※即興小説トレーニングにて書いた話です。
<<お題:昨日食べた耳 制限時間:15分>>
お腹、空きました。
そんな声で起こされるのが当たり前になった頃、俺は今日も今日とてその声で目を覚ます。
布団の中でもぞもぞしている俺を無遠慮に跨いでカーテンを開け放たれると、強烈な朝日が俺の目を貫いて、思わず低く呻いた。
しかも、窓の向こうでやたらとすずめが五月蝿い。
こんなにすずめが五月蝿い朝は初めてだ。
「お腹、空きました」
「うるせぇなぁ……食費も払わない同居人のくせに……」
どうにか布団から這いずり出て、寝癖でぼさぼさの髪を片手で撫で付けながら台所まで行く。
周りを見渡す。
何もない。
冷蔵庫を開く。
何もない。
おかしい。
一昨日、いくつか食材を安く仕入れてきたはずなのに。
「おい、お前、冷蔵庫にあったハム食ったのか?」
「おやつに食べました」
「ハムはおやつじゃねぇだろうよ……」
溜め息を吐けば、ぬっと近付いてきた同居人が首を傾げた。
「あの、御飯は……」
「ねぇよ。お前が片っ端から食っちまったんだろ?」
「……そっか」
そっか、じゃねぇよ。
一昨日、近所のパン屋で安く引き取ったパンの耳まで無いし。
ビニール袋二つ分はあったはずなのに、全部食われるとは。
「パンの耳まで食いやがって……今月も食費がやばいじゃん……」
「パンの耳は食べてないです」
「じゃあ他に誰が食うんだよ」
今さら嘘つくな、と目で怒気を伝えると、同居人は親に悪戯を指摘されて泣きそうな子供のような目をして、そろそろと窓へと視線を移した。
「あの子です、食べたのは。昨日、来てたから」
同居人の視線の先。
閉まったままの窓の向こうで、五月蝿く騒ぎ立てるすずめの大群。
あの子って、あの子って。
いや、おい、まさか。
「あいつらに食わせたのかよ!! 大事な食料!!」
「はい」
「はい、じゃねぇよ!!」
ああ、うるせぇ。
チュンチュンチュンチュン、すずめがうるせぇ。
早く飯を寄越せとせっつく姿は、同居人と全く同じだ。
「……あの、御飯……」
ポツリと耳に届いた声に、俺は思いきり片手を振り上げた。