Story-Teller
teller is sub leader



今日は、随分天気が良い。


廊下の窓から見上げた空が、スプレーで塗り潰した様な淡い青な事に気付いて相楽は足を止めた。
見つめていれば、ぐいと身体を吸い込まれてしまって足元の感覚が危うくなりそうなほどに晴れ渡った青空は、ここ数日降り続いていた雨なんて嘘のようだ。

相楽の隣を歩いていた木立 創(きだち はじめ)が同様に足を止めて、相楽の視線を追う。眩しげにやんわりと目元を緩めて、いい天気だね、と穏やかに呟いた。


「今日は一日中、雲一つ無い天気らしいね。そんな日に片付けなんて手伝わせてごめんね、相楽」


申し訳なさそうにはにかんだ木立に慌てて首を横に振ってから、両腕に抱え込んだ段ボールの中身を見下ろした。
中にはごちゃごちゃと不規則に工具やら配線やら銅板だのが詰め込まれていて、今にも底が抜けそうな重さだ。
相楽にとっては何に使うのか解らないものばかりが詰め込まれた謎の箱だが、なるべく丁重に扱うよう指示されたということは、解る者にとっては貴重な品々なんだろう。

木立も同様に段ボール箱を抱えているが、相楽が持つ物と比べれば半分程の大きさだ。
しかし木立は、今にもぺちゃんと潰されてしまいそうな程に箱の重みに四苦八苦し、何度か立ち止まっては深呼吸を繰り返す。その度に振り返って気遣う相楽に対して「ごめんね」と苦笑する木立に、相楽はふるふると首を横に振って返した。



朝からオフィスの隅にうずくまって課題の消費に勤しんでいた相楽に、困った様に眉を下げて声を掛けてきた木立は、ファースト・フォースの後衛メンバーの一人だ。

相楽や篠原、高山、吉村、関、桜井が先頭を切って戦地を駆ける【前線メンバー】であるのに対して、【後衛メンバー】の木立は、前線の補佐や援護をするのが役目である。
木立は、前線メンバーを遠隔から的確に誘導する『オペレーター』だ。
篠原の指示を無視することが多い相楽を無線越しに優しくたしなめつつ、仲間達のもとへとオペレーションしてくれる木立を、相楽は信頼している。
精鋭部隊の隊員であるにも関わらず、どこかのんびりとした……形容するなら図書館が似合う、穏やかな性格である木立に安心しきっているのかも知れない。


そんな木立に頼まれたのは、『技術開発員』達が使う道具を、倉庫からオフィス隣に併設されているラボまで運ぶ手伝いだった。
ファースト・フォース唯一のオペレーターとして重宝されているとは言え、相楽、関に次いで若い木立は、専ら後衛メンバーの雑用を任されている。
同じ雑用係の苦しみを知っている相楽は、二つ返事で木立の手伝いに向かった。




倉庫から持ってきた箱を、よいしょ、と抱え直す木立は、額にうっすらと汗を掻いていた。それに気付いた相楽は眉を下げる。


「木立さん、そっちの箱も持ちますよ?」

「駄目だよ。後輩に重い方を持ってもらってるってだけでも情けないのにさ。これ位は自分で持つから!」


先輩の矜持なんだよ、と付け足して、木立は苦笑した。
こうしてせっせと重いものを運んでいるときの木立はどうにも助けてあげたくなってしまうような頼りなさが漂っているのだが、こうして自分に対してストイックな一面を見せられると、彼も紛れなく戦闘集団の一員であると思い出す。
とはいえ、そんな一面も、こめかみを伝う汗が吹き飛ばしてしまうのだが。

一度汗を拳で拭った木立は、苦笑して先を歩き出す。疲労で覚束無くなっている木立を追って、相楽もオフィスへと向かった。






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