Story-Teller
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「だから! 俺が言いたいのはそういう事じゃない!」


ファースト・フォースのオフィスの手前を通り過ぎると同時に聞こえてきたのは、人目を憚ることも無い怒鳴り声だった。
その声に、相楽は思わず足を止める。相楽より先にオフィス隣のラボの扉を開いていた木立は、まずい、とでも言うように顔を歪めていた。


「じゃあ何が言いたいんだ、お前は! はっきり言えないんだったら中途半端に口を出すのはやめろ!」

「だからさっきから何度も言っているだろ! まだあの子に個人任務は早いって言ってるんだ!」


廊下に響き渡る二人分の怒声は、明らかにファースト・フォースのオフィスから聞こえて来ている。防音設備すら意味を為さぬほどの声だ。
一方は、相楽はもうとっくに聞き慣れてしまった、篠原の怒鳴り声だ。そして、もう一方は……


「……高山さん……?」

その声の主の名を相楽が呟けば、ラボ内に道具を置いてきた木立が、慌てて相楽の腕を掴んだ。オフィスの扉を見つめていた相楽がきょとんとして木立を振り返ると、彼は緩く首を横に振る。

「篠原隊長と高山副隊長だよ。相楽が来てからは、随分穏やかだったんだけどな……」

「……どういう事ですか?」


首を捻れば、木立は声を潜めた。その間も、篠原と高山が言い合う声は止まらない。


「ファースト・フォースが創設された頃から、篠原隊長と高山副隊長は衝突する事が多くて……まぁ、どちらも軍隊指揮の能力に長けてるから、隊長と副隊長それぞれ特有の意見もあるわけで……食い違う事も少なくないってことだよ」


言いながら、木立はぐいぐいと相楽の背を押し、をラボに入るよう促している。もうこの話題には触れるな、という事なのだろう。
しかし、相楽の知る高山は、こんなにも感情丸出しで怒鳴る様な人では無いはずだった。
いくら篠原の言い分に納得がいかないといえども、こんな、今にも殴りかかってしまいそうなほどの強い拒絶と猜疑を含んだ声を出すなんて、どうにも信じられない。
どうしても足が動かず、じっとオフィスの扉を見つめていた相楽は、急かすような声色で木立に呼ばれ、ゆるゆるとそちらへと視線を向けた。


「相楽はまだ配属されて半年しか経ってないんだぞ!? その任務に相楽を配置するのは危険過ぎる!」


途端に、高山の声で叫ばれた言葉に、目を細めた。
相楽の背から手を離した木立は、「ああ、まずいものを聞いてしまった」と言わんばかりにがっくりと肩を落とす。
自分の名前が出たことに耳を澄ませると、続いて篠原が声を張り上げた。


「"まだ"半年? "もう"半年も経ってるんだぞ! あいつは他の隊員より実経験が少ないんだ。手っ取り早く経験値を上げるには任務に出すのが一番だろうが!」

「もっと危険度が低い任務だってあるだろ?!」

「危険度が低い任務ばかり相楽に回せって? 甘やかせるのもいい加減にしろ、高山!」


一際大きく低く廊下に響いた篠原の声に、木立が大仰に肩を跳ねさせた。







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あきゅろす。
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