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3.





 隣のソフィーが目を輝かせるのを見て、こっちも思わず笑みが毀れた。連れてきて良かったなぁ。なんて思う。サラのあの怒りを目の当たりにして確実に寿命が縮んだ気がしなくもないけれど、今となってはそんなの些細なことだ。

「お兄ちゃん、あれ、宝石!?」

「そうだよ。今日は宝石市の日なんだって」

 年に一度やるらしい、それ。俺自身は宝石なんかを見て綺麗だなぁと思うことはあっても、自分から買いに行ったりはしない。サラはこういうのが好きだけど、あんまり行く暇がないみたいだ。理由は生徒会役員なのと、人サラに始終くっついてる男のことを思い出して貰うとご理解頂けるだろう。

 それはともかく、今年は更に生徒会の仕事が多いせいでソフィーをどこかへ連れて行く機会もほとんどなかった。だから今日思い切って外出したというわけだ。サラが好きなんから、ソフィーだって女の子なわけだし、きっとこういうものが好きだろう。そんな俺の予想はどうやら間違ってはいなかったらしい。

「早く行こう、お兄ちゃん!」

 既に並んでいる宝石へと釘づけになりながら俺の手を引っ張るソフィーに、俺は笑いを堪えた。どうやら気に入ったみたいだ。良かった。と、内心胸を撫で下ろす。興味がなかったらどうしようかと思っていたんだけど、杞憂に終わったみたいだ。

「わあー……!」

 紺色の布の上へと並べられているのは、色取り取りの宝石が散りばめられたネックレス。普段なら暑いだけの日差しも、今日ばかりはその輝きを強調するのに一役買っているらしい。どれも色鮮やかに見える。

 ソフィーはポシェットを持ち上げて、何やら中身を確認し始めた。多分、所持金を確認してるんだろう。ソフィーにはお小遣いをちゃんとあげてるけれど、外に出ないからそれを使う機会はあんまりない。きっと一つくらいは買えるくらいの金額が貯まってるだろう。

 そうして確認し終えたらしいソフィーと一緒に一通りのものを見て回る。市、と言っても都のように大勢の人がいるわけじゃあないから、わりと小規模なものだ。しばらくして一周してみれば、ソフィーはある位置で立ち止まった。ただ一点を見つめたまま、それきり動こうとしない。

 視線を辿っていけば、薄桃色の宝石がついたネックレスが目に入った。あんまり大きいものじゃなくて、小さなハートの形をしたものだ。そこに白い羽の飾りがついてる。決して派手でもなく、可憐、という表現が似合いそうな雰囲気を漂わせているように思う。あんまり俺は詳しくないから、よくわからないけど。

 ソフィーはポシェットを持ち上げた。が、そのまま難しそうな顔をする。迷ってるんだろうか。

「ソフィー?」

 これが欲しいのか? と尋ねようとした。けれどもソフィーはそれに酷く驚いたような顔をした後、何やら焦ったようにして首を振る。

「ち、違うよ!」

 何が違うんだろう。よくわからないけど、とりあえず欲しいなら買ってあげようと思ったのに、

「わ、私、あっち見てくる!」

 と早足に駆け去ってしまったので、結局言えずじまいだった。うーん、どうしたんだろうか。遠慮することないのに。これでも結構お金持ってるんだけどな……

 追いかけて来て欲しくなさそうだったから、俺は改めてネックレスへと視線を落とした。可愛らしいし、ソフィーによく似合いそうだ。値段を見れば、確かにソフィーの持っているだろう金額では少し難しい値段が書いてあった。それに今日の目的を考えれば、諦めるしかないんだろう、値段。けれども別に俺の所持金からすれば問題はない。まぁ痛い出費ではあるけれど、ソフィーが喜んでくれるなら安いものだ。どうせお金なんて持っていても使い道がないし。

「お兄さん、これが気に入ったの?」

 不意に声をかけられて、顔を上げれば目に入ったのは人の好い笑顔を浮かべた初老の女性だった。柔らかい口調で尋ねられて、えぇまぁと俺も素直に頷く。

「おやまぁ、良い人への贈り物?」

「いえ、妹に」

「あぁ、あそこにいるお嬢さん?」

 女性の問いかけに、俺は同じ方向を見た。何やらまた他のもので悩んでいるらしく、ポシェットの中と商品を交互に見つめている。……でも、あんなところにソフィーが好きそうなもの、あったっけかな……

 疑問には思うものの、とりあえずは質問に答えるのが先だ。

「えぇ」

「ふふ、仲が良いのねぇ。やっぱり可愛いでしょう」

「はい、もちろん」

 ソフィーは大事な妹だ。可愛くないはずがない。笑って頷いてみせれば、優しい笑みが返される。





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