Story-Teller
Z




痺れたままの左腕を右手で押さえて、完全に戦意を失っている二人の反UC派へと視線を向ければ、彼らは示し合わせたように背を向けて逃げ出していく。
しかし、その逃走経路に立ち塞がった高山に、足を止めた。
呆気なく観念したのは、「腕自慢」の男が目の前で小柄な相楽に制圧されてしまったからだろう。相楽よりも大柄な高山に、竦んでしまっている。

手早く彼らに手錠を掛けた高山は、相楽に駆け寄って眉を下げた。

「すまない……援護が出来なかった」

「いえ」

心底申し訳なさそうに項垂れてしまった高山に、相楽は慌てて首を横に振って目を細める。

「大したこと無かったですから」

「だが、」

高山の視線は、相楽の左腕に注がれている。流石に、高山は誤魔化せないようだ。

正直「よく動いたなぁ」と自分に賞賛をあげたいほどに、腕が痛い。
折れた、まではいかないが、ヒビくらいは入ったのかもしれない。無理矢理動かしてしまったのが治療に響かなければいいが。

相楽の腕を気遣ってか、それとも援護に入れなかった後ろめたさからなのか、高山はてきぱきと慣れた手つきで昏倒したままの男たちを拘束する。
それをぼんやりと眺めていると、高山が手を止めて振り返った。心配そうに眉根を寄せて、先に基地に戻るように指示されてしまえば、頷くしかなかった。

なんにせよ、この腕では後処理を手伝うことも難しい。
とはいえ、片手では車を運転することが出来ないことに気付いて思案していると、高山がこちらには背を向けたまま、耳に着けている無線を繋いだのが見えた。

「すまない。相楽を迎えに来てくれ」

たったそれだけを伝えた高山は、すぐに無線を切ってしまった。
ちらりとこちらを見た彼が、小さく口を開く。

「すぐに迎えが来るから、」

その後は、高山が口ごもったので聞き取れなかった。

目を丸めて首を傾げる相楽に構わず、高山はあちこちに無線を繋いでは、早口の報告を残していく。
もうしばらくすれば、連絡を受けた警察が反UC派を引き取りに来るのだろう。

本来ならその後、相楽は警察に聴取を受ける。
戦闘に至った経緯を説明したり、とにかく鬱陶しいくらいに状況を説明しなければならないのだ。
正当防衛だったのか、とか、相手はどんな武器を持っていたのか、とか、相手は反UC派とはいえ、軍人であるこちらが一方的に「一般人」に攻撃を仕掛けたわけではないことを証明しなければいけない。

それから、現場の片付けもしなければならない。
……飛び散った血だとか、そういうものを流す作業だ。

基地に戻れば報告書を作って、幹部連中にも報告に行って……

反UC派を制圧することより、その後の処理の方がとにかく面倒臭い。
だが、今回は高山が全て請け負ってくれるようなので、それに甘えることにした。



ふと見えたのは、見慣れた覆面車。漆黒のそれは、自分が一番乗り慣れた車種だ。
その漆黒の車の助手席に座るのが、常だった。今日は高山が使うシルバーの覆面車だったが。

その漆黒は、自分の保護者のように常に隣に居てくれる上司が使うものだった。

まさか、と唾を飲む。
高山が相楽の迎えに寄越した人物に気付いてしまったからだ。
ざわざわと不躾に覗き込んでくる野次馬でうるさいショッピングモールの駐車場に降り立った長身が、相変わらずの不機嫌な顔でこちらを見た。

「篠原さん……?」

思わず呟いた名前に、隣に立っていた高山が固く眉を寄せる。
だが相楽はそれに気付かず、ただ、近付いてくる篠原だけを見つめていた。




[*前へ][次へ#]

7/12ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!