*落書き置き場*
10分

*30分の続き*生徒×先生*

※調子に乗って続きを書いてしまったり。






背後でカラカラと扉が開く音がした。
永井がハッとして振り返るも、期待していた人ではなかった。

「あら、永井君。まだいたの?
もう部活終わったんじゃないの?」

そう言って美術部副顧問の中年の女性教師は、目を丸めて教室の中に入ってくる。
それに対して、「今日も来なかったな」と心の中で呟いた。
腰掛けていた机から降りてスポーツバッグを背負うと、副顧問を見る。

「…先生……日向先生は?
なんで部活に来ないんですか?」

日向先生…
永井が所属する美術部の正式な顧問で、一週間前に告白した相手を思い浮かべる。

副顧問はふっくらとした体つきが重いのか、ふぅ、と壁に手をつきながら眉を下げた。

「今大変なのよ、日向先生。
一週間前にいきなり高熱を出して一日休んで、その後、急に研究会の為に準備しなきゃいけなくなったの」

「え?日向先生、熱出したんすか?!」

「そうよー?
いっつもニコニコしてるからわからないでしょうけど、体調、まだ悪いみたい」

心配そうにする副顧問に、慌てて詰め寄った。

「なんでちゃんと休ませないんですか!」

「だ、だから、研究会の準備で忙しいのよ」

普段はあまり声を荒げず、冷静沈着に見られる永井が目を見開いて叫ぶのに驚いているのか、副顧問は目を白黒させながら続けた。

「でも、今日で一段落するみたいね。
……永井君、そんなに気になるなら、ちょっと顔出してきたら?」

「…いや、それは…迷惑になるし…」

「日向先生も、美術部のこと心配してたもの。
少しくらいだったら良いと思うわよ?」

さぁ、ほらほら、と背を押されて美術室から出れば、副顧問はにっこりと笑った。

「そんなに心配しちゃって、日向先生のこと好きなのねぇ、永井君」

副顧問は冗談混じりにふふふと言ったが、永井は一瞬目を丸めてから、満面の笑みを返す。

「はい。大好きです」

思わぬ程ハッキリとした肯定に、あらまぁ、と口を開いた副顧問に一礼して、階段を駆け上がっていく。
そんな永井の背を見送り、副顧問はまたふふふと笑っていた。






もうほとんどの部活が終了する時間だが、校舎三階の奥にある『社会科準備室』にはまだ明かりが点いていた。

永井は、扉の前で立ち止まる。
この扉の先に、日向先生はいる。

正直に言えば、一週間も日向先生が部活に現れなかったのは、避けられているからだと思っていた。
いきなり、生徒に、しかも同性に告白されて、気持ち悪いと思ったんだと。

しかし、体調を崩しているなんていうのは初耳だった。
廊下で一瞬だけ見れた日向先生は、いつもどおりにニコニコ笑って生徒と話していたから。

…………避けられていてもいい。

でも、顔が見たい。

一度大きく息を吸ってから、扉をノックした。






こんこん。
控えめなノック音に、日向は振り返る。
時計を見れば、大半の生徒は帰っている時間。
じゃあ先生達かな、と資料を纏めていた手を止めて、どうぞ、と返した。
それから一拍置いて、からからと静かに扉が開き、日向は息を飲む。

「永井君…?」

少し遠慮がちに一礼して立っていたのは永井だった。
扉を開けたものの、入らずにジッと日向を見つめている。
日向は慌てて駆け寄り、永井を見上げた。

「こんな時間まで、どうしたの?!部活で何かあった?!」

オロオロしてしまう自分が情けないけれど、嫌な想像しか浮かばず、相手に不安はバレバレだろう。
きょとんと目を丸めた永井が、クッと笑いを漏らした。

「違うよ、先生。
先生に会いたかったから来ただけ」

「……僕に…?」

柔らかく目許を緩めた永井を見上げ、ハッとした。
途端に身体中が熱くなり、慌てて永井から離れて背を向ける。

「そ、そっか。ごめんね、部活に行けなくて…」

「先生、体調悪いって聞いた」

キュッと内履きが床と擦れる音がして、次いで扉が閉まる音。

背を向けている日向に、永井が近付いてくるのがわかり、体が緊張で強張った。


「…大丈夫…?」

ふわりと背後から抱き締められ、一気に体温が上昇していく。
逃げようとするも、体が硬直してしまったのか、足が動かなかった。
耳許に感じる永井の息に、訳が解らなくなりそうだ。

「なななな永井君…」

「うん」

「ここっ、これは、その…?」

「久々に話したら、安心したから」

「そ、そう……」

キュッと一度強く抱き締めてから離れた永井を振り返ると、永井は至極幸せそうに微笑んでいた。
その笑顔にまた体温が上がる。
顔が紅いのを隠す様に俯いて、片腕で顔を覆った。

「僕は元気だよ、大丈夫だよ、だからほら、早く帰りな」

早口で言えば、永井はケラケラと軽く笑う。

「わかった。
……でも、あんまり無理しないでな、先生…?」

少しだけ落ちた語尾に日向が顔を上げると、永井は満足そうにニッと笑った。

「先生はやっぱりかわいい」

言って手の甲で日向の頬を撫でれば、日向は尚更真っ赤になって、慌てて永井の腕を押した。
ぐいぐいと押して外に出そうとする日向に永井は声を上げて笑い、素直に扉を開く。

振り返れば、真っ赤な顔で眉を寄せ、泣くのを我慢している様な日向の表情。

「先生、じゃあね、また明日」

言って片手を上げれば、紅い顔のまま日向も片手を上げ、ソッと振った。





去っていく永井の後ろ姿を見送り、日向はホゥッと息を吐く。

まだ永井の手の感触が残る頬に触れて、ゆっくりと目を伏せた。





今日は、短縮、たったの十分。
でも、明日はきっと…


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