*落書き置き場*
拘束 *緩い15禁

*会社員×同期*

※休日の朝っぱらから何を書いているんだ





季節外れも程がある。

半ば苛つきながら見上げた濃紺の空から、はらりはらりと落ちてきた白い結晶が今は憎い。


「帰らないんですか?」


真横にいる男がそう言って、どさくさ紛れに手を繋いでくる。

それに舌打ちしてから手を振り払えば、男はクスクスと笑った。



もう桜も咲き始めたというのに突如降り注いだ雪は、交通機能をことごとく麻痺させた。

自宅のマンションから電車で一時間という距離にある勤務先のオフィスで、電車が止まってしまったと聞いた時は、この雪どうしてくれようと思った。

会社で一夜明かすにしても、今夜は相当冷え込むらしいと聞いて、憂鬱な気持ちになっていた時、この男がやってきた。


「僕の家、歩いて十分ですよ」


耳許で囁くこの男は、別の部署の課長。

ついでに言えば、同期でもある。

物腰柔らかく、丁寧な口調に紳士的な性格が人気のある奴だ。

だが、自分はこの男の裏の顔を知ってるだけに、背筋がサアッと冷えた。





「君の好きな赤ワインが手に入ったんです。一緒に飲みませんか?」

そう誘われて、奴の部屋まで行ってしまったのは一ヶ月前のことだ。

それまでは、こいつ腹黒そうだよな、程度にしか思っていなかったから、何の警戒も無く。

元来、好きではあるが強くはない酒の威力でほろ酔いだったのが災い。



気付いたら押し倒されていた。



さらに次に気付いたら、朝だった。



ベッドの周りに散らばった自分の服を見た時は卒倒しそうになった。





と、トラウマになる経験をしたというのに、それ以降も、奴は何事も無かった様に接してきた。


…違うな。

前よりもやたらと体に触れてくる様になった。

挨拶しながら腰をなぞり、エレベーター内で一緒になった時は危うくトラウマ再発の事態だった。

セクハラだぞ、と怒鳴り付けたいのはやまやまだが、こいつの人気を考えれば、冷たい目で見られるのは自分の方だ。



そうこうしているうちに、奴の部屋まで着いてしまった。

一ヶ月前、人生最低の経験をした部屋。

それなのに、何故また来てしまったのだろう。

笑みを向けて部屋の中にエスコートしようとする奴に、キッと鋭い視線を向ける。


「やっぱり会社に戻る。こんな危険な所にいられない」

「駄目ですよ。会社はもう警備員さんがロックしちゃいましたから、入れません」


ニコッとわざとらしく笑う男に舌打ちした。


「…タクシー呼んで帰る」


そう言って背を向けた瞬間。

背後から腰を引き寄せられて、無理矢理部屋の中に引き摺りこまれた。

一瞬で身体中が警戒し、逃れようともがいたが、奴はしっかりと両腕で腰と腕を押さえつけている。


「おい、離せ」

「ここまで来たのに、今更逃げるんですか?
……ああ、照れ隠しですか」


先程よりも低くなった奴の声に、身震いした。

あの時も、奴の声が妙に低かった。


「離せ…」

「ねぇ、赤ワイン、また手に入ったんです。飲みましょうよ」


言いながら、奴の手がネクタイを緩めていく。

極度の緊張状態の体がビクリと震えると、奴は嬉しそうに笑った。


「今夜は冷えますよ」


ねぇ、だから、と耳許で続いた声は、もう耳には届かなかった。


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