「─何も出来なくて、すみません」
不意に呟いた相楽が顔を上げたことで我に返った。
篠原を見つめる相楽からは、普段の気だるい表情など消え失せ、やけに真摯的な視線をそらさない。
黙って見つめ返せば、相楽は静かに続けた。
「俺は、それを聞いても何も出来ません。聞いたところで結局、俺は力になれないのが解りました。皆が怪我を隠してまで俺に接していたのも、負担になっていたのも、俺はどうやって応えればいいか、なにも浮かんでこない」
思わず、目を丸めてしまう。やはり相楽はジッと篠原を見つめたままだ。
「前任と同じ力量が俺にあるのかどうかも解らない。結局のところ、俺は『経験していない』から、何を言っても気休めにしかならないって解ってます。だから俺は、何も言わないことにしました」
一気に言い切り、それからフッと視線を下げた相楽に、僅かに戸惑う。浅く下げられた頭を見下ろした。
「教えてくれって言ったのは俺なのに、勝手な事ばかり言ってすみません」
頭を上げた相楽はくるりと背を向け、すたすたと早足で歩き出す。その先にあるのがオフィスの出入り口だと気付いて、慌てて手を伸ばした。
細い手首を掴んで引き止めれば、不思議そうに眉を寄せている。正直、そんな表情をしたいのは篠原の方なのだが。
『自分には何も出来ない』、『皆の負担になっている』、『気休めしか言えない』?
まさか相楽からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったから、完全に虚を突かれてしまった。
篠原が相楽に対してどういう評価をしているのか。その真逆を、相楽本人が言ってきたからだった。
きょとんとしたままの相楽を見下ろしたまま、どう返せばいいかの僅かに迷う。
言葉にするには些か戸惑うものばかりが脳内を巡っていた。
それは相楽に対する篠原個人の評価であり、ファースト・フォースの隊員達からの相楽に対する揺るがぬ想いでもあった。