オフィスの扉が荒々しい音を立てて開かれると、木立は完全に硬直してしまった。
相楽は、扉を叩きつける様に後ろ手に閉じた人物を見上げる。
眉間に深い皺を刻んだままオフィスを飛び出して来たのは、今の今まで篠原と言い争っていた高山だった。
扉を閉じると同時に相楽の姿を目で捉えた高山は、驚いた様に大きく目を見開き、それから気まずそうに視線をそらしてしまう。
相楽と木立に背を向けた彼は、そのまま大股で階段を駆け上がって行ってしまった。
無意識に高山を追い掛けようとした相楽の腕を、硬直したままだった木立が両手で掴む。木立は何も言わずに首を横に振り、手を離してからラボへと入って行った。
ただ相楽は、高山が姿を消した階段をジッと見つめていた。
──────………
……いっそ腹立たしいほどの青空だ。
オフィスから屋上まで一気に駆け上がってきた高山は、作り物の様に青い空を眺め、大きな溜め息を吐き出した。屋上を囲うフェンスの一つに指を掛けて、敷地内どころか都内一帯を覆う爽やかな青を睨む。
苛立ちと後悔で陰鬱とした心境とは裏腹な晴天は、沈んだ気持ちに拍車を掛ける。
こんなにも良い天気だというのに、爽やかさとは程遠い。雨でも降ってくれれば、その音を聞いて気持ちを落ち着かせられることも出来ただろうに。こんな晴天では、どうにも惨めだ。
何度目かの溜め息を漏らした頃、ふと背後から刺さっている窺うような視線に気付いた。
そういえば、もう昼の休憩が始まる頃だ。
屋上で昼食を摂る女子隊員も多いことを思い出して、フェンスから指を離した。副隊長とはいえ、精鋭部隊の幹部である自分が居れば、遠慮させてしまうだろう。
早々に場所を譲って退散してしまおう、と振り返り。
「……相楽……?」
屋上の入口で行き場のない迷子のように立ち尽くしている、小柄な部下の姿を捉えた。
屋上の扉に手を掛けたままの相楽はハの字に眉を下げて、何も言わずに高山を見つめている。上司同士の大喧嘩を見たのだから、萎縮してしまっているのだろう。
それでも、なぜか高山を追って来てしまったらしい。
彼の姿を見た瞬間に、酷く重かった心がフッと軽くなった気がした。まるで、風に吹き飛ばされてしまったように、一瞬のことだった。
「……励ましてこいって、吉村にでも頼まれた?」
無意識に綻んでしまった口許に片手を当てて、なるべく静かに声を掛けてみる。
すると、じっと黙り込んだ相楽は、思いきり首を横に振った。
「俺、空気読めないんで……」
「……ん?」
相楽は困った様に視線を左右にさ迷わせ、手持ち無沙汰な両の指を固く結んだ。
それからそっと顔を上げた相楽は、もう目をそらさない。こちらを見つめる視線は、彼らしい真っ直ぐな意思を持っていた。
「高山さんが心配だったから来ました」
空気が読めない、と前置きを付けたうえで彼が言った何の遠慮も無い言葉に、高山は思わず苦笑してしまった。