Story-Teller
V



「おっと……」

前を歩いていた関がぐらりと体勢を崩し、すぐに立て直した。ぐちゃり、と足元から不快な音が鳴る。
森の中は、想像して以上の道の悪さだった。
ぐんぐんと止まることなく成長して地面に張り出している木の幹で、足元は堪えず凹凸が続く。
さらに、木立が言っていたとおり、一昨日の雨のせいで、土はどろりとぬかるんでいる。木々が日光を遮っている深い森だ。数日経っても乾きそうにない。
相楽も何度か足を取られ、そのたびに振り返って手を差し出してくる関に、意地になって首を横に振った。心遣いは嬉しいが、それに甘んじたくはない。


「まだ十分くらいしか歩いてないけど、かなり体力削られるなー」

「しかも暗い」


相楽が付け足せば、関はそうだよなぁ、と視線を上げた。
関と相楽の頭上を覆った木々は完全に日の光を遮断し、まだ午前中だというのに夕方のような薄暗さだ。
日が暮れる前にUCを探し出さなければ、日が落ちると同時に周りが見えなくなってしまうだろう。

とはいえ、進んでも進んでも木の幹ばかりで代わり映えの無い景色に、すでに嫌気が差していた。
相楽が長い溜め息を漏らせば、歩調を緩めた関が隣に並んだ。


「そういえば、相楽って、『UC』探索の任務ってこれが初めてなんだっけ?」


問われて頷けば、へぇ、と驚いたように眉を上げる。


「ファースト・フォースに入って今月で九ヶ月目だっけ? やっぱり相楽の成長スピード速いなー」

「速い?」


首を傾げて関を見上げれば、速いよ、と返した関が、ブルゾンのファスナーを勢い良く開いた。
ぱたぱたと両手で扇いで風を送っている。その額には、うっすらと汗が滲んでいた。


「だって俺、市街地の巡察は配属されてから三ヶ月目でようやく連れてってもらったけど、相楽って確か一ヶ月で始まっただろ? テロの制圧だって、俺は半年経つまで連れてってもらえなかったけど、相楽は三ヶ月くらいで行ったし……『UC』の探索なんか、隊長と副隊長に両脇囲まれて行ったんだぜ」

「……速いと駄目?」

「いや、いいことだろ? 相楽は即戦力になれるくらい優秀だってことなんだから。実戦経験がある俺らよりも、一から学び始めた相楽の方がファースト・フォースの任務に順応しやすかったのかな」


言いながら、あっつー、等とぼやいた関は手の甲で汗を拭う。
じっと関を見上げていた相楽は、肩から提げていたメッセンジャーバッグを漁ってペットボトルの水を差し出した。
ぱっと目を輝かせて受け取った関が、ありがと! と満面の笑みを返してくる。
ボトルを煽ってガブガブと遠慮無く水を喉に流し込む関を横目で見ながら、相楽はそっと眉を下げた。


「……篠原さんの方針なんだって」

「? 何が?」


関がボトルのキャップを閉めながら、きょとんと目を丸める。ボトルを受け取って、相楽は小さく溜め息を漏らした。


「俺は皆より経験が少ないから、早めに実践に出して経験を増やすことが最優先だって。だから、いろんな任務に連れてってもらえるみたい」

「なるほど」


俯きながらざくざくと草を踏み締めて歩けば、関がふむ、と頷いて腕を組んだ。


「相楽はすぐに吸収して伸びてくから、実践に出すのは俺も賛成だなー……でも、その分、危険度も高いっていうのは仕方ないかな。だからいつも篠原隊長が相楽とバディ組んで見張ってるんだろうけど」


至極真面目にそう述べる関の横顔を見上げてから、手に持っていたままの水を一口飲む。
数日前に高山に打ち明けられた話を思い出して、胸のうちがぼんやりと重くなった気がした。





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あきゅろす。
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