宝珠遊戯 23 「シャルトルーズ…って、黄の至宝珠?」 薄いパンで、野菜と脂身の少ない肉を巻いた軽食を露店で買って、路上に据えられた椅子で頬張りながら怜斗に聞き返す。 どうやら先にこの街の事をゼンに聞いてたみたいだ。 「そ。ヴェローサの神殿みたいなのがココにもあって、そこがシャルトルーズの神殿なんだってさ」 「――って事は、此処はシャルトルーズのテリトリーって事か……怜斗、余計な騒ぎ起こさないようにな」 何日も居ないような街で騒ぎを起こすと面倒だ。 が、俺の言葉に怜斗はちょっと臍を曲げたらしい。 「――解ってるっつーの。ヒトをトラブルメーカーみたいに……ぃや、否定も出来ないけどさぁ」 「大体いつもはしゃいだ挙げ句に何かあるもんねぇ……怜斗は。ま、2日くらい大人しく出来るでしょ――すぐに玻璃帝に逢いに行くんだし」 まだ朝早いってのもあって、人通りは少ない。 露店も暇そうだし、のんびりするには丁度良いかな。 「――玻璃帝……どんなヒトなんだろうな?」 「さぁ……最初に、怜斗が狭間で声聞いた人の可能性が高いけど――優しそうだったんだろ?」 「あぁ。優しそうってか、懐かしい…感じ?変だよな、逢った事なんて有る訳ねぇのに」 最後の一口を口に入れて難しい顔をする怜斗に、俺は苦笑で応える。 「多少、カーディナルの影響があるんだろ。……取り敢えず、玻璃帝をまず説得しなきゃ俺らは帰れない―――それはちゃんと覚えとけよ?」 「――…………うん」 ………何、その気にせざるを得ないような間。 怪訝そうな顔をしたのに気付いたらしく、怜斗が慌てて首を振る。 「や、別に帰りたくないとかそんなんじゃないからな?!」 「――まだ何も訊いてないから。……迷ってるのは知ってるし。俺だって、段々この世界に慣れてきたのに戸惑ってるよ」 ―――帰りたくない訳じゃない。 けど…… 例えば帰れなくても、それはそれで構わないとか思う自分が居るんだ。 「あぁ……向こうに家族もダチも居るって、云い切ったのは俺なのにな。……何でだろ、ちょっとずつ…色々忘れてく気がするんだ――」 バツが悪そうに、怜斗の視線が地面に落ちる。 ―――怜斗は別に、意志薄弱とかそんなんじゃない。 寧ろ頑固で困る時さえある。 だけどその怜斗が此れだけ悩んでるんだから、この世界の魅力ってのは相当なんだろう。 「―――悩んでるのも含めて、玻璃帝と話してみろってさ。……昨日、アゼルにそう云われた」 「……蒼哉も、悩んでんの?」 「まぁね……悩んで無い訳じゃないよ。勿論、玻璃帝とは帰して貰う話はするけどね」 ―――ホントに早く、話しておかないと…… 俺らはもうこの世界に傾き掛けてる気がするんだ。 「―――あーっ!もう、止め止め!!今日はどんなに悩んだって解決しないし。何か暗くなるし!」 空気に耐えられなくなったらしい怜斗が、勢い良く立ち上がる――――うん、この浮きの早さが怜斗だな。 「ハイハイ……取り敢えず街、見て回ろうか。時間はあるんだし」 「おう!」 元気に返事をする怜斗はいつもの笑顔で。 見上げた空は真っ青で。 あぁ……やっぱり、怜斗は光が似合うんだな――― [*前へ][次へ#] [戻る] |