Story-Teller
XIV



相楽が入隊したことで、ファースト・フォースは、明らかに空気が変わった。



相楽の前任の佐藤が、事件で負った怪我で退任せざるを得なくなったことで、敗北によって落ち込んでいた士気は取り返しがつかない程に落ちきっていた。

皆が怪我を負ったにも関わらず、一週間の休暇しか与えられず、身も心もボロボロのまま任務と警備を続ける部下達から、笑みは完全に消えていた。

他愛もない話で賑やかだったオフィスは完全に沈黙し、ただ日々の業務をこなすだけ。

既に彼等は限界を迎えていた。

今思えば、自分も相当疲れていたのだろうか。彼等を叱咤する気力も無かった。





佐藤が抜けて一人一人の業務にも負担が増えたことで、急遽一名採用するように上層部から通達があったのは、年が明ける二週間前だ。


適性のある人材を探している時間の余裕は無く、だが早く採用して人数を整えなければ、負担は増えたまま。
どうするべきかと悩んでいる時、ふと、養成所の訓練を見掛けた。


人材探しに困っているとはいえ、流石に候補生を精鋭部隊に入れるわけにはいかない、と目をそらそうとした時。
相楽を、見つけた。




小さい。体格は良くない。

だが、周りの候補生を軽々と放り投げる姿や、逆に投げられてもすぐに体勢を立て直して向かっていく勝ち気な視線に、目が離せなくなった。
その視線は、負ける前のファースト・フォースの隊員たちと同じ熱を持っていたからだ。誰が相手でも引かない、強い信念が灯った目だ。


すぐにオフィスに戻って、候補生の成績データを開いた。
歴代の候補生たちの中でも、圧倒的にずば抜けている運動神経。
まるで実戦を経験したことがあるような実践での戦闘能力。
冷静な判断が出来る落ち着きと、そしてあの目。

迷わずに、相楽を配属させる事に決めた。





無謀な独断だが、高山と吉村は何も言わなかった。

今思えば、すがる様な思いもあった。
何故か、この新しい仲間がファースト・フォースを立て直す様な確信があった。





──────────




相楽が初めてオフィスに入った日。

それは、事前の辞令交付の際に会っている高山と吉村以外の隊員達が、初めて相楽と顔を合わせた日だった。


『……え、なんか、小さい?』
『よ、養成所の候補生……?』
『……女の子……?』
『戦えるのか、この子?』


戸惑いを隠しきれない隊員達が、何を考えているのか手に取る様に解った。

そんな相楽に対する隊員達の不安げな表情は、次の日には消え去ることになる。





─入隊して早々、相楽は先輩である関を思い切り放り投げた。





確か関が「すっごい細いけど、もしかして女の子? 実は胸があるんじゃないよね?」等々、茶化したからだったはずだ。
茶化した、というよりは、純粋に疑問をぶつけただけだったのだろうが、半ばセクハラに近い言葉選びは、相楽の怒りに触れるには充分だった。


訓練場の空を軽やかに飛び、畳の上に思い切り叩きつけられた関の姿に、篠原は頭を抱えたのだが……


呆然としたまま畳の上に座り込んでいる関の前に仁王立ち、相楽が口を開く。



「俺と違って随分屈強そうに見えたんですが、"女子"にぶん投げられちゃうんですね。先輩」と。


皮肉がたっぷりと混じった台詞を言い放ち、冷ややかな目で関を見下ろしている相楽に、ぽかーんと口を開けたままだった隊員達は、次の瞬間、爆笑した。


ある者は腹を抱えて。

または床に倒れ込みながら。

笑いすぎて過呼吸になる奴までいた。





彼らが笑った姿を見たのは、あの事件以来、実に一ヶ月ぶりだった。






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あきゅろす。
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