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※連載『しあわせ家族計画!』番外編



「今日はサラとデートなんだぜー」

 へらへらと笑い続ける兄さんに、そろそろ眠っていて貰おうかと杖を握るのはこれで何度目のことだろう。いや、落ち着け僕。これでサラさんと過ごす時間を潰したりしたら、それこそ数日にわたって延々と嘆き悲しみ愚痴られるに違いない。もちろん良心はちっとも痛まないけれど、かなり嫌なことは確かだ。御免被りたい。つまりはこの兄を止める方法など全くなくて、僕は深々と溜め息を吐いた。さっさと出かけて欲しい。むしろとっとと嫁ぐなり婿養子になるなりして別々に過ごしたいと思ってしまうのはこれが決して珍しいことではないからだ。兄さんがサラさんと結婚するのが先か、僕が諦めるのが先か。後者は遠慮したいところだけれど。

 ふう、と嘆息すれば何を勘違いしたのか兄さんは満面の笑顔だ。殴りたい。

「お前もデートすりゃいいじゃん。ほら、ソフィーちゃんとか」

「殴られるのと蹴られるのと頭が吹っ飛ぶのではどれが好みですか」

「いや、すみませんごめんなさい刺さってる刺さってる! 杖の先端が刺さってるから!! オレの頬に穴が開くから!!」

 ぎゃあぎゃあと煩い兄さんに、これ以上何を言っても無駄だと諦めて杖をしまった。あぁ、きっと兄さんが結婚して家を出ていくより先に僕がこうして諦めるんだろうな。果てしなく嫌だ。その前にセヴランさんに相談した方がいいんじゃないだろうか。なんてことを思う。

 大体、どうして兄さん達の生徒会は今日休みなのに僕らの生徒会は休みじゃないんだろう。普通は年齢が上がる程やることが多くなっていくものじゃないだろうか。そんなことを歩きながら考えていて、ふと理由がわかった。目の前から見慣れた二人が歩いてきたからだ。ソフィーさんと、セヴランさん。セヴランさんは生徒会長だ。そして学校創立以来最も優秀な生徒だと言われている。本人はあんまり自覚してなさそうだけど。そんなセヴランさんがいるからこそ、僕の隣にいるお荷物というハンデがあっても仕事を終わらせるくらいの速度を保っていられるんだろう。

 そんなセヴランさんに、お荷物こと兄さんが手を振った。

「よっ、セヴラン!」

「あぁ、ラウル……」

 ……何か、セヴランさんがやつれているように見える。例えるなら、強豪相手に一戦交えてきました、とでも言いたげに。笑顔にかなり疲労感が詰まって見えるのは気のせいじゃないだろう。そうして僕がセヴランさんを見上げていれば、その目が僕を映した。

「こんにちは、ノエル」

「どうも」

「こんにちは!」

 セヴランさんに頭を下げれば、その隣からも明るい声が上がる。視線をそちらに動かせば、嬉しそうな笑顔を浮かべたソフィーさんと目が合った。ポシェットを提げ、麦わら帽子を被ってる。

「お出かけですか?」

「うん、そう!」

 頷くソフィーさんに、そういえば兄さんはサラさんの家でデートなのだとか何とか言っていたことを思い出す。とすれば、セヴランさんは兄さんに気遣ってソフィーさんと外出することにしたのだろうか。どう考えても、サラさんがこの二人に出て行けと言うはずがない。とすれば、考えられるのはただ一人。

「いやぁ、悪いな! わざわざ外してもらってよ!」

「ほんとだよ……」

 悪びれた様子なくセヴランさんにお礼を言う、お荷物。というかむしろ荷物どころじゃないと思う。トラブルメーカーと言っても過言じゃあないだろう。ぐったりしているセヴランさんに申し訳なさすら感じる。一発くらい兄さんを殴っても誰も文句は言いませんよ、という言葉は呑み込んでおいた。

「で、お前らはどこ行くんだ?」

「……まぁ、ちょっとな」

 ちらりとセヴランさんがソフィーさんへと視線を向ければ、ソフィーさんも嬉しそうに破顔する。

「ひみつなんだよ! ねー?」

「うん、秘密」

 顔を見合せて笑いあう二人に、兄さんは不思議そうに首を傾げた。

「何だそれ? じゃあサラも知らないのか?」

「まぁな」

 それでよく許してくれたな。なんて僕の考えはどうやら甘かったらしい。

「おかげで「ソフィーを連れて何処へ行くんデスか! 私がいない時に限ってそうやって遠出するんデスか!?」とか言われたよ……」

 肩を落とすセヴランさんに同情の念を覚えたのは、その場面がすぐに想像できたからだ。きっと相当な苦労をしてこうして出かけているに違いない。それこそ、僕が想像できないくらいの苦労をして、だ。

 けれどそれを聞いても、兄さんはただ笑うだけで。

「はっはっは! まぁお前も大変だなぁ」

 誰のせいですか、というセリフは飲み込んだ。セヴランさんは苦笑するだけで、そこを指摘しようとはしていない。なら他人の僕が兄さんを責めるのもいらぬお世話かもしれないし……




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