Story-Teller
Y




遠慮がちにそっと離れた相楽の手を、無意識に掴んで引き止めた。戸惑い混じりに見上げてくる視線に、高山は半ば反省の苦笑を返す。


「……ごめんな。子供扱いしすぎだった」


そう言えば相楽は慌てて首を左右に大きく振り、眉尻をぐっと下げてしまった。


「すみません。高山さんは心配してくれていたのに」

「いや、相楽本人の気持ちが解って良かったよ。そうじゃなければ、ずっと一人で悩んで、取り越し苦労だったから」

「……」


何か言いたげに口を開いた相楽は結局音を発さぬままにぱくりとその口を閉じ、ゆるゆるとした緩慢な動作で空を見上げる。
その視線を追ってみれば、やはり限り無く青い晴天の空が広がっていた。時間が経つにつれて、その青は眩しさを増していって、もう片目を閉じて見なければ目がちかちかと悲鳴を上げるほどだ。

ほう、と一つ軽い溜め息を吐いてみれば、年下に気を遣わせてしまっていることが酷く恥ずかしくなる。
相楽本人にこんな話をするなんて、明らかにおかしい。思いがけず相楽が追ってきてくれたことに、内心では相当狼狽していたのだろうか。
柄にも無く愚痴ってしまったことに加えて、相手が十歳近く年下だったことも、情けなさに拍車を掛ける。晴天のせいだけではなく、体がじわりと熱を持った。


「良い天気だよな」


話をそらすために呟いた言葉は、あまりに暢気過ぎた。
もっと良い話題は無かったのか、と自分の口下手さに内心で後悔していると、隣で相楽が小さく口を開いた。


「……高校の頃も、よくこうやって学校の屋上で空を眺めてました」

「へぇ……好きなのか?」


高山が切り出した暢気すぎる話題への返答に、ふっと好奇心が沸きあがった。先程までの恥ずかしさが吹き飛ぶほどに。

基本的に相楽は相槌を打つばかりで、自分自身の話はほとんどしない。
相楽が極度の甘いもの好きであることも、彼から聞いたわけではなくて、開いたデスクの引き出しに大量に詰め込まれていたチョコレートのおかげで知ったようなものだ。
どんな話でも、相楽が自分の事を話そうとしてくれるのが、やけに嬉しかった。覗き込むと、相楽は空を見上げたまま僅かに微笑む。


「すごく泣き虫の先生がいて……その人が、こういう真っ青な絵に描いたみたいな空が好きだったんです。よく一緒に見てました」


そう呟いた相楽は、酷く幸せそうに目許を緩めている。
その表情は、相楽が任務の後に甘い物を食べている時の至極幸せそうな微笑みと酷似していて、見ているこちらまで釣られて頬が緩んでしまった。
相楽にとって、その相手は大事な人なのだと直ぐに解ってしまうような、愛おしさが溢れた穏やかな表情だ。


「相楽は、その人のことが好きなんだな」


感じ取った事をそのまま伝えてみる。すると、今までふわふわと幸せそうに緩んでいた彼の表情が、ピシリと凍りつくように固まってしまった。
ぎこちなくへの字に戻っていく相楽の口元を首を傾げて見つめていれば、どんどんと下がっていった相楽の視線は、ついに彼の足元にまで到達する。
露骨なまでにきょろきょろと左右に泳いでいる視線に気付いて、思わず苦笑してしまった口元を隠すように片手で覆った。


「……もしかして、恋愛感情だった?」


問えば大袈裟に揺れた肩に、ああ、なるほど、と頷いてしまった。


「相楽は年上好きなんだな」

「ちがい、ます」

「顔紅いぞ」


からかう様に言えば、慌てて手のひらで顔を隠してしまった。
実際は紅いどころか病的に青ざめていたのだが、それが面白くて相楽の手を顔から引き剥がしてみる。
青ざめていた顔が見る間に紅くなり、慌てて俯く相楽に笑みが漏れた。





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