*二次創作の落書き置き場*
一方通行ですか *T&B*兎→虎*
「あ、俺今日、昼で早退するわ」
朝一番で顔を合わせたバーナビーにそう言えば、彼はカタカタとキーを打っていた手を止めて、虎徹へと視線を移した。
その頃には既にデスクの上の資料をしかめっ面で眺めていた虎徹の横顔を、ジッと見つめる。
「………早退、ですか?」
「そ。楓の授業参観に行ってくんだ」
資料から目を離さずにそう返されたバーナビーは、授業参観?と反復した。
珍しくデスクワークに真面目に取り組もうとしている虎徹は、むむむ、と難しい顔をしている。
早退するまでに、雑務を終わらせようとしているのだろう。
ポチ、ポチ、と要領の悪い手つきでキーを打ち始める虎徹を、バーナビーは暫く見つめていたが、不意にチェアーを回して体を虎徹へと向けた。
突如動いた相棒に、虎徹は視線をチラリと向けてくる。
「…言われなくとも、もう早退届けは出してるよ?」
「そうじゃなくて、」
バーナビーは一度視線を虎徹の手元へと移し、それからキッと目を細めて彼を睨む。
「早退、って、その間に何か出動要請があったらどうするんですか?」
「あー、すぐ行ける様にはするよ」
「あなたが来るまで、僕一人でどうにかしろってことですか?
随分無責任なんですね」
語調を強めて言うバーナビーに、虎徹は眉尻を下げて頭を掻いた。
なんだよ、いつもは邪魔だなんだと邪険にするくせに。
そう言いたげな表情だったが、不意に虎徹はあぁ、と何か合点が行ったように目を丸めた。
くるん、とチェアーを回して、真っ正面から向かい合えば、バーナビーはギュッと眉間に皺を寄せてから視線をパソコンの画面へとそらす。
その視界に入るように身を乗り出して、ペタンとデスクに突っ伏した虎徹は、見上げるようにバーナビーを見た。
その表情が、「なるほど、気付いちゃった!」とでも言わんばかりにニマリと歪み…つまり「ドヤ顔」だったことに、バーナビーは嫌な予感を覚える。
そしてその予想は的中するのである。
「バニーは授業参観に行きたいのか!」
「…は?」
思わぬ言葉に、反論すら忘れて虎徹を見下ろした。
バーナビーの呆気に取られたような表情を暫し眺めていた虎徹だが、なんだ、と口を開く。
「随分突っかかってくるから、授業参観見たいのかと思ったんだけど」
「そんなわけな………」
あー、いてて、などと言いながら身体を起こしてパソコンのキーを突っつく虎徹に、反論しかけたバーナビーは片手で口元を押さえて黙り込む。
パチン、パチン、とキーを叩いていた虎徹は、バーナビーがそのまま静かになってしまったことに気付き、手を止めた。
やはり、口元を手で覆ったまま、バーナビーはジッとこちらを見つめている。
「………どした、バニーちゃん」
「行きます。授業参観」
「………え、なんで?」
至って素の言葉で返せば、バーナビーは片手を降ろし、やたらと真面目な視線を虎徹へと向ける。
その視線の意図が読めずにあちこちへ目線をさ迷わせる虎徹に、さらにバーナビーは口を開いた。
「何か不都合でも?」
「不都合ってわけでも…あ!」
バーナビーの強すぎる目力に半ば圧倒されかけていたが、虎徹はポンッと片手の甲をもう片方に置き、慌てたように瞬きをする。
「あるある!
お前が来たら、学校が大騒ぎだ!」
「……じゃあ変装します」
「余計目立つっての」
むっ、と口を閉じたバーナビーに、どこかホッとしたような表情を見せた虎徹を、バーナビー自身は見逃さない。
手を伸ばして、ガシリと虎徹の右手首を掴めば、彼はヒッと息を飲んで見つめてきた。
「やっぱり、僕に知られてはいけないことがあるんじゃないですか?」
「は、はぁぁっ?」
「本当に授業参観に行くんですか?
何か他の用事なんじゃ、」
早口で言い掛けるバーナビーに、虎徹はちょ、ちょ、ちょ、と言葉にならない言葉で制止を掛けた。
片手首を掴んだまま睨むように見つめてくるバーナビーは、どうも振りほどけそうにない。
「バニー?あの、バーナビーくん?」
「行きますから、授業参観」
改めてもう一度宣言してくるバーナビーに、虎徹は慌てて掴まれた腕を振った。
しかし、やはりそれはガッチリと食い込み、外れる気配はない。
振りほどくのを諦め、自由な方の片手で額を押さえた。
「そんなに授業参観見たいの?
それとも楓が見たいの?
楓が好みのタイプです、なんて言われちゃったら、俺もう、立ち直れな………」
「違いますよ」
ぶつぶつと呟き出した虎徹の言葉を、バーナビーはバサリと遮った。
片手を額から外して見つめてきた虎徹を、バーナビーは至って真っ直ぐな視線で見つめ返す。
無意識に、手首を掴む力が強まった。
「あなたと一緒に居たいんです」
はっきりと呟いた言葉に、虎徹の目がじわじわと見開かれていくのを、バーナビーはただ見つめていた。
あっという間だった。
虎徹が目を見開いて何か言いたげに口を開いた瞬間。
その両目に青い光が灯り、そうだと思った瞬間には、手首を掴んでいた手を振り払われていた。
それと同時に、デスク上の資料を撒き散らかしながら、虎徹の姿は一瞬で消える。
能力を使って逃げられた、と気付くまで、数秒掛かった。
自分も能力を使えば、まだ追い付けるかもしれない。
そう思い、一度チェアーから腰を上げたバーナビーは、深い溜め息と共に座り直した。
隣のデスクの上下に散らばった資料を見つめ、眼鏡を外す。
「何を言ってるんだ、僕は…」
半ば自嘲の様な笑いを漏らし、散らばった資料を掴んだ。
提出期限が目前なのに、放っぽり出して行ってしまった。
その原因は自分にあるのか、と、バーナビーは資料を開いて、相棒の分の作業を進める。
オフィスのドアに寄り掛かったまま、顔を真っ赤にした虎徹が頭を抱えてしゃがみこんでいたことには、気付かないまま。
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