*二次創作の落書き置き場*
春咲く *戦国*三成→幸村風味*




素直になるのも、一つの手ですよ?殿?

そう、左近に言われたのは数刻前。


城内の書院で悶々と眉を寄せていた三成は、らしくない程に大きな溜め息を吐いた。

チラリと障子戸を見るも、誰かが来る様子は無い。


…左近にたしなめられるほんの少し前、その障子戸を開けて、幸村は去っていった。


常にピシリと伸ばされている背をしゅんと屈めて、静かに去っていった。

そんな風にさせてしまった原因は、自分の天の邪鬼な言葉だ。

優しく穏やかで清廉な彼を、自分は思ってもいない言葉を吐いて酷く悲しめてしまった。

いつもは真っ直ぐに見つめてくる瞳は伏せがちに畳に落ち、よく通る声は小さくくぐもっていく。


「…幸村」


名を呼べば、無理をして微笑んで、それからそっと目をそらす。


今日はもう、戻ります。


そう呟いて、幸村は出ていった。


…職務柄、室内に閉じ籠りがちな三成に少しでも新鮮な話題を、と、幸村は足しげく通ってくれていた。

槍を持たない幸村は、至って穏やかな口調で語り、三成も幸村の話を聞くのが好きだった。

楽しげに、微笑みがちに木々や、町や、人々のことを語るその表情が好きだった。


それなのに、自分は。


あまりに心にも無いことを言ったためか、それとも内心動揺しているのか、自分が何と言って幸村を傷つけたのかは思い出せなかった。

ただ、幸村の悲しげな表情は目に焼き付いている。



謝りに行かなくていいんですか、殿?

左近の言葉にも素直に頷かずにいれば、苦笑いを残して彼も去っていった。



…今日は、天気がいいですよ。

幸村が言った言葉だ。

…たまには、外を歩きませんか?
春の風は心地が良いですから。


自分は何と返した?


暢気だな。
…違う。
面倒臭い。
…違う。


ああ、思い出した。


「お前に付き合っていられる程、暇は無い」







勢い良く立ち上がると、障子を荒々しく開いた。

その先で待機していたらしい左近が、にやりと意味深に笑む。

「まだ間に合いますよ、殿」と。

チッと舌打ちして駆け出すと、家臣達が目を丸めて見送っている。

彼等が驚くのも無理は無い。

こんなに慌てていることに、自分が一番驚いているのだから。


草履を履いて外に飛び出した。

確かに天気は良い。

陽射しが暑いくらいだ。

そもそも、こうやって陽の下に出るのは何日ぶりだろうか。

こんな暑い程の陽の下を、幸村はほぼ毎日欠かさずに通ってくれていたのか。


ただ真っ直ぐ駆けると、ようやく見つけた姿に加速した。


「―っ幸村!」


叫ぶと、馬を引いて歩いていた幸村がパッと振り返った。

その目は、驚きで丸まっている。

立ち止まった幸村の隣に行くと、自分は思った以上に息が切れていた。


「大丈夫ですか?三成殿…」

心配そうに幸村が竹の水筒を差し出してきたが、いらんと突っぱねた。

はぁ、と肩を揺らして息を整えてから、幸村を見る。

心配そうな、それでいて気まずそうな、揺れた瞳と目が合う。

反射的にそらしてしまいそうになるのを堪えて、口を開いた。



すまない。と。



細めていた瞳を真ん丸にして、驚いた様にしていたが、すぐにホッとした様に微笑んだ幸村につられて、自分の口元も緩んだ。

同時に、自分が思った以上に不安になっていたことに気付く。

我ながら、天の邪鬼な性格には相当振り回されているのかもしれない。



「で、どこに案内してくれるんだ、幸村?」

問えば、そうですね、と思案した幸村が、それからまた優しく微笑んだ。

「深緑の季節ですし、山に登りましょう」

山か、疲れるな、とひねくれて返せば、幸村は困った様に、それでも嬉しそうな笑顔で穏やかな表情を返す。


……柄にも無いが、素直になったついでに言っておきたい言葉がある。


じっと幸村の目を見つめれば、どうしましたか?と首を傾げた。

ふっ、と鼻で笑ってから、小さく呟く。

「俺はどうやらお前の笑った顔が好きな様だ」

目を丸めてきょとんと見つめ返してくる幸村に笑んで、ゆっくりと歩き出した。

いつの間に春が来ていたんだな、と酷く暢気なことを呟きながら。












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後書

義トリオって喧嘩するのかなぁ…



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あきゅろす。
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