Story-Teller
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「……やっぱり知ってるんだ、怪我したこと」

相楽が眉間に深い皺を寄せて返すと、南野はこっくりと頷く。こめかみを伝う汗を頻りにタオルで拭きながら、ちらりと湊都を見上げた南野は眉を下げて苦笑した。

「お前が怪我したとか、ファースト・フォースが交戦したとか聞くとさ、こいつが真っ青になるんだよな」
「南野!」
「本当のことじゃん」

慌てて南野の腕を掴んだ湊都に、南野はにやりと笑う。
仄かに怪訝な顔をした湊都は、細めた目を相楽へと向けて「大丈夫なの?」と心配そうな声色で問いかけてきた。
相楽は微笑して頷く。


中学の頃から、湊都は相楽をずっと気遣ってくれている。
心の拠り所の無かった相楽には、それが嬉しくもあり、申し訳なくもあったのだが。
相楽が防衛軍に入隊すると決めた時も、間髪入れずに「じゃあ俺も」とあっさりと進路を共にすることを決めた湊都だ。
無理をしてついて来てくれたのではないのかと、今でも思う。
けれど、この養成所に入ってから、湊都は楽しそうだ。もとから身体を動かすのが好きだった彼にとっては、厳しい訓練も苦ではないらしい。


相変わらず、過保護なまでに相楽を気遣う湊都に、思わず笑ってしまう。
すると湊都はきょとんと目を丸めて覗き込んできた。

「どうしたの?」
「いや……変わんないな、湊都と南野は」
「なにそれ、馬鹿にしてんのかよー」

すかさず口を尖らせる南野に、相楽は笑いながら首を横に振る。
湊都と南野は顔を見合わせてから、ふわりと笑った。

南野が手を伸ばして、相楽の頬を抓る。それも懐かしい。
「お前無愛想だな」と初対面ではっきりと言ってきた南野は、躊躇いも無く相楽の頬をよく抓る。もっと笑えよ、という意味らしい。
最初は嫌だったが、今ではそれが彼なりの相楽への親愛の証だと知っている。
存分に相楽の頬を摘んで気が済んだ南野の手が離れていくと、相楽は左腕のシャツを軽く捲くってみせた。
白い包帯の巻かれた腕に、湊都が眉を寄せる。

「怪我って、どんな」
「ひびが入ったみたいで、一ヶ月くらいは巡回にも出られない」

ひび、と南野が繰り返し、軽く包帯の上をなぞった。

「反UC派と交戦でもしたのか?」
「……まぁ……ちょっと、油断してて」

言葉を濁して、シャツで腕を隠す。
脇目で見た階段で繋がっている二階の喧騒は一層大きくなっていた。食堂は相当に混んでいるだろう。
ふと思い立って湊都と南野を見る。

「いいのか、昼休憩だろ」

問えば、南野は「ああ」と目を丸めた。

「俺は昼食えそうにないから……、ていうか、あれだけ走った後なのに、よく皆飯食えるよな……」

言った南野は顔を顰めて、タオルで口元を覆う。
元々非戦闘職志望の南野には、地獄のランニングが身に堪えるらしい。汗を流しながらも涼しい顔をしている湊都と違い、南野はまだ息も不規則だ。
相楽が湊都に視線を遣ると、彼はにっこりと笑う。

「後でちゃんと食べるから、心配しないで」

その笑みに、そう言えば湊都は異常に食べるのが早いことを思い出した。
「いただきます」と手をつけたものが、あっという間に彼の胃袋に納まる様は、いっそ清清しいほどの食べっぷりである。
彼の笑みに釣られて笑うと、湊都は一層嬉しそうに目尻に皺を寄せた。





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