*落書き置き場*
【賀正企画SS】 ラストオーダー
※2012/1/1〜1/31まで公開していた賀正企画SSです
「優希兄ちゃん、どうかしたの?」
中学二年になった弟の和希(カズキ)がそう聞いてくる声にびくんと肩を揺らし、握りしめていた携帯電話を慌てて座布団の下に隠した。
大晦日の夜。
久々に帰った実家の居心地の良さに満足しながら、年越し蕎麦も鱈腹食べ終えた頃。
リビングでテレビを見ながら時計を確認し、ソワソワと携帯電話を開けたり閉じたりを繰り返していたのを、二人の弟はしっかりと見ていたらしい。
高校三年になる弟の龍希(リュウキ)は、ニヤリと悪戯気に口許を歪めた。
「その慌て方は…兄貴、彼女でも出来たな?」
「彼女?!彼女はいないって!」
反射的にそう返して、更に挙動が怪しくなってしまった。
──『彼女』は、いない。
だってカナタさんは女の子じゃないから。
─……え、じゃあ彼氏?
─……カナタさんが彼氏だったら、俺は?
我ながらどうでも良いような事を悶々と考え出してしまうと、そんな姿を眺めていたらしい龍希は呆れた様に軽い溜め息を吐いた。
「兄貴って見てて飽きないよなー…」
「あ、カウントダウン始まったよ、優希兄ちゃん、龍希兄ちゃん!」
目を細めて訝しげに見てくる龍希とは裏腹に、ニコニコと天使の様に純粋無垢な笑顔で指差した和希に釣られてテレビへと視線を遣った。
液晶の先では、芸能人達がやたらとハイテンションで年越しへのカウントダウンを始めたところだった。
和希はいそいそと立ち上がり、テレビから聞こえるカウントダウンと共に数を数え始める。
そのカウントダウンにハッとした自分は、慌てて携帯電話を座布団の下から取り出して、メールの送信画面を開いた。
龍希がニヤニヤとこちらを見ていることは、敢えて気にしないことにする。
今はそんな事を構っていられない。
年に一度しか無い一大行事が目前に迫っているのだから!
ごー、よん、さん、にぃ、いち……
「わー、明けましておめでとう!!」
飛び跳ねながらそう叫んだ和希には目もくれず、送信ボタンを押した。
メールを必死に相手へと届けようとしている『送信中』という文字を浮かばせた画面に、『送信完了しました』という任務達成の報告が表示されると、強張っていた肩から一気に力が抜けてヘナヘナとテーブルに突っ伏した。
「見た?優希兄ちゃん!俺、年越えた瞬間地球に居なかったんだよ!」
「え!?まじで?!すごいな、和希!」
鼻息荒く腕を振って報告してきた和希に、純粋にそう返す。
龍希は呆れながら携帯電話を弄っていた。
気の抜けた体を炬燵に押し込めば、ぽかぽかとした温かさが眠気を誘う。
そんな自分とは対称的に、興奮冷めやらずといった和希が楽しげに今年の抱負を述べる姿は無邪気で癒される。
龍希も昔は可愛かったなぁ…
ウトウトと襲う睡魔に瞼を伏せた瞬間。握ったままだった携帯電話がブーブーと激しく振動した事で、そんな眠気は遥か遠くへ過ぎ去っていく。
慌てて携帯電話を開いてみる。そこには、愛しのカナタさんからのメールの受信を伝える文字。
急いでメールを開けば、ふわりと口元が緩んだ。
『明けましておめでとう。今年もよろしく』
簡潔な文章に緩みきった顔を隠しもせずに、すかさず龍希を抱き締めてみた。
すると、龍希はギョッとした様に顔を強張らせてからジタバタと両手を振って暴れだす。
「うわ!なに?!キモいんだけど?!」
「優希兄ちゃん、龍希兄ちゃん、何してるの?!楽しそうだね!」
便乗して背中にへばりついて来た和希も纏めて抱き締めてやれば、龍希は絶叫しながら首を横に振っていた。
「ああもう、どうしよう、カナタさん大好きだー!!!!」
「わかった!兄貴が幸せなのはわかったから離して!キモい!」
「優希兄ちゃん、龍希兄ちゃん、今年もよろしくー!ねぇねぇ、お年玉ちょーだい!」
更に強く抱き締めて、今は離れているカナタさんを思い浮かべた。
今年一年、きっと良い年にしてやる。
カナタさんも、自分自身も。
まだジタバタと暴れている龍希の頭を片手で抱え、楽しそうに抱き着いてくる和希を空いた片手で抱き締めた。
こんな幸せな一年の始まりは、初めてかもしれない。
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