Story-Teller
XI



「相楽」

風早が呼び、顔を覗き込んでくる。戸惑ったまま見つめ返せば、困った様な微笑を返された。


「どうした? 怖くなったのか?」


茶化す様な風早の声に、ゆるゆると首を横に振る。怖いわけでも無いし、怖じ気づいたわけでも無い。


「……俺がファースト・フォースに入る、ほんの一ヶ月前にそんな事があったなんて、知らなかったから……」


一度そこで言葉を区切れば、風早は首を傾げて見つめてきた。キュッと唇を噛み締めてから再度口を開く。


「皆、怪我も完治してなかったはずなのに、誰も弱音なんか吐いてませんでした。だから、俺は全然気付かなくて……もしかしたら、無神経なこともしたかもしれない」


知らなかったとは言え、大怪我を負ったままの高山達に負担を掛けていたのは間違いない。
皆、相楽には快く仕事を教えてくれていたが、それも全て負担になっていただろう。
相楽が知らないところで痛みに堪えていたなんて知らず、能天気でいた自分が許せなくなった。


しかし、風早が軽く笑ったことで、眉を寄せたまま顔を上げた。風早は酷く柔らかに微笑んで、相楽の髪を撫でる。


「いいんだよ、それで」

「……」

「あいつら格好付けたがりだから、やせ我慢させとけばいい。それだけ相楽には知られたくなかったんだよ」


風早の指が頬を伝い、擽ったさで身を捩ると、その手はくしゃくしゃと相楽の前髪を掻き混ぜる。
目を細めて見つめた先で、風早は口角を緩めていた。


「ぼろぼろだったファースト・フォースが、今もまだ戦っていられるのは、相楽が居るからだ」

「……俺?」


問い返せば、頷いた風早がベッドから立ち上がった。

話している間にポットで沸かした湯を、ココアの粉末と共にカップに移し、相楽に押し付ける。
熱い湯気の立つカップを受け取りながら眉を寄せている相楽に、風早は腰に手を当てて溜め息を吐いた。


「相楽が来てから、あいつら、あの事件の前より良い顔してる」

「………」

「前は、本当に『戦闘集団』って感じで、いつもピリピリしてたんだよ。余裕が無い、っていうか……自分の身を守りながら任務に出るので精一杯だったんだろうな」


理解できずに首を傾げている相楽に、風早は眉を下げて苦笑してみせた。


「篠原が相楽をファースト・フォースに引き込んだのは、俺は正解だったと思ってる。じゃなきゃ、ファースト・フォースは立ち直れずに壊滅してたからな」

「……俺は、何もしてません」

「だから、それでいいんだって」


風早は言いながら相楽の手からカップを取り、中身を一口啜ってから、また手の中にカップを戻した。


風早の言い分に不満そうにしている相楽は、ふぅ、とカップの中の熱いココアに息を吹き掛ける。
湯気で曇った眼鏡の奥で水面に映った自分は、納得のいかない顔をしたままだった。





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あきゅろす。
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