Story-Teller
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「篠原は、合理的すぎる。そう言えば、"高山は考えが甘いからだ"って返されるんだけどな」


言いながら苦笑すれば、視界の隅で相楽が否定するように首を横に振った。


「……篠原は、指揮官だけじゃなくて、隊員の養成の素質もあったんだな。篠原が指揮すれば、もともと文句無い精鋭ばかり選んでたのに、さらに能力が上がっていった。すごいやつだよ、篠原は」


篠原がファースト・フォースの隊長になってまず初めに行ったのは、篠原自身が選び抜いてきたファースト・フォースのメンバー達を、徹底的に鍛え上げる事だった。
すでに充分すぎるほどに戦闘に長けた者ばかりだったが、篠原は更に個人の能力を上げる為に手を尽くす。それはそれは、鬼かと思う程に過酷に、厳しく、精鋭が根を上げてしまうほどに。

だがそんな篠原の荒療治は確実に隊員の能力を開花させて、今では『国内最強の戦闘集団』という地位まで登り詰めた。
やはり、篠原は凄い奴だと思う。


だが。


「……相楽は、まだ未成年で、まだ訓練生だ。未成年で訓練生だって言っても、ほかの訓練生とは比べ物にならない位に実力があるのは充分知ってる。でも、それでも相楽はまだ、未完成なんだよ」


相楽は黙って高山を見上げている。その視線を真っ直ぐに受け止め、首を横に振った。


「他のメンバーの様に実戦に駆り出して成長させるって言ったって、精神的な部分に支障が出るかもしれない。相楽には、これから伸びるっていう未知数な箇所も多いけど、その反面でどんな反動があるかも解らない」


前代未聞の『訓練生なのに精鋭部隊』という相楽には、強行手段での育て上げは辞めた方がいい、というのは高山の主張だ。
理由は、『どんな支障が現れるのかが全く読めないから』。
前例が無い分、慎重に訓練を行う必要がある。と、高山は思う。


「相楽を危険度の高い任務に配属させる時は、そうやって反論して来た、ずっと。……篠原なりに考えているって解ってはいるんだけどな」


篠原の事は信頼している。
それでも、この若い芽を潰してしまうことの方が、自分は怖い。


「……結局は、相楽を危ない目に遭わせたくないっていう我儘を通そうとしてるだけなんだな、俺は」


空を見上げて苦笑した瞬間に、相楽が高山の腕を掴んだ。遠慮の無い、強い圧迫感が襲う。
驚いて視線を下げれば、どこか不安そうに揺れる相楽の瞳が見上げていた。その表情を見た瞬間に、言わなければ良かった、と僅かに焦りが浮かぶ。
どう伝えたって、この話題は相楽に気を遣わせてしまうからだ。

しかし相楽は、高山の後悔とは裏腹に、はっきりと、しかし落ち着いた声で口を開いた。


「……俺は、早く皆に追い付きたいです」


目を見開けば、高山の腕を掴む力を弱めて、そっと視線を落としてしまう。


「未熟でも、力不足でも、俺もファースト・フォースの一員に選ばれたからです。一人だけ特別なんて、俺はイヤです」


小さく呟かれた言葉に、思わず息を飲んだ。





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あきゅろす。
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