろ」
 マユズミにうんざりしたように言われ、しぶしぶ飛行機に乗り込んだオレ達だったが、リザーブした席はかなり近かった。
 オレはデカイのが隣で視覚的に圧迫感を受けたくなかったのでチームで一番小柄なニックと並ぶ座席配置だったが、マユズミのチケットがさっき揉めたばかりのシルバーの隣だったため、トラブル防止を口実に席を交換させた。ラッキーだった。


「...お前がビジネスクラスに乗れるほど金持ってたとは知らなかったぜ。それともオーバーブッキングかなんかでアップグレードしてもらったのか」
 こいつは金がありそうには見えない。なんらかの理由でアップグレードの対象になったと見るのが自然だ。
 オレが仕切りのパーテーションを開放して値踏みするように影の薄い隣の男を凝視すると、マユズミはチッと舌打ちした。
「オレに金はないし、アップグレードでもないんだが、話せば長くなる。オレは本来昨日の昼出国するはずだった。オレはしがない庶民だから、取ってた航空券はキャンセルや変更がきかない格安のタイプだ。なのに、先週赤司がJabberwockと試合をするので見に来て下さいってメールしてきたから、前々からロスに行くことになってたから急に言われても無理だと返信した。すると赤司は、代わりの航空券はこちらで用意しますから出発を一日遅らせて下さいって観戦チケットとフライトの便番号や予約番号とか出力した紙を送ってきた。ビジネスクラスなのは渡米を遅らせた迷惑料だとさ。オレが分不相応な高い席に座ってるのはそういう事情のせいだ」
 観戦チケットだけでなく飛行機のチケットまで送りつけられたらそりゃ観戦に来るだろうし、よほどの礼儀知らずでなければ挨拶にも来るよなあ。
 常識的に考えても、観戦に来たただの一般客が関係者以外立ち入り禁止の選手控え室の前に顔を出せるはずがない。
 マユズミが影の薄さを利用して忍びこんだ可能性もあるが、あれだけの規模の試合会場の警備が甘いはずはないから、事情を説明して正規の方法で入れてもらったと考える方が普通だろう。
「お前、アカシの何なんだ?ただの先輩にそこまでする奴がいるか?」
 高校の先輩に飛行機のチケット代ポンと払ってやるとかどんだけ金持ちだよ。
 それとも、ただの先輩後輩以外に何かあるのか?
 マユズミはやれやれと言うように肩をすくめた。
「本当にただの先輩だ。と言っても、出会いが特殊だったから、普通の先輩とは言いがたいが」
「特殊な出会いってなんだよ」
 オレが突っ込むと彼はアカシとの出会いについて語った。

 元々洛山高校バスケ部に所属していたマユズミは、全国随一の強豪の中では凡庸な選手として一軍入りは叶わず、三年時には才能の限界を感じて退部届を提出し、平凡な毎日を過ごしていた。
 ライトノベルのような非日常に憧れ、日々屋上へ通う反面、それは物語だからいいのだと半ば割り切っていたある日、いつものように屋上でライトノベルを読んでいると、クロコとそっくりなその影の薄さに目をつけたキセキの世代キャプテンで洛山でも一年生でいきなり主将になったアカシに新しい幻の六人目(シックスマン)にならないかと持ちかけられた。
 パス専門のスペシャリストなんてつまらない。そこまでして試合に出たいとも思わない、自分が気持ちよくなければバスケなんてやる意味はないと一度は断った黛だったが、退部取消しと必要な技能の伝授と一軍への推薦をするのでバスケ部に戻ってほしいというアカシの依頼を受け入れた彼は受験準備とバスケ部の猛練習を両立させ、晴れて一軍に昇格。
 インターハイ優勝した際はミスディレクションを温存して使わなかったが、ウィンターカップ決勝戦ではクロコと同じ視線誘導を駆使する『新型の幻の六人目(シックスマン)』としてスタメンで出場。最後まで交替せず戦い、チームは準優勝した。

 シックスマンなのにスタメンで出てフル出場するって、それただのレギュラーじゃねえのかという気もするが、クロコの存在からヒントを得て育成された新しいシックスマンがレギュラーにふさわしい実力を持つに至ったのでレギュラーに入れたってことなんだろう、使えない奴なら当然すぐ引っ込めるだろうし。

「こういう経緯だから、後輩を指導するとかそういうことをオレは一切やってない。最高学年とはいえレギュラーの中ではオレが一番下手だったからな。オレが教えられることなんかなんもねえし」
 それにしてはアカシはマユズミに明らかに好意を持ってるように見受けられた。
「なんかなつかれるようなことしたんじゃねえか?ただの元先輩にビジネスクラスのチケット代払ってやってまで試合見て欲しいとか普通じゃねえぞ」 
 マユズミは首をかしげた。
「なつくとかねえだろ。決勝戦の最中、オレのことパスを通す道具扱いしたんだぜ、あいつ...黄瀬がガス欠で退場したタイミングで出てきたオッドアイの方の赤司だけど。あいつが崩れた時、オレは、自分の方が下手なくせに無様だなとか貶したし。お前こんなもんじゃねえだろって挑発したらあっさり立ち直って両目が赤い本来の赤司が出てきたけど。本来の赤司とは最後の五分間しか一緒にプレーしてねえし、ウィンターカップが終わったら接点すらほとんどなくて、まともに話したのは引退式サボった日にお疲れ様でしたって言われて、おかげさんで最後の一年は悪くなかったって返事した時ぐらいだから。あいつ、おぼっちゃんだから金銭感覚がおかしいだけじゃね」
 オッドアイのアカシとか両目が赤いアカシとか、なんなんだそれは。
 もう一人のオレとか言ってはいたが、人格で目の色が変わるとかあり得ないだろ、たしかにプレーも変化してたけどよ...。
 ん?
 引退式をサボったら会わないはずだろ?
 なんでサボったはずなのに会って普通に喋ってんだこいつら?
 オレはアカシ個人には単体で負けた訳じゃねえし特に思うところはないが、マユズミを狙っているとしたら話は別だ。
「ツッコミどころが多すぎて追いつかないんだが、引退式をサボったのに会ってる時点でロックオンされてねえか?お前、あいつと本当になんでもないのか」
「本来の赤司の方は道具扱いの件を気にして探してたのかもな。ロックオンとかそういうんじゃないだろ、“リア充”がそういう意味でオレに興味持つ訳ねえし」
 マユズミは全く興味なさそうに言った。
 アカシにとっては不幸なことに、マユズミはアカシのことをただの後輩としか見てないらしい。
 オレにとってはその方が好都合だけどな。
「リア充?」
「現実の生活が充実している連中。オレには縁のない人種のことだ」
 アカシは縁を作る気満々だが、マユズミが華麗にフラグをへし折っていると見た。
 マユズミの論法だと縁がないはずのオレだって興味津々なんだが、賢いわりに恋愛には鈍感らしい。 
「自分が気持ちよくなければバスケなんてやる意味はないんじゃなかったのか?道具扱いされたのにどうして最後の一年は悪くなかったとか言えるんだ」
 こいつ、いい奴すぎやしねえ?
 他人を蹴落とすこと、足を引っ張ること、勝つことしか考えないようなオレの周りに今までいた奴らと全然違う。オレとは最も縁遠かった人種だ。
「一度は諦めた好きなバスケを思いきり出来たからに決まってるだろ。まあ、公開処刑された時は赤司の口車に乗ったことを猛烈に後悔したし、死ね赤司と心の中で何度も呪いはしたが」
 そのくらいは誰だってするだろう。
 むしろ高校最後の公式戦で公開処刑されて心の中で呪いもしないような聖人君子など理解不能すぎてオレには信じられないから、マユズミの反応の方がよっぽど人間らしくて共感出来る。
 オレにはアカシがマユズミになついた理由の見当がついた。
 マユズミが自分で答えを全部言ったからな。
 技術的に指導は出来なくても悪い時は悪いと指摘し、お前はこんなもんじゃないと鼓舞し、その上、道具扱いというひどい仕打ちをされても最後の一年は悪くなかったと総括した、前向きな姿勢には悪い印象を持ちようがない。
 しかも昨日の試合は会場で遠くから見ていただけなのにいつ切り替わったか二重人格の見分けがつくとか有能すぎだろ。
 親切に教えてやる義理はないが。 
 
「ところでお前、何しにロス行くんだ?観光か?」
 海外旅行へ行く奴にはとても見えないマユズミの格好にオレは首をひねった。
 ちょっと近所を散歩するようなラフな服装のマユズミは、どう見ても日本人観光客には見えない。
 日本人観光客は大体いかにも金持ってますと言わんばかりに外出用のオシャレ着でいい格好してデジカメぶら下げてるかスマホでバシャバシャ写真撮りたがるもんだというイメージがあったが、こいつはどこにでもいる金のない学生にしか見えない。うっかり間違って治安の悪い路地に入り込んだとしてもこういう奴は金にならないとみなされて強盗にスルーされるから危ない目には遭いにくいだろう。
「観光じゃない、勉強しに行くんだ。まず八月いっぱいまで現地の語学学校に通うことになってる」
 今更英語の勉強が必要な語学力には見えないが、学生ビザの関係で学校に通うことになっているのならそれなりに真面目に通わないと滞在許可が取消しになるな...。
「現地ってロスのか?どこだ」 
「...ウェストウッドだ」
 ウェストウッド。
 UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)があることで知られ、治安がいい街だ。
 実はオレもそこに住んでいる。
「ふうん。空港からどうやって行く手筈なんだ?」
「...普通にタクシー使う」
 オレは思わず鼻で笑ってしまった。
 店員の目の前にいて写真一枚満足に撮ってもらえないような影薄野郎がタクシー乗り場でタクシーを捕まえられるとは到底思えない。
「ハッ、無理だろ、それ。やめておけ、運転手に気づいてもらえずに時間だけ経つのが目に見えてるぜ」
「...他にどうしろってんだよ。国際免許は日本で一応取ってきたが、教習所の教官を隣に乗せてる時しか路上で走ったことねえし、いきなりレンタカー借りて左ハンドルの車で高速走るのこええんだけど」
 そんな経験値の足りないドライバーを野に放ってハイウェイ走らせるのはオレだってお断りだ。
 オシャカになる車もかわいそうだし、巻き添えで多重追突事故でも起こされたら寝覚めが悪い。
「フライアウェイバスに乗れ、タクシーよりその方が安い。言葉が覚束ないなら別だが、お前の英語力なら居眠りでもしない限り問題ねえだろ」
 始発から終点なら他にも客がいるだろうから気づかれずに乗れないという事態はないはずだ。
 オレ達はチームでスポンサーのところへ顔を出さなきゃならないので一緒に乗せてやる訳にいかないしな。
「お前がそんなに世話好きとは知らなかったが、忠告ありがとな」
 ちょっと微笑んでみせたマユズミの笑顔が眩しすぎてヤバい。こいつ、影が薄いふりして実はイケメンじゃねえかよ・・・・・・・。  
「連絡先教えろよ、バスケのお手並み拝見してやる」 
 同じロス市内、ウェストウッドの学校に通うのなら授業後か休みの日にバスケぐらい出来るはずだ。
 オレが意気揚々とスマホを取り出すとマユズミは死んだ魚のような目で複雑な顔をした。
「.........無理だ。ウィンターカップを最後に実戦からずっと遠ざかってたし、勉強するためにアメリカまではるばる来たのにバスケやってる場合じゃねえ」
 去年の冬からやってないとすればたしかにブランクはある。
 だがこいつは自虐的なところがあって自己評価がかなり辛いタイプだ。実戦から遠ざかってたというのは事実だろうが、逆に言い換えれば実戦以外の練習はなんらかの形でやっていたはずだ。自尊心が高そうなタイプだから全く練習してなければためらいなく無理だと一刀両断するだろうし。
 それをしない、返事をためらった時点でバスケがしたくてなんらかの練習を続けていたことは間違いない。
「そんなやりたそうな顔で無理なんて言ってもムダだ。才能ないと思いながらもやめられなかったぐらいバスケが好きなんだろ?アカシに道具扱いされても最後までコートに立ち続けて最後の一年は悪くなかったと言ったぐらいバスケが好きなんだろ?せっかく本場に来たんだからやりゃあいいじゃねえか。ムダなあがきはよせ」
「...宿題が多いと聞いてるから授業についていけるか心配だが、...黛千尋だ、よろしく」
 マユズミは初めてフルネームを名乗った。
 というか、最初にこいつのファミリーネームを知ったのはアカシが呼んでいるのを聞いただけだからそもそも名乗られてすらいなかった訳だが。
「漢字には意味があると聞いたが、お前の名前はどんな漢字なんだ?」
「黛は漢字では黒の代わりって書くんだが青っぽい黒という意味だ。千尋は千に尋ねる」
 黒子の代わりがもう一人の幻の六人目か。
 なんつう偶然だと思いながら黛が書いて見せてくれた名前を手帳に書き写す。
 漢字は一度見ただけでは忘れそうだったので黛の名前を書いたページに写真を挟んでおく。
「WhatsAppのアカウント持ってるか?なかったら作れ」
「オレその手の電話番号握られる系のアプリ嫌いんだよ。日本で流行ってるlineもやらなかったしな。Kik Messagerならかまわないが」 
 お前には電話番号を教えたくないと面と向かって言われてオレは怒りにこめかみをひきつらせた。
「...オレのスマホにお前のメイド服姿が入ってんのを忘れたのか?あいつらの監督だったオッサン経由でアカシに転送させることも出来るんだぜ。さっさと言った方が身のためだぞ」
 世話人のオッサンのアドレスはまだ消してない。あのオッサンならVORPALSWORDSのキャプテンだったアカシの連絡先くらい知っているだろう。
「ふざけんな、ンなことしたらお前のメイド姿も全世界につぶやいてやるから覚悟しとけよ?」
 マユズミは不穏なことを言いながらもKik Messagerのアカウントとフリーメールアドレスをサラサラとメモして寄越した。
「電話はロスに着いたら契約しようと思ってたからまだない。とりあえずこれで勘弁しろ」
「日本で使ってた携帯は向こうでは使わないのか?」
「契約の二年縛りがちょうど終わる時だったからな。今やめれば違約金がかからないからやめた」
 才能の限界を感じてバスケ部を一度やめたという話を聞いた時もそう感じたが、こいつは切り捨てるのが早い。
 自分の帰属する集団への帰属意識がひどく希薄なタイプだ。
 日本で使っていた携帯は解約し、LINEもやってなかったという黛は日本のしがらみから解放されたように見える。
「一週間以内に電話を契約してオレに教えろ。さもないとお前のメイド姿をアカシの携帯に送りつけるぜ」
 オレが自分も携帯の番号やらフリーメールのアドレスやら渡して念を押すと、黛はそれはそれは嫌そうな顔をして言った。
「お前に教えるのはいいが日本の奴らに情報漏洩すんなよ。時差の壁を乗り越えてまであいつらに付き合うのはごめんだ」
 あいつらと呼ぶ相手はアカシ、ヒグチ、他の誰が該当するのかは知らないが、黛の新しい携帯にこれからオレの名前が入ると思うと気分がいい。
「お前の心がけ次第だな」
 
 この後は黛と、奴が好きなラノベの話など楽しくくだらない話だけして過ごした。
 ちょっと事情があってJabberwockの連中と気まずかったから助かった。
 フライト中、七時間くらい寝て起きたら黛と手をつないでいたので飛び上がるほど驚いたりハプニングはあったがどうやら空港に到着すると、フライアウェイバスに乗って去った黛と別行動したオレ達Jabberwockはスポンサーのところに顔を出した。
 オレ達の平均年齢は18歳、つまり九月から大学生になる奴が大半なのだが全米大学体育協会(NCAA)でプレーできるのは総額1万ドル以下の賞金しか受け取ってないアマチュアのみとされる。
 つまりプロはNCAAの試合に出られない。
 今まではそれでもいいと思ってストバスに転進してやってきたが、日本のサルどもに負けて気が変わった。カガミはNBAを目指してアメリカの高校に転校してくるそうだが、高卒で即NBA入りすることは考えにくいからNCAAを経由するはずだ。きっちり返り討ちにしてやりたい。
 オレは結構稼いだから厳しいかとも思ったが大会参戦に必要な経費は受け取った賞金から払っていいそうなので、往復の飛行機代やホテル宿泊費などを払った残りを計算すると実はほとんど儲かってはいなかった。スイートルームの部屋を取ったりだいぶ散財もしてたしな。
 そこで賞金の件がクリア出来そうなのでJabberwockをやめてNCAAでプレー出来ないか、入学予定の大学に東京時間の夜中、ロスでは朝になるのを待って電話で相談したら契約の問題さえ解決し、アマチュアになるなら大学側は歓迎する旨の回答を得た。

 あとはスポンサーがなんと言うかにかかっていたが、これが拍子抜けするくらいあっさりやめられた。
 先方はオレの進学先がカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)と聞いた時から、大学でバスケをやりたいと言い出すに違いないと確信していたらしい。
 別にバスケが強いからという理由で大学を選んだ訳じゃないが、強豪でプレーできるならそれに越したことはないし、UCLAの男子バスケは全国的強豪だからオレを飽きさせない奴がきっといるだろう。

 そういう訳でオレの脱退はすんなり承認された。新しいリーダーにはシルバーがなるらしい。実力的には順当な人選だろう。スポンサーのところでチームが現地解散した後でオレが向かったのは日本滞在中に電話で話したUCLA男子バスケ部コーチのオフィスだった。
 大学に顔を出し、入学後はいつでもチームに合流可能になったことを報告しようと思い、バスに乗るため停留所に向かうと一本前のバスが停留所を通過していくのが遠くに見えた。ついてねえ、今行ったばっかりかよとうんざりしながら近づくと、一本前のバスの運転手に気づかれず止まってもらえなかったらしい、どこかで見たような灰色の頭の奴が立っているのが見えた。
「Hey!」
 後ろから呼び掛けると灰色の髪の影が薄い男、つまり黛は振り返り、顔をしかめた。
「お前、まさかここの大学じゃねえだろうな?つーか、インスタグラムにもそんなこと一言も書いてなかったよな」
 半信半疑の様子で聞かれ、オレは答えた。
「九月から大学生だ。入学したら写真アップしようと思ってたからネットにはまだ載せてない。ところでお前、丘の上に住むのか」
 UCLAの寮は丘の上にあるので、丘の上に住む=寮に住むってことだ。現地民はわざわざUCLAの寮に住むのかなんて説明的な聞き方はしない。
 形式上聞いたが、アメリカに着いた初日に、住む以外の理由でこんなとこ来ねえだろうな。
 語学学校に通うと聞いていたが、夏期休暇中、大学の寮に滞在して英語を学ぶプランもあるらしいから黛もその口かもしれない。
「...まあな。オレも九月からここの大学だから、キャンパスかどっかで姿を見かけることがあるかもな。でもここすげえ広いしそんなことはあり得ねえか」
 黛が大学生ではないと日本で言っていた理由がやっと分かった。九月から大学生になるので今はまだ大学生になってないという意味だったのだ。
 日本人の黛と同じ大学とは信じられない偶然だが、UCLAは外国人留学生にも人気のある大学なので志望してもおかしくはない。
 成績がよくなきゃ入れない難関大学の一つなので黛の頭がよさそうだというオレの考えも間違っていなかったようだ。
「お前も?じゃあコーチに入部の話をしに行くからお前も来い。今までの実績をコーチの前でプレゼンしろ」
 語学学校に通うとか言うからてっきり語学留学でどっかの英語スクールに通ってすぐ日本に帰るのを勝手に想像していたが、ここの学生になるというのなら話は別だ。
 こいつと一緒にバスケ出来るかもしれない。
「ハア?オレ、実績なんて高三の一年間しかねえぞ」
 そう言えば、アカシに一軍にスカウトされる前は平凡だったと言ってたか。
 とはいえ、高三だけでもインターハイ優勝、ウィンターカップ準優勝チームのレギュラーで決勝戦ではフル出場したのなら実績としては立派なもんだろう。
「じゅうぶんだ。お前、高校ではカガミのいる高校に負けたんだろ?カガミはNBA目指してこっちの高校に転校すると聞いた。NBAに入る前に大学バスケを経由するはずだし、うち(UCLA)のバスケ部に入って一緒にアイツ叩き潰してやろうぜ。オレならベリアルアイでお前の特性をうまく生かしてやれる」
 世話人のオッサンにいいタイミングで電話したおかげで黛をバスケに誘う口実が出来た。
 黛が言う通り、UCLAの敷地はくそ広い。
 学部が違えば、同じバスケ部にでも入らない限りそうそう会えないだろう。
 普通に過ごしてたら会えないなら会える理由を作っちまえばいい。
 理由を作ってでも会いたいと思ったのはどうしてかこいつが初めてだ。
「そりゃ、火神にリベンジするのはちょっと魅力的だが、本場の名門バスケ部でプレーできるほどのポテンシャルはオレにはねえよ。それにオレ、高三の時のポジションはパワーフォワードってことになってるけど、それはレギュラー枠が四つ埋まった後に残った枠がパワーフォワードだったからコンバートさせられただけで、オレは本来シューティングガードだから。でかい選手がわんさかいるアメリカでパワーフォワードなんかやらせたら、ミスマッチで悲惨なことになるぞ」 
 黛をここでパワーフォワードとしてプレーさせるのはどう考えても無理だろう。日本の高校バスケではまだなんとかなったかもしれないが、黛の体格でインサイドでやりあうのはこっちじゃ無謀でしかない。
 だがシューティングガードなら、パワーフォワードよりはいくらか希望が見えそうだ。
 クロコと同じ奇襲型の選手ならポジションはそれほど意味がないとはいえ、コーチに紹介するにも、いかにも弱そうなパワーフォワードを一人入部させてくれというよりは、日本の高校バスケで優勝経験のある強豪チームでレギュラーだった男が入部したいと言っている。日本ではパワーフォワードだったが、本人はシューティングガードを希望している。と説明する方がまともに取り合ってもらいやすいはずだ。
「安心しろ、誰もこっちでパワーフォワードをやれとは言ってねえよ」
 次のバスが来るまでせっせとインターネットで情報収集する。
 影が薄いだけあって全国優勝したチームのレギュラーだったくせに黛の顔はほとんど画像が出て来ないが、ウィンターカップ決勝戦でシュートを決めた場面は何故か珍しくピントが合った状態で撮影されていたからこれなら同一人物と分かるはずだ。
 一度は挫折してバスケエリートの道から逸れたオレだったが、こいつと一緒に頂点まで駆けあがって行ってやる。
 そう決意してコーチのオフィスがあるという体育館方面行きのバスにオレは黛とともに(というか黛の腕を引っ張って)乗り込むのだった。
  




「新型の六人目と魔術師」シリーズ

新型の幻の六人目と魔術師が出会って距離を縮める話













後書きという名の裏話

 東京体育館なら千駄ヶ谷ですけど、ラストゲームの話の会場の最寄り駅は描写されましたっけ?
 覚えていないので秋葉原までどうやって移動したかがとてもふんわりしてます。
 千駄ヶ谷から秋葉原なら総武線で一本(七駅)だから黛さんなら絶対電車使って行ってくれそう。
 船の科学館ネタを書いてから、二式大艇がいつ移管されたか確認したら2004年だったことを知って、やっちゃったって感じでしたが、作中時間が2017年とは言ってないからセーフですかね。18歳の黛さんが船の科学館にあった二式大艇を知っていたらおかしいかなあ、でも活躍していた当時世界最高の性能だった機種で唯一現存している機体に物理好きでオタク傾向の男の子が興味ないはずないだろうということであえてけずりませんでした。
 
 ナッシュはお金持ちなイメージがあるので総武線とか黛さんに連れられてでもなければ絶対乗らなさそう。
 ヨットを所有しているのも分かりやすくお金持ちなイメージとマリンスポーツ好き設定からありかなと。

 ナッシュの出身地が分からないので勝手にロサンゼルスにしてしまいました。
 黛さんの進学先をカリフォルニア大学ロサンゼルス校にしたのは、日本人の著名人も多数卒業している有名な大学であること、バスケが強い大学であること、赤司くんのNBAコラボのチームがロサンゼルス・レイカーズだったのでロサンゼルスに行く黛さんを書いてみたくなったからです。

 ロスには行ったことがないため捏造100パーセントですが、直行便の出る時間を調べたり、航空各社の料金表を眺めたりするのは楽しかったです。

 アメリカの大学入試って9月入学でも願書受付締切は元旦とか早いのでウィンターカップに出ていた黛さんは絶対大変だっただろうけど、前もって準備してあれば不可能な日程ではないと思い、アメリカへ行かせちゃいました。
 進学先が不明な黛さんだからこそ出来る妄想です。
 高校の成績がオール5で、スポーツで全国大会出場していてTOEFLも優秀ならUCLA一発合格も可能かなあ。ハイスペックにしすぎかもしれないけど、赤司くんに賢いと言われたくらいだから目立たないけど黛さんは実はハイスペックだといいなあと夢をふくらませてみました。

 ストバスで世界的に有名なナッシュが大学バスケを出来るかどうかは作中でも書いたけど賞金次第ですかね。
 有名なのに賞金1万ドル以下というのが設定的に一番無理があるとは自分でも思いますが、行きの飛行機はファーストクラス、ホテルはスイートルームに泊まってたとかで必要経費が多かったことにすればなんとか......、なんとかならない場合はNCAAの基準がこの世界では変わったことにします。じゃないと話が成立しないので。
 個人的には、バスケエリートだった(と推測されてる)ナッシュがストバスに逃げたみたいになっていて、そこで安住するのはキャラに合ってないかなと思います。
 火神くんや黒子くんと戦って影響を受けた人は多いし、ナッシュもあの試合で敗北したのをきっかけにNCAAとかNBAとかもっとすごい舞台で活躍してくれたらいいなあ。
 黛さんもバスケは続けるつもりみたいだったのでNCAAの強豪、UCLAでしれっと幻の六人目になってほしい。影が薄すぎて日本人がNCAA出場してても全然ニュースにならないとかも黛さんらしくてありですよね。
 我ながら突っ込みどころが多い穴だらけな設定を強引に書いたので、ここが法的に・制度的におかしいけどこうすればOKとかお知恵を貸して下さる心優しい方がいらしたら泣いて喜びます。
 ここまでお読み下さりありがとうございました。

[次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!