*落書き置き場*
ゆびわ
世界中の誰より、貴方を知っているつもりでした。
世界中の誰より、貴方の近くにいるつもりでした。
世界中の誰より、貴方を愛しているつもりでした。
まぁ、俺の勘違いなわけだったんだけど。
右手に持った引き出物をぶん投げたくなった。
何が「貴方しか愛せないのー」だ。
ちゃっかり二股して、結婚までしてるじゃねぇか。
高校で仲良くなった元恋人が、結婚した。
えぇ、まぁ、俺、平凡ですから?
結婚相手は超エリートでイケメン。
所詮は、イケメン君が仕事で構ってくれない、暇な時の穴埋めだったんですよね、わかります、今理解しました。
でも俺は本気にしちゃってたんですよ、わかりますか、この虚しい感じ。
幸せそうなケーキ入刀に堪えきれなくて、会場から出てみたものの、苛立ちや悲しさで足が止まった。
普通、結婚式に呼ぶか?!
…で、普通、のこのこ出席するか…?
あぁ、まったく、もう。
ラウンジを抜けて、俯きながら式場を出た。
見上げれば、もう濃紺の空に白い月が浮かんでいる。
うわー、情けない、泣きそうだ。
ほんとにさ、なんなんだよ。
別れを告げる前に、「今日、婚約してきたの!」だと?
「これからも仲良くしようね」だと?
出来るわけないじゃないか!
なんて奴だ!馬鹿なのか?!気が狂ってるのか!!
とか内心思ってたら、「え?私たち、付き合ってたの?違うよねぇ??」というトドメを刺された。
恐ろしい!悪魔だ!!
男を何だと思ってんだ!!
結構純粋なんだぞ!!
心の中で罵詈雑言吐いてみれば、ポロリと片目から涙が落ちた。
ああ、うざい。
馬鹿みたいに信じて、本気になって、捨てられて、でもまだ…
まだどこかで期待している自分がうざい。
足を止めて目許を拭っていると、背後から駆けてくる靴音が聞こえた。
ハッとして振り返り、そしてまた自己嫌悪。
息を切らして駆けて来ていたのは、式場のスタッフの男性だった。
……純白の花嫁が、革靴鳴らして走ってくることなんてないのにな。
黒いベストにスラックスの男性は、俺の前まで来て、ハアッと息を吐いた。
そして、左手を突き出してくる。
開かれた手には、ちゃちな指環が乗せられていた。
「あの、落としましたよ」
それは、随分前にあいつと揃えたペアリングだ。
ポケットに入れていた物が落ちたらしい。
ジッとそれを見下ろし、大きな溜め息を吐いた。
「知りません。俺のじゃないです」
「………貴方のですよ」
シラを切ったのに、男性は引かない。
イラッとし、背を向けた。
「知らないって!捨ててください!」
「へー、未練タラタラ、結婚式にペアリング持ってきて、式の途中で逃げ出したってわけか」
不意に背後から言われ、キッと男性を睨み付ける。
男性はペアリングを指で弄びながら、ニヤッと嫌な笑みを向けてきた。
「可哀想にー、フラれたんだ?」
「―っ」
なんなんだ!こいつは?!
カーッと頭に血が昇り、何も言葉が浮かんでこない。
ただじっと睨み付けていると、男性はフッと笑んでから、俺の左手を掴んだ。
ギョッとして手を引こうとしても、しっかりと掴まれてしまった。
なんだ、と目を泳がせていると、男性は俺の左手の薬指に指環をスルリとはめる。
「は?!ちょっ…」
「今度は落とすなよ?それ高いんだから」
ニヤリと鼻先で笑った男性は、クルンと背を向けた。
ポカンとしている俺の前から、男性はのんびりと歩いて式場に帰っていく。
暫く意味が解らず左手の薬指に嵌められた指環を見ていたが、ハッとした。
嵌められた指環が、見覚えの無い物だったからだ。
「おい!!これ、本当に俺のじゃ……」
叫ぶと、男性はチラリと振り返った。
また意地悪くニヤリと笑った男性が、左手を上げる。
その薬指に見えた指環に、はぁ??と目を丸めた。
男性の薬指には、自分の薬指に嵌められたものと同じ指環があった。
………ペアリング?!
慌てて外そうとしたが、その耳に、男性が楽しそうに声を掛けた。
「またな!」
その声に、顔を上げる。
満足そうに笑った男性は、走って式場に入って行った。
……またな、だと?!
しかもこの指環、どうすんだよ?!
妙に高価そうなそれを、投げ捨てる勇気が俺には無い。
ソッと指から引き抜いて、それからポケットに入れた。
………意味が、わからん。
ただ、さっきまでの鬱屈した気持ちが、綺麗さっぱり消えていたことに、俺は僅かに笑みを漏らした。
まぁ、そのうち、返しに来ればいいだろ。
俺は、引き出物をゆらゆら揺らしながら歩き出した。
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