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それから何事も無く、穏やかにクエストをこなす日々が暫く続いた。
『ミセス・ベラドンナ』にはずっとお世話になりっぱなしで、これだけ長く逗留していれば埋まっていた他の部屋が空く事もある。セバスさんから、もしよかったら今の部屋よりもグレードの高い部屋に移らないかと訊かれて、その提案に一も二も無く頷いた。
だって広いベッドに大の字で寝たかったんだもんよー、睡眠とっても大事。広いベッドでのオナヌーも大事。

いつかこの街を出ることも視野に入れて、宿泊は取りあえず一週間ごとの更新をお願いしている。それとなくこちらの懐事情をセバスさんが気にしていそうだったので、向こうとしても長期の契約じゃないほうが安心するかな、と考慮したのもある。
いくら前払いとは言え高級宿だものなあ、いろんなこと考えてるでしょ。

普通は見るからに駆け出し冒険者の格好の人間が泊まれるレベルの宿じゃないからなあ、ここ。
セバスさんも部屋を移るか話を持ちかけてくる時、結構悩んだんじゃないだろうか。収入があまりよくなさそうな装備レベルの冒険者に、話持ちかけてちゃんと御代払ってくれるかな〜とか。

払えないなら断ればいい話なんだろうけど、そうしない悪い奴も世の中にはいるわけで。
そう考えると、話を持ちかけてくれるくらいには信用されてるのかなーとちょっと嬉しくなったりした。

そうして過ごす間に宿のキャスト達とちょっと仲良くなって、業務が終了した後の厨房を有料で貸してもらえる事にもなった。遠出するクエスト行く時のお弁当とか、ちょっとした自分用の夜食とかたまーに作っている。
それを彼等にお裾分けしたりすると凄く喜んでくれるので、作るこちらとしても何となく気合が入るし、より彼らと仲良くなれるしで何気に密かな楽しみだったりする。大げさな程に料理を絶賛してくれるのが、かなり恥ずかしいけど。
ついでに世間話なんかして情報収集するのも忘れてないよ!

冒険者ランクもスローペースとはいえ毎日こつこつクエストこなしてたので、一個上のEランクへと無事に昇級した。
もうちょっと頑張ればDに上がれる予定なのだが、その為には昇級する為に必要な条件をクリアしなければならない。一つはギルドから指定される特定のモンスター討伐と、二つめは上級ランク冒険者との手合わせだ。

この手合わせと言う名の篩い落としによって、まだ実力が伴わないと判断された(もしくは才能が著しく欠如している)者は弾かれるのである。
聞くところによるとDランクからが一端の冒険者として認められる境目であり、そこからクエストの難易度が必然的に高くなるらしい。
その為にDランクへ昇級する試験に限り厳しい実技を設けて、実力不足で死んで行く冒険者を抑制することが冒険者ギルドの主な目的のようだ。
冒険者になること自体は誰でも出来るから、そこからきちんと冒険者として死なずに生きていけそうな素質のある者を先達達が見極めるわけである。
つまりこのDランクに昇級する為の試験は冒険者としての登竜門のようなものであり、ここを越えられずに冒険者を辞めていく者も多いという事だ。

言外に、Dランクに上がれない者は才能が無いから諦めて別の道を行け、と示唆されているというわけだな。低ランクの報酬が安すぎるほどに安いのも、そこに関係してくるのかもしれない。
さっさと一端の冒険者になるか、長々と低ランクで暮らしに困るような生活を続けるのか、結局は本人の実力次第というわけだ。

そういうこともあって、ラビィさんに物凄く心配されているらしかった。
いつまでも低ランクでいるから実は生活に困っているんじゃないかとか、果てには生活苦で身売りでもし出すんじゃないかなんて事も思われていたようだ。
うん、ほんとサボっててさーせんでした。

「そん時は俺が養ってやるから安心しろよ」
「……うん、大丈夫です気持ちだけ頂いておきますほんと大丈夫なんでちょっと近寄らないで」
「なんだよ遠慮すんなよ、なんで目ぇ逸らすこっち見ろおい」

最近は殆ど一緒に居る所為で、最早セット扱いされだしたウルフのお陰で、悪質で執拗なパーティ勧誘は表面上は成りを潜めている。
それでも我こそはと声を掛けてくる猛者もいるけど、前に比べたら大分静かなもんだ。

静かにはなった、はずなんだけど。


「……いいこで俺に飼われてろよ、可愛がってやるから。な?」


こ れ だ よ!

ウルフのこれのお陰で、別の意味で注目集めだしたんだよ!

きゃーんとかはああんとかどっかから黄色い悲鳴が複数聞こえるし、至る所から視線が集まるわ集まるわ串刺しにされそう! というかもうされとるわ! 俺のメンタルはもうズタズタよ!
これ、もしかしてなんかの見世物だと思われてんじゃないだろうか。ファッキン

あーんウル×レイたぎる、とかけしからんもっとやれ、とか一部の鼻息荒くしてるお嬢様方には特にご好評のようだ。
マジ、なんか、泣けてくるよね。いやうん泣かないけどさ、隣に居る奴が喜ぶから絶対泣かないけど。

今日のクエスト完遂報告を終えて、いろいろげっそりしながら通りを歩いていたら、【薫風】のメンバーとばったり鉢合わせした。
マシューさんとフランクとデンホルムさんとユーリス君の取り合わせだ。

「あ、」
「うおおおおあああレイちゅわあああああんんん!!!!」

結婚しよおおおおおおって叫びながら走って来るフランクからの抱擁を半身だけずらして躱し、ちょいっとその足をひっかけるようにつついてやったら、そのまま近くの荒くれ者達の中に突っ込んでいった。そうしてそのまま始まる賑やかな乱闘騒ぎ。
フランク、お前の犠牲は忘れない……

そのまま何事も無かったかのようにマシューさん達に向き直れば、盛大に頬を引き攣らせて引いている面々がいた。
あれ、なんかあった? っていう感じの、つけるなら音がきゅるん☆だろうあざとい顔して首傾げてみせれば、皆の顔が残念なものを見るそれに変わる。
アウトですか、そうですか。

「あなたって人は……日に日に強くなっていきますね。」

うん、褒め言葉として受け取っておこう。
それほどでも、と返せば褒めていません、と憮然とした顔のマシューさん。そんな顔しても相変わらず美人ですね。



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あきゅろす。
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