*落書き置き場*
【賀正企画SS】 擬人化アンパンマン



※2012/1/1〜1/31まで公開していた賀正企画SSです




「初詣に行きましょう」

年始早々、ホラーマンがそう言えば、自分で作った御節料理を黙々と食べていたバイキンマンは嫌そうな顔をしてみせた。

その顔に、ホラーマンは眉を寄せる。


「…何ですか、不満でも?」

「俺、人がいっぱいいる所苦手なんだよ。行きたくなーい」

「ほんっとに引きこもりですね、あなたは」


呆れながら鼻を鳴らせば、栗きんとんを摘まんでいたバイキンマンはむぅ、と不満げに眉を寄せた。


「なんだよ、ロールにはフラれたのか」

「違いますよ。ロールちゃんは久々に妹さんがお休みらしいので、二人で旅行に行ってるんです。
じゃなければ好き好んであなたなんか誘いませんよ」

「元旦から喧嘩腰だなー…」


もふもふと伊達巻を口にするバイキンマンに、今度はホラーマンが眉を寄せた。


「あなたこそ、何で一人で御節食べてるんですか?ドキンちゃんは?」

「……」


無言で黒豆をつつくバイキンマンは、ソッと一枚のメモを差し出してくる。

そこには、丸い字体の文字列が並んでいた。


「『バタコ達と年越し女子会してくる』…ドキンちゃん、出掛けてるんですか」

「ドキンちゃんに食べてもらおうと御節作ったのにー!」

「一人で年越したんですか?相変わらず友達いませんね、あなたは」


ふっ、と鼻で笑ってからちょろぎを摘まんで口に放れば、バイキンマンは涙目で睨んできた。


「良いんだもん!全然寂しくないし!御節も美味いし!」

「確かに御節は美味しいです。料理は上手ですよね」

「え、美味い?本当?いやー、実はめちゃくちゃ自信作でさー」

「やっぱり寂しいでしょ、あなた」


ポツリと返せば、ハッとした様に目を丸めたバイキンマンが慌てて口を尖らせた。
御節を詰めた重箱を抱え込み、ホラーマンを威嚇する様に歯を剥き出しにしてみせる。


「寂しくないし!」

「…あなた、今年厄年でしょ?」


抱え込まれた重箱を奪いながら言えば、バイキンマンは目を丸める。
それから目を泳がせ、そうだけど、と呟いた。

悪の総ボスのくせに、厄年なのは気にしていたらしい。

重箱から栗きんとんをつまみ上げて口に放りながら、ホラーマンはにっこりと微笑む。


「だから、一緒に御参りに行こうって事ですよ。
さぁ、早く準備してください」

「ホラーくん…!」


うるうると目を潤めて立ち上がったバイキンマンは、いそいそとコートを羽織る。
その間も黙々と御節を食べ続けるホラーマンに、バイキンマンは涙で潤んだ瞳を緩め、今年一発目の満面の笑みを見せた。


「ホラーくん、そんなに俺のこと考えてくれて……」

「当然ですよ。ロールちゃんにお給料払ってるのはあなたなんですから、あなたに何かあったらロールちゃんの収入源が減ることになるんですもん」

「…………え?そんな理由?」


聞こえてきた言葉に耳を疑った。
呆然と見つめてくるバイキンマンに、ホラーマンはうっすらとした笑みを浮かべ、重箱をテーブルに置く。
手を差し伸べ、未だ微妙な笑みでバイキンマンを手招きしている。


「さぁ、早く行きましょう」

「……っホラーくんの馬鹿ー!!引きこもりを馬鹿にしやがって!うわー!」

「あ、ちょっと!僕、三時から見たい番組が有るんですから、早くしてくださいよ」

「うわー!うわー!!」


半ば引き摺られる様にして部屋を出て行くバイキンマンは、涙で潤んだ視界に映ったホラーマンの笑みにグッと唾を飲み込んだ。


愛しげに緩められた瞳は、きっと自分を見ているわけではない。

そもそもホラーマンにとって自分は、『親友』以前に、『恋人の雇い主』だということが発覚してしまった。


なんて最悪な元旦だ。


「厄年だぁっ……」


呟いた声に、ホラーマンがクスリと笑った様な気がした。





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あきゅろす。
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