いつもの防弾用のベストや、ファースト・フォースだと一目で解るトレードマークの黒いブルゾンは着ていないものの、今回もれっきとした任務だ。
この『自殺の名所』で、高いUCのエネルギー反応が検知されたのは、一週間前の事だった。
この森林の何処かに、UCが隠されているらしい。
今までエネルギー反応が検知されなかったのは、UCが地下深くに埋められていたからでは無いか、と木立は言う。
長い年月を掛けて雨風が土を少しずつ削り、九月に相次いで列島を襲った台風でついにUCが地表に露出したため、急にエネルギー反応が出たのだと。
そのUCを探し出して保護するというのが、今回の相楽の任務だ。
とはいえ、人気が無いと言っても、辺りには飛び石のようではあるが民家も見える。一般人の目に付く場所での捜索は、噂が噂を呼んで、気付けば野次馬が壁を作っていることも多々だ。
事前に周辺住民への理解と協力を得てからこっそりUCを探そうとしても、どこかから情報を得た反UC派がしゃしゃり出てくる可能性は限りなく高い。
周辺住民に気付かれないように少ない人員で、さらに気付かれる前に迅速に任務を終わらせるために、相楽と関の二人がUCを探しに森へ入る実働班となり、バンに残る篠原と木立がその援護をするという事になった。
なるべく控えめに任務を遂行しろ、というのが上からのお達しだ。たった四人ならば、「控えめ」の範囲に入るだろう。
……この広い森林をコソコソ探し回る労力よりも、国民へのイメージの方が大事らしい。ファースト・フォースへの負担なぞ、二の次だ。
どうしても目立ってしまう漆黒のベストやブルゾンなどの装備は外し、休日にしか着ることがないパーカーという、任務とは思えないような私服で来た相楽としては、妙に調子が狂ってしまうところだ。
相楽の補佐として選ばれた関も、薄手のミリタリーブルゾンのみという軽装のためか、緊張感があまり無い。
ここに来るまでも、到着しても、どこかピクニック気分できゃっきゃとはしゃぐ関に、木立が苦笑している。
そんなどろんとゆるんでしまった空気を察した篠原は、短い溜め息とともに鋭い目付きをさらに細めて、鋭利な眼差しを向けてきた。
「お前ら、気が抜けてるんじゃないか」
低く呟かれた言葉に慌てて背筋を伸ばした関が、腰に巻いたホルスターをきつく絞め直してから、ぴしりと敬礼した。
「全然! 抜けてません! 相楽との共同任務! 相楽と力を合わせた共同任務!! 相楽と二人っきりで森を歩く共同任務!! 関大輔は! 全身全霊で相楽を守ります! そして、楽しい楽しい散歩道!」
「……問題外だったな」
はぁ、と呆れた溜め息を吐いて額を押さえた篠原に、メッセンジャーバッグを肩から提げた相楽は首を傾げる。
「エネルギー反応が高いのは、ここから北に向かった辺りなんですよね?」
問えば、額から手を離した篠原が頷く。
「おおよその位置に着いたら、木立が指示を出す。とにかくお前達は北に向かえ」
「北、ですね。了解しました」
頷いて、相楽もホルスターを腰に巻く。そこに警棒と銃を差してから、パーカーの裾を引っ張って覆った。
私服に銃、とはなかなか無い経験だ。
いつもの任務と違う部分が多すぎる。気を引き締めるために、大きく息を吸い込んだ。
「関、相楽、もしかしたら反UC派も既に探しに来てるかもしれない。鉢合わせたら、交戦しないで、こっちに連絡するんだよ?」
木立がそう忠告するので頷けば、隣にいる関は口を尖らせた。
「殴って気絶させちゃえばよくない?」
「……関」
篠原に睨まれ、関は慌てて苦笑いを見せる。
「冗談ですよ?」
ヘラリと笑いながら耳に小型の無線機を着ければ、関はそのままそそくさとバンから離れていった。
相楽も準備を終え、関を目で追う。
些か不安要素はあるが、自分よりも経験値の高い関に遅れないようにしなければ。
「相楽」
不意に篠原に呼ばれて反射的に顔を上げれば、高い位置から見下ろしている彼と目が合った。
「気をつけろよ」
妙に強い視線で見つめられていることが居たたまれない。
篠原に面と向かって心配されることは、慣れない。いつも怒鳴られてばかりだからか、気恥ずかしくなってしまう。
おろおろと視線を揺らしてから、ぎこちなく頷いた相楽は、篠原の視線から逃れるように関を追って駆け出した。
ざぁざぁと、まるで相楽たちを阻むように、森が風でざわついていた。
初めての、相楽の単独任務だ。
こくりと息を飲んだ相楽は、隣に立つ関ともに、樹海へと踏み出した。